第14話 女王の本性は暗がりよりもどす黒い

「おいおいおいおい!

どうなっているんだい!

この無能の役立たず!

お前のようなどうしようもない男を家老にしてやった恩を裏切るのも、たいがいにしなさいよ!!」


光の国の女王ペテニルは、ひざまづく第1家老ポンコの頭頂部だけハゲた頭皮を裸足で踏みつけながら激怒している。


しかし、驚いたことに、丸々と太ったポンコは、ペテニル女王からひどい扱いを受けながら、喜んでいるように見えた。


ポンコは、毛の長いカーペットに額が赤くなるほど頭を床に押し付けられながら、恐縮した様子で答えた。


「ぺ、ペテニル女王さま、も、申し訳ございません。

ロジペが悪いのでございます!

わたくしは、山岳部の見張り台となっているところに、

ちゃんと伏兵を潜ませておりました。

ここまでは、わたくしが上手だったのです。

しかし、ロジペとロジペ配下の兵士は強すぎて、太刀打ちできなかったのです!

そんなに強く何度も踏まれては!

あぁ!」


「お前の兵が弱すぎるんだよ!

伏兵を忍ばせて返り討ち合うなんて、どんな間抜けの集まりなんだい!

ピカリとロジペは、レベルXボリューム2を連れて城まで来ちまってるじゃねぇか!

馬鹿げたお祭り騒ぎで出て行って、間抜けにおっ死んで帰ってくるはずだっただろうが!

それどころか、みんな大喜びで、そのまま祝勝パレードになっちまってるよ!

おまけに、花火まで上がってるじゃないか。

ドンドンパンパンうるさいね!

腹立たしいったらありゃしない!

おらおらおら!」


「あぁ!あぁ!!」


「そして、プップ!

あんたはどの面下げて、そこで突っ立てるんだい!

あのいまいましいピカリ焼きに下剤を入れて、信頼を地に落とす計画は?どうなったんだい!?」


ポンコの隣で、筋肉ムキムキの第2家老プップは、片手30キロはありそうな鉄のダンベルを両手に持たされて、持ち上げながら、プルプル震えていた。


「あぁ!申し訳ございません!

筋肉がちぎれるぅ!!

これもまたロジペのせいでございます!

まるで誰かが毒を入れにくることをいつも警戒しているかのようでした!

ロジペ配下の兵士が常に目を光らせております!

一日中、朝から夜までネズミが1匹入る隙間もございませぬぅ!

あぁ!」


「役立たずだね!お前も!

はぁはぁ言ってんじゃないわよ!

なにもかもロジペに先手を打たれてるじゃないか!

おい!誰かプップのダンベルをもっと重いものに変えてやれ!」


ペテニル女王の側近の兵士が40キロほどのダンベルを2つ、プップのもとに持ってきた。


「はぁぁぁ!

責任の重さを今まさに感じでおります!

しかし、どうしてあのお邪魔虫のロジペなんかに家老をさせているのですか?

まずロジペのやつから先にコロリと殺してしまえばいいかとぅ!」


「どいつもこいつも使えない奴ばかりだからだよ!

ロジペとロジペ配下がいなかったら、一日でこの国はめちゃくちゃになっちまうよ!

それにこの3年間、何回ピカリを殺そうとしたか!

その度にまんまと間抜けに返り討ちにあってるお前たちに、ロジペをこっそり殺すことなんかできるのかい?」


ポンコは、素早く立ち上がると胸を張って堂々と答えた。


「あんなやつ、わたくしにかかればイチコロです!ふふん!」


「ふふん、じゃないよ!

腹立つな!

自分の実力もわからないのかい?!

お前が最初にやられちまうよ!

このポンコツのポンコ!」 


ペテニル女王は、平手でポンコの汗だくの頭頂部を

ペシャリッと叩く。

ポンコの汗が派手に飛び散り、ペテニル女王は顔をしかめる。


「あぁ!わたくしのことをそんなにも!わたくしの汗がペテニル女王さまにっ!!」


「くっ!もういい!

お下がり!

これからピカリとロジペがここにレベルXボリューム2を連れてくるよ!

秘宝、帰らずの大袋に、全員まとめて突っこむ準備をしてきてちょうだい!

今度しくじったら、今ほど生優しいお仕置きじゃないわよ!」


「あぁ!ペテニル女王さまのお優しさ、身に染みます!

わたくしポンコ、必ずやご期待に応えてみせます!」


「いやいや、わたくしは誰よりもペテニル女王さまのお優しさ、重いほど感じております。

この任務、わたくしをおいて他にやり遂げるものはおりませぬぅ!

必ず、わたくしが、帰らずの大袋に1人残らず突き落として見せます!」


「よし!プップ、よく言った!

その気構えだ!

ご褒美にさらに重いダンベルを持たせてやろう!

誰かもっと重いダンベルをプップに持たせろ!

お前に任せる!」


「うひぃーー!!!

ありがたき幸せ!!!

ふんふんふん!!」


ポンコとプップは、いかに自分の方がペテニル女王からの寵愛を受けているかをお互いに自慢し合いながら、女王の間を出ていった。


「あぁー!

むさくるいわね!!

カーペットを掃除して、ローズのアロマをふりかけてちょうだい!

汗くさくて、気分が悪いわ!

せっかく今さっき、宝石を散りばめた、新しい玉座に変えたところなのに、台無しだわ!」


女王直属の兵士たちは、大急ぎで女王の間の掃除を始めた。


しばらくすると、女王直属の兵士がピカリ王太子の到着を告げた。


ペテニル女王は、クツをはいて玉座でそれを聞いた。

しかし、大きめのハエが女王の間に入ってきたのを見ても気にも留めなかった。


「ペテニル女王さま、王太子ピカリ帰還いたしました!」


「ふむ、ご苦労であった。

むむむ。なぜレベルXボリューム2を鎖で拘束しておらぬのだ?」


ロジペがひざまづきながら答える。


「おそれながら、ペテニル女王さま。

このロジペからご説明させていただきます。

諸事情あり、わたくしは、川で溺れてしまいました。

それを、わたくしたちがレベルXボリューム2と呼んでおります、この方々にお助けいただきました。

この方々は、わたくしの命の恩人なのでございます」


ピカリ王太子もひざまづきながら、擁護の言葉を重ねた。


「ペテニル女王さま、わたくしからもお話しさせてください。

この方々、決して悪意や敵意はないと確信しております。

雨で増水したコントン川の濁流の中、決死の行動でロジペを助けてくれたのです。

どうか、友好関係を結ぶことはできないでしょうか」


「ふむ。

ピカリ、わたしはお前に失望したぞ。

ロジペを助けたから何だというのだ。

それだけで友好関係を結ぶことなど到底できない話だ。

王太子ともあろうものが、国の大切な政治に私情を持ち込むなど、言語道断だ!

今すぐ、ここでまずレベルXボリューム2の息の根を止めよ!

さもなくば、反逆罪とみなし、全員すぐにここで処刑せねばならぬ!」


ペテニル女王が、ピカリ王座を断罪すると、レベルXボリューム2のうち1人が話を切り出した。


「おそれながら、ペテニル女王さま。

お初にお目にかかります。

わたくし、みよしゆきると申します。

国家の脅威とみなされていると、自覚しております。

しかし、決して敵意などございせん。

わたくしどもの望みは一つだけでございます。

悪魔に食べられないように隠れる場所がほしいのです。

ただ、それだけなのでございます」


ペテニル女王は、宝石が散りばめられた玉座がきらりと一層光ったのを見て、ニンマリと笑いながら答える。


「むむむ。なるほど。

たしかにそうであろう。

お前たちが悪魔に食われては、光の国にとっても都合が悪いのだ。

よし!いいだろう!処刑はなしだ!

プップ、話は聞いておるな。

レベルXボリューム2を宝物金庫の例の場所に案内しろ!

あそこなら悪魔にも見つからぬ。

ピカリとロジペは、レベルXボリューム2の見張りとして、帯同すること!

ピカリよ、任務はまだ終わっておらぬぞ!」


こうして、プップは、宝物金庫へと皆を連れて行った。

女王の間は、女王直属の兵士100人が守りを固めていた。


ペテニル女王は、ほくそ笑んで、勝ち誇る。


「しめしめ、プップが、まんまとピカリとロジペとレベルXボリューム2を連れて行ったぞ。

こんなにうまくいくとは思わなかった。

こんなに邪魔者が一気に始末できるとは。

これでわたくしの玉座を脅かすものは、すべて整理できた!

くははは!くはははは!」


ペテニル女王の目の前に、黒い煙のような影がゆらゆらしていて、モクモクと大きくなっていた。


「いッけないわン。人間のくせにこんなにも臭い匂いだなんて!

あッたしは、罪深くて臭い人間はすぐに分かるわン!

悪魔でもないくせに、腐った果実のようにひどい匂い!!

よしよし、お前の過去を見てやろう。

お前はそうか、そうなんだねン!

実の母親を売ったお金で貧民街から前王の侍女に成り上がったまでは、まだ良かったのにねン!

王妃も前王も殺して、王位を強奪したのねン。

貧民街の200人は、お前の出生の口止めにみんな生き埋めにしてるねン。

しかも、王太子の双子の弟もどこかへ閉じ込めているわン!

おお、大袋の封印を解いたのはお前だったのか。

たしか、封印を解いたものにお仕置きする契約があったわね。

つまらない仕事だから、忘れていたわン」


ペテニル女王が周りを見渡すと、女王の間は締め切られて、女王直属の兵士も誰もいない。


「だ、だれ?だれか!だれかいないの?!」


「いッけないわン。わッたしがいるじゃない。

お前が余裕ぶッこいて笑っている間に、ここにいた兵士たちは、みーんな食べちゃったわン。

木偶のくせに魔素がたっぷりで、思ったよりおいかったわン。

お前は、暗がりの国を倒して島を統一することなど、どうでもいいのねン。

女王として贅沢して優雅に暮らしたいだけねン。

浅ましくて、いいわン!わッたし、お前が気にいったわン!

暗がりの王よりどす黒くて素敵ねン」


城の外ではフィナーレだろうか、一際大きな花火が派手に打ち上げられていた。


「お前は、誰だ!」


「あッたしの名前が分からないの?

それだけでも罪深いわン!

いいわン、最期に教えてあげるわン。

あッたしは、アスタロト、恐怖の象徴!

みんな大好きな悪魔だよ!!!」


そして、ペテニル女王は、玉座に座ったまま、目の前に漂っていた大きな黒い煙に、身体丸ごと包まれる。


「そうだわン。ちょっとした余興にサプライズでも仕掛けようかしらン。おぉ、臭い臭い、いい匂いだわン!

お前の身体を頂いて、お前のふりをしてイケニエを待とうかしらン。

それにたしか、そういう契約だった気がするわン。

あっと驚く顔を見るのが楽しみだわン」


「だめ!やめて!

苦しい!さ、寒い!

何もしなければ、のたれ死ぬだけだったのよ!

泥水を飲みながら必死に這い上がったわ!

生きるか、殺すか、そのどちらかしかなかった!

それの何が悪いのよ!

寒くて、臭いのは嫌だ!

貧民街を思い出してしまう!

あぁ、嫌だ!嫌だぁ!うがぁぁ!!」


ペテニル女王は、意識の途切れる最後に瞬間に、ゴーン、ゴーン、ゴーンと鐘が3回鳴るのを聞いた。

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