第15話 みちなはあんこを食べながら大袋に向かう

わたしたちは、宝物金庫に向かって、薄暗い廊下を歩いていた。


わたしは、ペテニル女王の怖さが、じわじわと気持ちをふさいで、一言も出てこない。

それにしても、ゆきるとしょうこは、すごい。


さっきとっさに、ゆきるがペテニル女王に何も言わなかったら、あの場でみんな殺されていたかもしれない。

あぁ、恐ろしい。


しかも、あのやり取りは、事前に立てた計画になかった。

ゆきるのその場の判断のおかげで、助かった。


なによりも、今も全てしょうこの計画通りに進んでいる。

しょうこは、ピカリ殿下とロジペさんの話を聞いて計画を立てた。


川の真ん中にある大岩の上で、わたしたちは、たくさんのことを話し合った。

しょうこは、ピカリ殿下とロジペさんと情報を出し合って、作戦を立てた。

そして、ピカリ殿下は、わたしたちを信用して、しょうこの立てた計画に乗ると言ってくれた。

そして、ロジペさんが足の速い兵士を先に城に向かわせて、城にいる協力者に準備をさせた。


しょうこは、大活躍だ。

しょうこは、暗がりの王の館で、光の国の宝物金庫の目録を読んで覚えていた。

そして、しょうこは、ピカリ殿下とロジペさんから話を聞くと推理を始めた。

しょうこは、情報を整理して、ピカリ殿下の弟ヤミーが宝物金庫で姿を消して見つからないことから、それはレベルXボリュームXの日へのゲートに入ってしまった可能性が高いと判断した。


そのゲートは、大きな袋の形をしているそうだ。

その袋の正しい使用方法も、しょうこは、本で読んで知っていた。

しょうこの考えでは、わたしたちは大袋に入って、ヤミー殿下が無事であれば、会うことができるということだった。


その話をきいて、ピカリ殿下とロジペさんは、わたしたちの計画に協力してくれることになったのだ。


しょうこは、宝物金庫にあるさまざまな品物の中から、計画に使用するものとして、大袋と一緒に封印されていた、魔法のイスを選んだ。


そして、城にいる協力者は、ペテニル女王の玉座を魔法のイスに取り替えた。

ロジペさんの提案で宝石をたくさんつけておけば、喜んで玉座を変えることを受け入れるだろうということだった。


ペテニル女王は、歴史はあるが質素で布のほつれた玉座をあまり気に入っていなかったらしい。

そして、ロジペさんの読み通り、玉座を魔法のイスに取り替えることができた。


この魔法のイスには、ゆきるの名前を刻み込んであった。

イスに名前を刻み込んだものが「立ち上がって良い」と言わない限り、立ち上がれない魔法のイスだ。

無理に立ち上がろうとすると、イスがどんどん座っている人を締め付けるらしい。


今頃ペテニル女王は、イスから立ち上がれないことに気づいたかもしれない。


ロジペさんは、ピカリ殿下に声をかけた。


「ピカリ殿下、先ほどのペテニル女王への勇気ある発言、素晴らしかったです。

しょうこ殿の計画は、今のところ順調ですな。

現在プランB7です。

驚くべきことです」


ピカリ殿下は、ヒソヒソと答えた。


「ロジペ、発言に気をつけろ。

前を歩いているプップに聞こえてしまうぞ。

まだ油断は禁物だ。

周りにいるのは、プップの兵士ばかりだ。

まだ、僕は、生きた心地がしない」


「このプップ、ちゃんと聞いておりますよ、ピカリ殿下。

しかし、ご安心ください。

わたくしは、ピカリ殿下の思想の信奉者でございます。

今まで、ずっと隠していて、申し訳ございませぬぅ。

それに、実は、ヤミー殿下の侍女をしていた妹プッチも

、3年前ヤミー殿下と一緒に行方不明なのです。

今回、こっそり色々準備を指揮した協力者は、このわたくしです」


「えええっ!

プップ、そうだったのか?!

僕は、ぜんぜん、知らなかったぞ!

ロジペ、どうして今まで黙っていた!」


「ピカリ殿下、申し訳ございません。

プップは、女王の腹心として立ち振る舞ってもらっております。

敵をダマすには、まず味方から。

もしバレてしまえば、プップの命にも関わります。

どうか、お許しください。

それにしても、ゆきる殿のペテニル女王さまへの発言のおかげで助かりましたな。

危うく、全員、その場で処刑されるところでした。

段取りにないことだったので、ヒヤヒヤしましたが」


「ふっふっふ。おれもドキドキだったよ。

本当に、ペテニル女王、怖すぎる!

でも、ここまでなんとか計画通りだね。

川の真ん中の大岩の上で、ピカリ殿下に剣を向けられた時はどうなるかと思ったけど」


「おぉ、あの時は本当にすまなかった。

僕は、どうしてもロジペを助けたかったんだ。

今も、ロジペの恩人に剣を向けたことを恥じている。

僕を許してほしい」


「ゆきるは、身体を張って、私とみちなを守ろうとしてくれたわよね。

カッコよかったわよ。

ピカリ殿下とロジペさんから話を聞いて、私の頭の中のパズルのピースは、繋がり始めたわ」


「本当にゆきるって、たまにカッコいいよね。

そのあとピカリ殿下にもらった、ピカリ焼き、美味しかった!

それに、新しい友達ができて、わたし嬉しい!」


「思えば僕には、友達がいなかったな。

少し照れるが、ゆきるもみちなもしょうこも僕の友達になってくれて、すごく嬉しいぞ!

みちなには、ピカリ焼きをもう一袋あげよう!」


プップさんが、金ピカの門の前で立ち止まった。


「さぁ、皆さま、光の国の宝物金庫に着きました。

危険なものがたくさんありますので、絶対に手は触れないように。むむむぅ!わたくしの筋肉にかかれば、こんな門を開けることなど、余裕です!」


分厚い金属製の大きな門を、プップさんは、筋肉を盛り上げてギギギギィと開けた。


わたしは、恐る恐る中に入る。

そこで、わたしは、眩しいばかりの宝の山を見た。


「な、なにこれ、どうしてこんなに光輝いているの??

部屋の壁の全部、金ピカだし!明るすぎる!絵に描いたような金銀宝石の山だわ!わたしにも、ひとつ何かちょうだい!!うほほーー!!」


「みちな、勝手に持って行ったらダメよ。

また罪に問われてしまうわ!」


「でもすげーな!

おれは、奥の部屋の方が気になるけど。一体何があるんだろう。

うげ、なんか骨董品とか、ゴミみたいなものがたくさんあるな。全部壊れてそうだし。これが落下物?

おれには、ガラクタにしか見えないけど」


プップさんが、金庫の中を案内するように先導して歩いて行った。


「ここには、今はもう失われてしまった光の魔法が生きております。

金銀の財宝などは、この宝物金庫のなかで、もっとも価値の低いものです。

この奥にはある落下物は謎が多く、わたくしにも、よくわかりませぬぅ。

価値が測れない貴重なものばかりです」


わたしたちは、奥の部屋に入って行った。


わたしは、壮観な所蔵品に、圧倒された。


「な、なに?これ?」


これはまるで、国立博物館の保管庫だ!

古代の羅針盤やヘンテコな機械類、見たことがない宇宙船のようなもの!

古代のさまざまな道具や美術品もある!

あれはまさか、アンティキティラ島の機械?!

う、動くのかな?!

歴史の中で失われた遺産の山だ!

それぞれ落下の年号やレベルが明記されているのもいい!

乱雑なようで、分類、整理されている!

しかも!!中には、明らかに魔法がかかっているようなものも置いてあるわ!

あの光る杖は、一体どんな力を持っているの!?

わたしは、気がつくと、ピカリ焼きの入った紙袋の開け口を興奮して握りしめている。


しょうこは、淡々とプップさんに計画を確認していた。

2人の会話は、宝物金庫の中で、よく響く。


「プップさん、事前に指示したとおり、大袋にみちなの名前を書いてくれたかしら。

もし前に書かれた名前があったら、消しておいてほしいんだけど。

あと、例のものは?」


「しょうこ殿、残念ながら例のものは、やはり博物図書館に持っていかれておりました。

大袋には、しょうこ殿の言う通り、名前を書く場所がございました。

そこには300年前の初王ピビルの名が記されておりました。

わたくしは、建国の祖ピビル王の名前を消して、「いまいずみみちな」と記載いたしました。

建国王の名前を消すのは心苦しいことでしたが、今回ばかりはしかたありませぬぅ。

これで本当に大丈夫でしょうか。

どうしてみちな殿の名前を?」


「この大袋は、名前を書いたものが出ることを許したものだけが、中から出ることができるのよ。

おそらく、詳しい使い方は、ピビル王によって、あえて隠されているわ。

そして、永く部屋ごと封印されていた。

この部屋の封印解いたものは、悪魔に身体を乗っ取られるという言い伝えを残して。

今は、封印を解いたペテニル女王に、入ったら出ることができない大袋として使われているみたいね。

プップさんが身近でみた状況と、私がさっき見た感じだと、なぜか悪魔に身体を乗っ取られているわけではなさそうだけど。

とにかく、正しい使い方は、本に書いてあったのが間違いでなければ、私が覚えてるわ」


「大袋にもリーダーである、おれの名前を書こうと言ったら、みちなが駄々をこねたんだよな」


「そりゃそうよ!イスに刻み込んだのは、ゆきるの名前だったでしょう?

今度は、わたしの名前を使うべきだわ!」


わたしは、ピカリ殿下にもらった最後のピカリ焼きを食べながら言った。


何に使うかは、良く分からないけど。

何か1つくらい、魔法の道具に名前を刻みたいのは、当然だ。

すぐにわたしの名前が、後ろからこっそりついてきているポンコさんの名前に書き換えられるとしても。


それにしても、ピカリ焼きは、うまい。

一見、今川焼を少し小さい立方体にしたようなお菓子だ。

しかし、皮に塩味が効いているのが、一味ちがう。

しかも、あんこは、こしあんで、思いっきり甘いのがたまらない。

これは、王道の味だ。

焼いた皮の香ばしさ、塩味と甘さのバランスがいい。

気がつくと何個でも食べてしまう。

ピカリ焼きが5個入っていた紙袋は、もう空になっている。


わたしがピカリ焼きの甘さの余韻に浸っていると、

プップさんが大きな門の前で立ち止まった。


「さぁ、つきました。

こちらが帰らずの大袋の間でございます。

隣は、爆弾など兵器の格納庫です。

決して入っては、なりませぬぅ。

わたくしも一緒に大袋の中に参ります。

ヤミー殿下と一緒に妹のプッチもいるといいのですが。

大袋の中がしょうこ殿の言う通り、BML877年8月19日レベルXボリュームXの日に繋がっているなら、、、それは、あまりにも恐ろしいことです。

今から門を開けますね!

むむむ!!筋肉がちぎれるぅ!!」


またしても、重たそうなドアをプップさんが自慢の筋肉を使って、全力で開けた。

重厚なドアは、少しずつ開いた。

そして、プップさんは、ドアを開け放して、部屋の中に入った。


部屋の中には、部屋の半分くらいが大袋かと思えるような巨大な袋があった。

大袋の中は、なにか怪しく紫色の光を放っている。


しょうこは、大袋を調べているようだ。

ゆきるに紙とペンを借りて、何かメモを取っていた。


「U+2641v2E137°59′N36°14′asl315000

y28771m8d20h11m0s05*|l:d3←:l|

これは、なんの数字かしら・・・!?

もしかして、これは翌日・・・繰り返し!?」


わたしは、大きなハエが部屋に入ってくるのを見た。

しかし、ピカリ殿下を見ると、それどころではなかった。


ピカリ殿下もロジペもプップも、大袋の入り口を目の前にして、大汗をかいて、立ちすくんでいる。

この島の人たちにとって、レベルXボリュームXの日は、幼いからから話を聞いている恐怖の象徴らしい。

紫色の光に照らされながら、ピカリ殿下は、震えながら口を開いた。


「や、や、やはり恐ろしいな。

レベルXボリュームXの日には、数万の人間が一夜にして死んだというぞ。

暗がりの国の大穴は、この日に空いたと伝えられている。

ヤミーがここに入ったとして、本当に3年間も無事でいられるだろうか。

そして、今から中に入る僕たちも・・・」


「このロジペ、殿下を我が命をかけてお守りいたします。

この中は、全員無事でいられるほど甘い状況ではないでしょう。

このロジペに何があっても、殿下は、ご自身の使命を全うすることをご優先ください。

ここに入るには、そういう覚悟が必要です」


「わたくしは、これまで表立って殿下をお助けできずに、毎日胸を痛めておりました。

ペテニル女王の腹心として、第2家老の役割を演じる必要があったとは言え、国を腐敗させることを止められなかった罪は、もう消えることは、ありませぬぅ。

最後に妹プッチを確かめることができれば、わたくしは、満足でございます。

ピカリ殿下とロジペ殿は、光の国とコントン島の未来に必要な存在です。

どうか、わたくしのことは気にせず、ご使命を全うください。

わたくし、この命を捧げる覚悟は、もう出来ております」


わたしは、やっとこの大袋に入ることの危険さがわかってきた気がする。

ここに入るには、決死の覚悟が必要だ。

例えるなら、わたしたちとって、1945年8月6日の広島に行くようなことなのだ。

しょうことゆきるは、きっとそのことを理解していない。

そして、わたし自身も。


あぁ、もう全てが恐ろしい。

絶望しかないのだろうか。

ただ、今のままでも悪魔に食べられる未来は変えられない。

そうすれば、宿題はクリアできず、飛行機の全員も死ぬ。

そして、巨大な隕石は、地球を破壊して、人類を滅ぼしてしまう。

こんなちっぽけなわたしは、そんな壮大な天変地異に対して何ができるというのか。

何もできるはずがない。

そして、今もただ、死にに行くようなものだ。


でも、わたしたちは、ここまで多くの困難に立ち向かってきた。

1人では、立ち向かうことができないほどの恐怖や大きな苦難も、みんなで力を合わせれば乗り越えることができるはず。

わたしは、そう信じる。


ゴーン、ゴーン、ゴーンと城の鐘が鳴っているのが、かすかに聴こえる。

プップさんのハンドサインは、右手に指3本。

計画の進行は、上々だ。

奇跡が起こっていると言っていい。

わたしは、決意を胸に、声を張り上げる。


「行こう!鐘は3つ!しかも、役者もそろったわ!

プランC13よ!

未来は、この中にある!」


ゆきるは、焦ったように言った。


「へ?おいおい、それを言うのは、リーダーのおれの役目だろ?

さ、さぁ、おれについてこい!」


「ゆきる、ピリッとしなさい!

そんな半端な覚悟じゃ、真っ先に死ぬわ。

危険な時は、私の言うことをちゃんと聞きなさいよ?

この中には、ヤミー殿下とプッチさんがいる可能性が高いわ。

それに、2017年前と300年前の情報がたくさん転がっているはず。

きっと私たちの助けになるわ。

悪魔に対抗する方法もね。

プランC13、まさか、来たわね。

上等だわ。

行く価値は、充分にある!」


「よし!参るぞ!

天運は、僕たちに味方している!

ロジペ、プップ、強気で行こう!

僕は、全員無事でここに帰る覚悟だぞ!

ロジペもプップも、この国、この島の未来に必要だ!

もちろん、ヤミーとプッチも、ゆきるとみちなとしょうこもだ。

僕は、この島の王になって、みんなを幸せにする!

そのためには、これくらいの困難は、乗り越える必要がある!」


こうして、わたしたちは、大袋の中、紫の光の向こうに全員で踏み出した。

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