第17話 ゆきるは力に目覚める 前編(再会)

「アヒャヒャッ!ヒャヒャヒャッ!アァヒッ!」


青空の下、プップさんは、見慣れない街の雑踏の中で壊れたように笑い続けていた。

プップさんの目は焦点が合っていないみたいだ。

さらに、口からよだれを垂らしながら、身体をワナワナと震わせていた。


周りを見渡すと、10メートルほどの砂利道の両側に、色とりどりの果物や野菜がいくつもの店で売られていた。

肉を売る店や、家畜を売る店まであった。

慣れないスパイスや、屋台で作られる何か美味しい料理の混じり合った、異国の匂いが充満していた。

往来の人の数も多かった。


みな、見慣れない文化の服を着ていたが、周りの人から見れば、おれの服も奇抜に見えただろう。


市場のすみには、廃人のようにうずくまる人が何人も見えた。


まだプップさんは、ケタケタと笑い続けていた。


おれは、何がなんだかわからない。

どうして、こうなったんだ?!


「お兄ちゃん!

どうしてここに?

あぁ、辛いことがあったのね!

心が壊れる気持ち、わたしも分かる。

わたしもそうだったから」


プップさんを30歳くらいのお姉さんが抱きしめていた。

お兄ちゃんと呼ぶからには、プップさんの妹のプッチさんなのだろうか。


みちなは、驚きながら小さな声で言った。


「もしかして、プッチさん?プップさんの妹の。

でも、なんで生きてるの?

生首になっていたはずじゃ?!

それに、あれ?ピカリ殿下が2人?!

みんな生き返ってる?

え?ど、どういうこと?」


「僕はヤミーだよ。

ピカリも大袋の中に来ているの?

じゃあ、王位はどうなるのさ?

さては、ペテニル女王の仕業だな。

あの悪女め!」


「ヤミー!生きかえった?!

さっき、生首になっていたよ?

あれ、でも僕より小さいな。

3年前のまま??

ここはあの世か何かなんだろうか。

ロジぺ、プップ、ゆきるもみちなも、生き返っている。

僕は、夢でも見ているんだろうか?」


「ピカリ、ここは、夢でもあの世でもないよ。

僕が生首になっていたのは、知らないけど。

魔帝マギルとエルフにやられた後に、生首にされたのかな?

ピカリ、会いたかったよ。

この大袋の中では、この青空の日、BML877年8月18日を起点として、

生きていても、死んでも、身体は大袋に来た時のままで、ここに戻るんだ。

良くも悪くも、記憶も精神も継続するから、精神年齢は上がっていくけどね。

魔法のレベルも上がっていくし。

だから、僕の身体は9歳のままだよ。

ピカリは何年からきたの?

見ると2、3年は経ってそうだけど」


「僕は、ヤミーが行方不明になってから3年後からきた。BML1140年9月2日からきたよ」


「やっぱり、そうか、そのくらいだね。

ピカリ、僕は、大袋の中でもう90年分くらい時間を過ごしているんだ。

1万回は、青空、黄色い空を過ごしたよ。

3日目の赤い空までは、あんまり見ないけどね。

もう1万回以上も、死んで、生き返ってを繰り返してる。

精神年齢は、もう100才近いんだ」


それを聞いてみちなは悲鳴をあげた。


「えー!!

じゃあ、ここにいると早く歳をとっちゃうの??いやだ!

あ、でも身体の時間はそのままなのか。

それならいいか。

でもやっぱり、やだな。

わたしは、もっと大人の身体になりたいのに」


みちなはそう言って、自分で自分の発育のいい胸を、わし掴みして揉んだ。


おれは、恥ずかしくなって、みちなから目をそらす。


「あー!ゆきるは、わたしをそう言う目で見てたんだ。

いやらしい。変態ね!

これからは気をつけないと。にしし」


「フォフォフォフォ!

若くて意気のいい新入りが入ったのう。

ちと、若すぎるが。

初日の試練を乗り越えたものがこれほどいるとは。

一人は、正念場じゃな。

このまま廃人となるか、気を持ち直すか。

どう視えるかな、ペギル?」


「パバリ王さま、ヤミー殿下が話されていた双子のご兄弟のピカリ殿下の仲間たちのようです。

危険はないと思いますが、まだわかりませんわ。

あの剣士と筋肉男は、日頃の鍛錬の結果でレベル3くらいの実力はありそうですね。

筋肉男は、まあ、闘志があればの話ですけど。

残念ながら、この2人は、魔法の素質が0ね。

この魔素に満ち満ちた時代に来ても、魔法は一切使えないわ。

ピカリ殿下は、もうレベル1、標準より優秀ですわ。

ヤミー殿下と同じく時間の素質ね。

もう時間のカウントくらい、できるかも。

あとの3人は、なぜか超強力な水の耐性がついているわね。

男の子と背の高い女の子は、私と同じ生命の素質ね。

あれ?おかしいわね、すでにレベル3だわ。

そんなこと、初日にレベルXでも倒したとしても、ありえないはずだけど?

身体の組成が、私たちとちょっと異なるようにも視えるわ。

でも、小さい女の子は、そもそも魔法の素質が0みたい。

いずれにせよ、なにか悪意があるようなら、私がまとめて一瞬でひねり潰せますわ」


なんか、とてつもないオーラを放っているパバリ王と呼ばれる老人とペギルと呼ばれる30才くらいの女性が不穏なことを言っている。


ひぇー!!

ひねり潰す?おれたちを?

ヤミー殿下の仲間は、おれたちの味方じゃないの?


パバリ王は、目をギロリとしながら、あいさつをしてくれた。


「わしはパバリ王じゃ、こちらの女性は、ペギル。

よろしく頼むぞ。

ヤミーとピカリは双子じゃったな。」


そして、ヤミー殿下は、得意げに話し始めた。


「1万回も生死を繰り返していると、そのおかげでこんなことができるようになったよ。

パバリ王さま、ペギル、いつものやつ、行きますよ!」


そういうとヤミー殿下は、ニヤリと笑いながら、手に持っていたりんごを宙に浮かせた。


え?

手品?超能力?

いや、さっき魔法がどうとか言ってたっけ?


そのまま、ヤミー殿下は力を解放するように手を挙げると、一瞬で2メートルほどの高さに

自分自身を浮かせている。


気がつくと雑踏の中に人だかりの円ができて、大道芸人のように拍手喝采を浴びている。

そして、投げ銭がたくさん投げ込まれていた。


そして、その投げられた投げ銭は、ヤミー殿下の近くで浮遊している。


観客は、大歓声だ。


パバリ王は、慣れた口調で、観客を盛り上げた。

王様らしい気品ある派手な服装も、手慣れた客引きで芸人のようにも見えた。


「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。

これから見せるのは世紀の大秘術、空中浮遊です!

わずか9才の子供がなんと!

みなさまご存じの人間の到達限界と言われているレベル5!

そのレベル5の魔法を見せますぞ!

これは、なかなか見れませんぞ!」


ペギルさんは、どこからともなく何十羽もの鳩の群れを放った。


ヤミー殿下の周りで、鳩の群れが静止すると、壮観な光景に目を奪われた。

そして、観客は、大歓声と共に、大量の金銭を投げ込んだ。


「何してるの!ぼけっとしてないで、早く拾って!」


ペギルさんは、小さな声で、おれに急かすようにそう言った。

パバリ王は、どんどん投げ銭を促していた。


おれは、訳もわからずザラザラとした砂を払い落としながら、投げ銭を拾う。

みちなは、ピカリ焼きの空袋いっぱいに紙幣を集めていた。


「それでは、皆様、今日は特別にこのペギルがレベル5の更に上、レベルXの術もお見せいたしましょう!

どなたか、大怪我や大病の方はいませんか?

どの医者でも、普通の再生の魔法使いでは直せないような!」


レベルXの一言に、観衆はどよめいていた。

すると、身なりの良い上品なおばあさんが、手を上げた。

背中には、病気なのか、ぐったりしている女の子をおんぶしていた。


「私は、この街で長く商売をしております、ソナンともうします。私の10才の孫娘は、不治の病です。

レベル5の治癒の魔法使いに、家を買えるくらい大金を支払いましたが、治りませんでした。

この子は、1年前から身体が痙攣して、言葉も話せません。

治せるなら、いくらでも払います!

どうか、お願いいたします!」


そういうと、ソナンさんは、ペギルさんの前に孫娘を横たわらせた。


「どれ。これはひどいわ。

何かとんでもなく身体の中が乱れているのね」


ペギルさんは、目をつむって手をかざしながなら、女の子の身体の中を入念に調べているようだ。


しょうこは、冷めた口調で吐き捨てるように言った。


「あんな手品みたいなもので、病気が治せるはずがないわ。無理に決まってる。ばかばかしい」


ペギルさんは、まだ手をかざしていた。

15分くらい経っただろうか、ふぅっと息を吐くと、ペギルさんは、汗だくになっていた。


やっぱり無理だったんだ。

手をかざすだけで病気を治すなんて。


100人近くは集まっているだろうか、じぃっとその光景を見守っていた。

時間が経つにつれて、集まった人達にも、落胆の空気が流れている気がした。

1人、また1人と観客が離れていった。


ペギルさんは、また15分くらい手をかざしていた。

観客は半分以上、どこかへ行ってしまった。


「おばあちゃん?

おばあちゃん!

わたし!身体が動くわ!

おばあちゃん!!」


「おお!なんてこと!本当なの?夢じゃないのかい?

また、お前の声が聞けるなんて!

身体も動くのかい?

おお、おお。もう、なんて言ったらいいのか・・・」


ソナンさんと孫娘は、わんわんと泣きながら抱き合っていた。

観衆の中にも、涙ぐむ人がいた。


おれも少し感動して、涙が出る。


ペギルさんは、医者のような丁寧は口調で言った。


「喜ぶのは、まだ早いです。

確かに、この女の子の身体の中は、これで整いました。

でも、長い時間寝たきりで、身体の機能は低下しています。

魔法で筋肉も多少は付けておきました。

でも、まずはゆっくり休んで、少しずつ身体を慣らしていく必要があります」


他にも細々としたことをペギルさんは、ソナンさんに伝えていた。

ソナンさんは、泣きながらペギルさんの手を握った。


「ありがとうございます!

本当にこんなことがあるなんて。

まだ信じられません。

近くに私の館があります。

御礼をいたしますので、お越しください。

お前たち、この方を館に案内しておくれ」


ソナンさんがそういうと、周りで控えていた召使いが5、6人が、前に出てきた。

ソナンさんは、また孫女をおんぶすると、先に歩いて行った。


パバリ王は、大歓声の観客にお礼を言って、場を締めると、お金を拾い終わったおれたちに言った。


「よし充分軍資金は、集まったな。

ペギルは、豪商ソナンばあさんのところへ行って、謝礼をもらってくれ。

わしらは、いつものレストランで、まず飯じゃ!

お前たちも、いくぞ。詳しい説明は後じゃ」


パバリ王は、うずくまるプップさんに手をかざすと、風船を持ち上げるようにプップさんを持ち上げて、おれに手渡した。


おれは、慌ててプップさんを受け取ると、あまりの軽さにびっくりした。


おれたちは、はぐれないように急いで、パバリ王とヤミー殿下、プッチさんについて歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る