第13話 王太子ピカリ参上
僕は、このコントン島を愛している。
昨日、僕は、12才になり、光の国の王太子になった。
まだ王太子用の衣装は、生地もごわごわして、真新しい。
白地に金があしらわれた勇ましい軍服に、僕はまだ慣れない。
灰色の生地に銀をあしらった通常の軍服に比べると、かなり華やかなデザインだ。
そして、あと、3年経てば、王位を正式に戴冠できる。
僕は、その日が早く来ないものかと、心待ちにしている。
実は、僕には、双子の弟ヤミーがいる。
僕は、ヤミーは、どこへいったか、毎日考えない日はない。
3年前、ヤミーは、宝物金庫に入ったきり行方知れずだ。
僕は、ヤミーを見つけ出したい。
そして僕は、なにより、植物王の3女、ソルダムが好きだ。
冷たくて、そっけないところがまたいい。
王になったらソルダムは、僕を認めてくれるだろうか。
そもそも、ソルダムと会うには、光の国と暗がりの国を統一して、コントン島にかけられた呪いを解かなくてはならない。
いまいましい呪いによって、光の国の人間は、コントン川を渡ることはできないし、島の南半分の黒い森に入ることもできない。
その呪いのおかげで、暗がりの国の人間も西にも南にも行けないのだ。
北東は雨と曇ばかり、北西は晴ればかりという天候不順も、コントン島を徐々に人の住みにくい土地に変えている一因だ。
黒い森の植物王も、そのせいで体調を崩していると聞く。
心優しいソルダムも心配していることだろう。
この300年間、光の国も暗がりの国も戦争によって、統一を目指してきた。
しかし、それはうまく行っていない。
僕は、貨幣の統一や律法、文化や商工業によって統一した方がいいと思っている。
しかし、そんな考え方は、第3家老のロジペ以外、子どもの戯言として、ほとんど聞く耳は持たれかった。
ロジペでさえ、この考え方を実行するには、多くの困難と長い道のり、多くの協力者が必要だと言った。
しかし、僕は、あきらめなかった。
今では光の国だけでなく、暗がりの国にも、陰ながら賛同してくれる協力者がいる。
表立ってはいないが、賛同してくれるものが増えてきているのだ。
僕が早く王になりたいのは、それだけの理由ではない。
ペテニル女王も側近たちも、老害と利権にたかる虫のようだ。
5年前母が死に、間もなく父は侍女だったペテニルと再婚した。
3年前、さらに父が死に継母だったペテニルが女王になってからは、この国は腐敗していた。
そして、そのことは今や国民にも知れ渡っていた。
僕は、この国をもう一度、栄光ある国に立て直したいのだ。
先程、夜更けだと言うのに、ペテニル女王の召使いがきて、早急に女王の間に来るように呼ばれた。
おそらく、暗がりの国のダブズル王が悪魔と契約を交わした件だろう。
暗がりの国には、光の国から多くのスパイが送り込まれている。
兵隊長ボッゲンの側近は、ロジペ配下のスパイだ。
そのスパイの情報によると、数時間前に、100人以上の面前で、レベルXボリューム2を悪魔のイケニエにする儀式をしたらしい。
あの策士め!
スパイを通じて、直ぐに光の国に伝わることも分かっているだろう。
悪知恵ばかり上手なダブズル王が、300年ぶりのレベルXをまんまとイケニエにして、高笑いしているのが目に浮かぶ。
おそらく、光の国の宝物金庫の目録も手元に置いているはずだ。
やつは誘っているのだ、こちらが先に兵器を使うことを。
そうして、こちらを悪として歴史に刻むつもりなのだ。
はっきり言って、暗がりの国にある宝物は大したことがなかった。
この300年、大したものは落ちてきてないからだ。
本当に重要なものは博物図書館にあり、それ以外の落下物で目ぼしいものは300年前光の国に持ってきていた。
要注意なのは、悪魔だけだ。
その悪魔を戦争に加勢させるなら、こちらはどうでるべきか。
僕が女王の間につくと、第2家老プップがいた。
「これはこれは、王太子ピカリさま、さっそく参りましたな。
ペテニル女王さまが、お待ちしておりますぅ。玉座の前へお進みください」
女王直属の兵士たちが、女王の間の壁がわに並んでいた。
この兵士たちは、木でできた人形に、神秘の力で生命を与えた不死身の兵士だ。
武芸も凄まじく、ロジペでも太刀打ちすることができない。
ペテニル女王が宝物金庫から持ち出してきた。
僕は、不気味な女王直属の兵士たちが怖かった。
「ペテニル女王さま、王太子ピカリ参上いたしました!」
僕は、玉座の近くで、うやうやしくひざまづく。
ペテニル女王は、真紅のドレスにひらひらした白い羽織を着ていた。
「ピカリよ。
暗がりの国のダブズル王は、レベルXボリューム2をイケニエに、悪魔が戦争に加勢するよう契約した。
わたしは、悪魔がレベルXボリューム2をイケニエとして食べる前に、レベルXボリューム2を確保し、悪魔の手の届かない場所に隠すことにした。
レベルXボリューム2の生死は問わない。
そこで、このレベルXボリューム2に対する作戦を王太子に命ずる。
精鋭の兵士100人を王太子の配下に加える。
明日の朝にも出兵し、必ず、任務を果たせ!
第1家老ポンコよ、命令書と兵士のリストの書類をピカリに与えよ」
第1家老ポンコは、書類を持って、ペテニル女王の側からゆっくりとこちらに来て、僕を見下ろして書類を差し出した。
「ピカリ殿下、任命おめでとうございます。
こちらが書類でございます。ふふん」
「承知いたしました。このピカリ、王太子の名誉にかけて、必ず任務を果たします」
僕は、戸惑いながらも、うやうやしく、書類を受け取る。
殺してでも確保するだって?隠す?どこに?
しかし、これはチャンスでもある。
武勲を立てれば、できることも増える。
それに、ソルダムの耳にも入るだろう。
しかし、捕らえるならまだしも、殺す必要などあるのだろうか。
レベルXボリューム2は、僕と同じくらいの子供で、凶暴ではないと聞いている。
友好関係を結ぶこともできれば良いかもしれないではないか。
城の廊下を歩いて、部屋まで来ると、部屋の入り口にロジペの部下がいた。
部屋の中では、やはりロジペが僕の帰りを待っていた。
ロジペは、前王だった父が健在だった時に、兵士から家老に抜擢された人だ。
僕のことをいつも気にかけてくれている。
ロジペは、元々、第一家老だった。
しかし、女王は、40才という若さでは、第1家老は預けられないと、最下位の第3家老に降格してしまった。
今の第1家老ポンコと第2家老プップは、女王の言いなりだ。
「ピカリ殿下、重要な作戦の任命、おめでとうございます。
このロジペ、もちろんお供します」
「ロジペ、いつもありがとう。
前王亡き後、ロジペの助けがなければ、今ごろどうなっているか」
「もったいないお言葉でございます。
わたくしが前王さまにしていただいたことは、我が魂に刻まれております。
何より、ピカリ殿下は、我々の希望なのです」
「その期待に応えるためには、僕は、もっと力をつけなくてはならないな。
今回の任命、色々思うところはあるけど、チャンスにしたい。
必ず成功させよう。
こちらからもお願いする。ロジペ、力を貸してほしい」
「ご用命、ありがとうございます。
まず、わたくしに命令書と兵士のリストをお見せください。
信頼できる内容か、ご確認致します。
おぉ、これはひどい」
ロジペは、リストを手に取ると、すぐに部屋から出ていった。
僕は、テーブルの上にコントン島の地図を広げる。
明日の朝、レベルXボリューム2は城の外に出される。
悪魔に食われることを恐れるならば、おそらく光の国を目指すだろう。
目指してもらわねば困る。
これまで落下してきた怪物などをみると、レベルXボリューム2は、川を渡って東西を行き来できる可能性が高い。
まずは、コントン山に登り、コントン川の上流で待ち伏せしよう。
まず僕は、レベルXボリューム2の動きを高所から確認するしかないだろう。
川を渡って岸に上がるタイミングが狙い目かもしれない。
武器は、弓がいいだろう。
ロジペが帰ってきたら、作戦会議をしよう。
僕は、地図に、作戦案を書き込んだ。
作戦を成功させるためには、ほかに何が必要だろう。
さまざまな事態を想定して、プランのパターンをいくつか考える必要がある。
レベルXボリューム2を殺すことも、当然考えなくてはならない。
僕は、気がつくと、地図の上に突っ伏して眠ってしまったようだ。
気がつくと、空は白み、朝焼けになっている。
「おはようございます。
ピカリ殿下、やっと出兵の準備が整いました。
明け方まで走り回っておりました」
「おお、ロジペありがとう。
僕も朝まで作戦を考えていたよ。
途中眠ってしまったようだ」
「おお。晴れ晴れしい出兵の朝に、お互いこんなによれよれでは、行けませんな。
まず身支度してまいりましょう」
「はっはっは。その通りだな。僕もそうするよ。
たしかにせっかくの王太子の衣装もよれよれになってしまった。
でも、やっと身体に馴染んできたよ。
地図に作戦を書き込んでおいたから、見ておいてくれ」
「こちら熟読して、清書いたします。
それでは後ほど。3時間後には出発でございます」
そうして、快晴の空の下、僕らは、コントン山の山岳地帯に向けて出発する。
ところどころ金があしらわれた白い城は、太陽に照らされて眩しく光っていた。
白く輝く城門を出て、街を通ると、お祭り騒ぎになっていた。
光の国では、3年前、貧民街が無理矢理取り壊され、壁はすべて白く塗られていた。
その時、貧民街の200人ほどの住人がどこに行ったのか、誰にも分からない。
今は、白い美しい街道に色とりどりの屋台が出て、大変なにぎわいになっていた。
ロジペが、ニヤリと笑って大声を張り上げた。
「ピカリ王太子、出陣!!」
ファンファーレが鳴り響き、みな拍手で見送って花道みたいになった。
まるでもう、祝勝パレードのような盛り上がりだった。
「ロジペ、朝までなんの準備をしておったのだ?
まさか、このお祭り騒ぎの準備ではないだろうな」
ロジペは、もう感極まって、涙ぐんでいた。
否定しないところをみると、その通りのようだった。
僕は、なんだか間抜けだと思ってしまう。
しかし、皆が喜んでいるならまぁいいか。
花道を見ると、色とりどりの屋根の屋台までたくさん出ていた。
もちろん、ピカリ焼きも売っていた。
ピカリ焼きは、ロジペの提案で僕が企画したお菓子だ。
3ヶ月前、王太子即位の記念として発売以来、1日に3000個売れることもあった。
身体が不自由なものや、身寄りのないものなど、生活が苦しいものをロジペが面接で選んで、まず10人ほどを売り子にしていた。
売り子には、簡素な住居も用意した。
月に20日働けば、贅沢はできないが生活はできるのだった。
ペテニル女王の治世では、女王に取り入る特定の商人だけが豊かになり、貧富の差は理不尽に広がっていた。
昨日商人だったものが、今日には奴隷になって、商売敵に買われることさえあった。
他にも警察も裁判もワイロによる買収が横行し、腐敗を極めている。
僕は、その状況をなんとか変えたいと思っている。
ピカリ焼きは、わずかな塩と小麦と卵を合わせた生地に、甘いあんこをたっぷり入れ、立方体の焼き型で焼いたお菓子だ。
大人なら2口でペロリと食べれる小ぶりなサイズも評判がよかった。
ピカリ焼きは、城内で職人が作り、大きく雷マークが1ヶ所焼印された。
光の国の小麦と、黒い森のあんこ、暗がりの国の塩が合わさったお菓子だ。
この小さなピカリ焼きには、僕の大きな平和への願いが密かに込められていた。
「ピカリ殿下、お気をつけてください。
100人の兵士、最初リストにあった兵士は、第1家老ポンコの配下のものばかりでした。
山岳地帯に入ったら、ピカリさまに何をするつもりだったのか、考えるだけでも恐ろしいことです。
昨夜、100人全員をわたくしの配下に変更しておきました。
気を抜かず参りましょう」
「いつもありがとう、ロジペ。
迎え撃つ敵よりも、味方の方が敵が多いとは、悲しいことだな。
狡猾な女王のことだ、100人を入れ替えることも想定してたかもしれない。
気を抜かずに行こう」
僕は、順調に山岳地帯の目標地点に到着した。
兵士の大半を崖の下の少し広いところに待たせて、
僕は、ロジペとわずかな兵士を従えて、がけを登って1番見渡しの良いところに行く。
光の国の偵察兵がいつも使う場所だ。
僕は、望遠鏡を使って、島を見渡し、暗がりの国からこちらに向かう一本道を確認する。
改めて、高いところから見渡すと、この島は、実に小さな島だ。
空には、巨大な怪鳥、大鵬が飛んでいる。
大鵬は、あまりに大きすぎて、人の存在など意に介さない平和な鳥だ。
僕は、すぐにレベルXボリューム2を見つけた。
レベルXボリューム2は、草の皮を集めて、ロープを作っているのだろうか。
さらに、ご飯を作ったりしている。
やはり行動から脅威は、感じられない。
おそらく、ロープが完成したら川を渡るつもりだろう。
「ロジペ、作戦プラン13にしよう。
川を渡って岸に上がるタイミングで取り囲もう」
「かしこまりました。みぞれの滝の手前、川の中ほどにまんじゅう岩があるあたりですな。
レベルXボリューム2が、岸にたどり着かず、滝から落ちた場合は、作戦プラン35に移行しましょう」
「お、いや待て。雨が降りそうだな。コントン川は、すぐに濁流になるだろう。雨にかまわず濁流を渡ろうとするだろうか」
僕は、レベルXボリューム2がこれからどう行動するのか、想像してみる。
わざわざロープを作るということは、川を渡るのに慎重なのだろう。
ロジペが、急に叫ぶ。
「ピカリ殿下、あぶない!」
山の岩陰から、3人の見慣れない兵士が剣を構えて、こちらに向かってきた。
待ち伏せて、潜んでいたようだ。
僕はとっさに剣を抜く。
狭い岩場で、護衛はロジペと兵士2人しかいなかった。
ロジペと配下の兵士も加勢し、3人の刺客うち2人をすぐに拘束した。
最後の1人をロジペがあっさりと切り捨てた。
ロジペも配下の兵士も、素晴らしい練度だ。
「陣形を組み直せ!他にも刺客がいないかを確かめよ!
ピカリ殿下に刃を向けるなど、コントン島の未来を汚すに等しい暴挙だ!決して許すな!うがっ!」
ロジペは、岩場でに溜まった血溜まりに足を滑らせた。
「うぉぉうぁぁあぁぁぁ!!!」
「ロジペーーーー!!!」
ロジペは、崖下の木になんとかしがみついていた。
しかし、ロジペに容赦なく雨が降り注いだ。
結局、ロジペは、木の枝から手を滑らせて、ドボンと川に落ちて、流されてしまった。
僕は呆然と、立ち尽くす。
だ、だめだ。ここで気をしっかりしなくては。
「さ、探すぞ。ロジペを助けるのだ!
刺客の残党がいるかもしれん!気をつけろ!
急げ!ロジペが流されてしまう!」
僕は、絞り出すように、兵士に指示を出す。
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