第18話 ゆきるは力に目覚める 後編(変顔)
レストランにつくと、パバリ王は、メニューも見ずに注文をして行った。
ヤミー殿下は、僕たちに色々と話をしてくれた。
「何百回もこの店にきてるからね。
美味しいメニューが何かもう知り尽くしているんだ。
鶏肉にカリカリの衣がついて、肉汁を中に閉じ込めた料理が美味しいよ!
この時代は、米食だから白米に合うよ。
最初の市場の大道芸も、相当やり込んでる。
一番稼げる方法を何千回か試しているうちに、僕が観客を集めて、ペギルが豪商ソナンの孫娘を治す、というのが一番稼げることが分かったんだ。
最初は、ペギルがソナンの孫娘の病気を治すのに2時間以上かかっていたんだ。
今日は、新記録!30分くらいで治せたね。
僕たちは、死ぬか、3日目が過ぎれば、必ず同じスタート地点に戻る。
スタート地点は、必ずあの市場の雑踏だね。
毎回必ず同じ日の同じタイミング、雑踏にいる人も全員一緒なんだ」
ピカリ殿下が、混乱しながら言った。
「どういうことだ?過去に来たと思ったら、同じ3日を繰り返す?僕の記憶と精神はずっとつながったまま??」
みちなは、得意そうに言った。
「これはきっと平行世界をループしているんだわ。
3日経つと、3日前にそのまま戻る。
きっと、未来につながる歴史では、わたしたちはこの時代に存在しない。
でも、どうやって大袋に入る前に戻るの??
もう私の名前をポンコさんが書き換えたのかしら。
しょうこは、わかってるのよね?」
「もちろんよ。
あと、ゆきるも分かってると思うけど、
中に入ってしまうと大袋に名前を書いていても、もう出られないの。
あれは、ブラフよ。
外に出せるのは、大袋の外から大袋に触れている人だけ。
後ろからこっそりついてきているポンコさんに聞こえるように、わざと言ったの。
大袋に書いてある名前をみちなからポンコさんな名前に書き換えてもらうためにね」
おれは、驚きながら不満を漏らす。
「おいおい、また敵をだますには、味方からかよ。
ちゃんと話しておいてくれてもいいだろ?
大袋の中でみちなが出る指示したら、大袋から出れるんじゃなかったのかよ。
それになんでわざわざ、ポンコさんに名前書き換えさせる必要があるんだ?」
しょうこは、やっぱり分かってなかったのね、と言いたいみたいな顔をしていた。
みちなは、顔にご飯粒をつけながら、ニヤニヤしながら言った。
「川の中の大岩の上で話してたわよ。
ゆきるが理解できてなかっただけでしょう。
わたしは、ちゃんと分かっていたわよ」
え?そうだったっけ?
しょうこの話は難しすぎて、よく分からないことが多い。
むしろ、みちなが話について行けていたとは、驚きだ。
しょうこは、話を続けた。
「今頃、ポンコさんは、大袋に自分の名前を書いているわ。
そして、得意気にペテニル女王に報告しにいっているはずよ。
私たちをまんまと帰らずの大袋にいれた!ってね。
ここまでは、ほぼ間違いないわね。
ポンコさんは、すぐにペテニル女王に会うでしょう。
3つの鐘が聞こえたから、ペテニル女王は、悪魔アスタロトに身体を乗っ取られている。
アスタロトは、イケニエである私たちを、すぐに大袋から出してこいって、ポンコさんに言うでしょうね。
もう、イスから立ち上がれないことに気づいているかしら。
気づいていないかもしれないわね。
ペテニル女王は、ポンコさんをすぐ殺すかもしれないし、殺さないかもしれないわ。
ポンコさんは、自分しか大袋から私たちを出せない、とか言って命乞いをするかもしれないわね。
1番最悪な想定だと、ポンコさんが、宝物金庫の爆弾で大袋ごと破壊するかもしれないわ。
そうするとおそらく、私たちは、大袋と一緒に、消滅する」
ロジペさんが、冷静に意見を言った。
「ポンコは、強欲で卑しい小物です。
自分の名前を書いた宝物を爆破はしないでしょう。
必ず保身のために動きます。
皮肉ですが、その点は、信頼できますな」
しょうこは、まだまだ話を続けた。
「プップさんの部下には、最悪の場合、ポンコさんを最低5時間足止めするように伝えているわ。
タイムリミットは、こっちの時間で6日と6時間ね。
私たちは、この間に悪魔ルシファーを倒す武器を手に入れて、元の時代に帰ればいい。
もしかしたら、私たちが武器を手にする前に、ポンコさんが私たちを大袋から出す可能性もあるわ。
これもまずいわね。
避けたいわ。
ロジペさんの部下には、元の時代で2日経って悪魔の契約の期間をやり過ごしたら、大袋の名前をロジペさんの部下の名前に書き換えて、大袋の外に私たちを呼び出してもらうように頼んであるわ。
これは最後の保険ね。
そして、うまくいけば、私たちが武器を手にして元の時代に戻る前に、ポンコさんは、アスタロトに身体を乗っ取られたペニテル女王をロジペさんとプップさんの部下と一緒に倒している計画よ。
ロジペさんの部下には、ポンコさんがアスタロト討伐に成功すれば、ピカリ殿下が第1家老の座を保証するという手紙を託してあるわ。
すべてはロジペさんとプップさんが予想するポンコさんの行動次第だけど。
でも、この計画、こんなにポンコさん頼りで大丈夫かしら?」
ロジペさんは、呆れたように言った。
「ポンコを信頼して任せるなんて、世も末ですな。
しかし、ポンコの行動原理は単純明確なので、ポンコの行動は予測しやすく、また、信頼できますな。
うまくすれば、イスに締め付けられているアスタロトを倒してくれるでしょう。
ポンコは、兵士さえ強ければ、作戦指揮は、なかなか上手いのです。
わたくしもまさかの待ち伏せを受けましたし。
腐っても第1家老ですな。
ま、当てが外れても、わたくしたちが大袋から出て、アスタロトを倒すか、イスが勝手に倒してくれるかもしれません。
そして、何より、ルシファーを倒すには、やはり武器が必要ですな。
手持ち無沙汰では、まず勝てますまい。
とにかく、わたくしたちは、ルシファーを倒す武器を得て、ここから出て、元の時代に戻らなくてはなりませぬ。
問題は、それがあまりにも・・・」
おれは、熱々の料理に夢中でかぶりつく。
ありがたい、白米だ。
やっぱりお米は、うまい。
うっかり、ぐらぐらしている乳歯で噛んでしまって、グキリとなる。
でも、まだ最後の乳歯は抜けてはこない。
おれは、しょうこの長々とした説明の意味が分からなくて、聞き返す。
「え?待って、待ってくれよ!
結局、どういうこと?意味わからないよ。
つまり、どうやって、大袋に入る前の時に戻るのさ?
え?おれたち、帰れないの?」
しょうこは、気まずそうに言った。
「帰れるのは帰れるはずよ。
でも、武器を持たずにただ帰るだけでは、結局ルシファーにやられて全滅してしまう。
約束の期限をやり過ごしても、逆恨みで殺されるかもしれないし。
だから、私たちは、ニンゲンの国の宝物庫の中で、ルシファーを倒す武器を見つける必要があるわ。
その武器は、ずばり、魔法の木の種よ。
手のひらくらいの大きな魔法の木の種を宝物金庫の中で見つける必要があるわ。
そして、大袋に私が帰る時代のコードを書き込めば、元の時代に帰れる。
大袋に書き込むコードは、解読済みよ。
それで、ルシファーを倒せば、計画は成功よ。
大きな問題は・・・」
しょうこが話を終える前に、パバリ王は、興奮して叫んだ。
「おおお!やっぱりそうか!
わしの予測は、正しかった。
わしは、9000年間、100万回、この地獄を繰り返してきたぞ。
そして、ニンゲンの国の宝物庫に、大袋があるはずと考えて何十万回とトライてしきた。
まだ1度も成功してはおらんが。
門番もレベルX2体で相当強いが、結局魔帝マギルが現れて全滅してしまう。
魔帝マギルは、おそらくレベルXXじゃ。
レベルXのわしとペギルが全く歯が立たん。
でも、そうか、やっぱり、あそこに行けば、元の時代に帰れるんじゃな!
フォフォフォフォ!
しかも、あの大袋を使いこなせる者までここにおる!
聞いたか?
ヤミー!プッチ!
これは、希望じゃ!」
しょうこが何か言おうとしたその時、レストランの屋根が崩れ落ちてきた。
レストラン倒壊して、店内は、悲鳴で満ちあふれた。
そして、店の中心にあった大きな柱が倒れてきた。
危ない!
おれは、みんなを守るんだ。
最近は、仲間に守られてばかりな気がする。
飛行機の中で、父が自分の身体を盾に家族を守ったのを思い出す。
気がつくと、みちなとしょうこに覆いかぶさって、2人を守っていた。
背中に柱が倒れてぶつかる。
強烈な鈍い痛みが背中に襲いかかる。
それでも、おれは、なんとか笑顔を作ろうとした。
「ぷぷぷぷッ!ゆきる、なんで変顔なの?
あはははッ!」
みちなは、痛みを我慢するおれの精一杯の笑顔を見て、大爆笑していた。
あぁ、そうか、あの飛行機の中で、父も背中に何か痛みを受けていたんだ。
それでも家族に心配させまいと、笑顔を作ろうとしていたんだ。
泡をふき、白目になりながらも。
父は、確かにそういう男だった。
そして、おれには、その血が流れているんだ。
「お父さんッ!!!うぉぉぉぉぉおおお!!」
突然おれの身体の中で、力が爆発した。
筋肉が何倍にも力強くなったみたいだ。
おれは、直径2メートル、長さ15メートルはある柱を払い除けた。
周りは、チリやホコリが舞って、真っ白で何も見えない。
「ぼうや、なかなかやるじゃない。
2日目でレベル4の発現は立派よ。
異常と言ってもいいわ。
これは、鍛えればなんとかなるかもだわね」
ペギルさんの声が聞こえる。
その後で、聞き覚えのある、下品な声が聞こえる。
そして、何よりもこの不快な臭さ。
白いチリの煙のせいで姿は見えないが、おれには、すぐ分かる。
そうだ、この臭いは、ウゲッ、うん○丸ッ!!
だんだん白い煙が落ち着いてきた。
床に散らばった料理は、その場で急速に腐敗したみたいだ。
レストランにいた人達は、どんどん倒れていった。
そうか、こいつも今日を起点として復活していたんだ。
「うひょひょひょ!!
みんな虫ケラのように死んだかな!?
死んで、我の下僕となれ!
我の名は、ベルゼビュート。
さっきはよくもハエの姿のまま、潰してくれたな!
さんざん、我をコケにしよって!
今日は、完全なる我の力にひれ伏すがいい!
思い知れ!
うひょ!うひょひょひょひょ!」
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