第10話 しょうこは光の国への道を示す

私たちは、兵士たちに囲まれて、国の外まで歩いていた。


私は、もう絶望しか感じることができない。

一体、どうしたらいいのだろう。


私たちは、城の門が見えなくなるところまで歩いてきた。

周りには何にもない、見渡す限り、草原だった。


私は、不安しかない。

悪魔は、いつくるか分からない。

はっきり言って、状況は悪くなるばかりだ。

でも、情報は集まってきている。

それは、まだバラバラのパズルのピースのようだ。

ただ、活かせそうな情報の欠片が、すでにいくつかある。

まだ、それがどう活きるのか、いつ繋がるのか、まったく見当もつかない。

私は、悲観して思わず弱音を吐くしかない。

どうしていいか分からずに、投げやりに言う。


「残り6日で宿題をクリアするどころか、悪魔に食べられてしまうのよ!

私たち!あぁ。おしまいよ!」


「まぁまぁ、落ち着いて。朝ご飯でも食べようよ!

お腹いっぱいになったら、元気でるよ。

もう朝8時だし」


みちなは、もうお腹が空いてしょうがないみたいだった。

ゆきるは、不思議そうにみちなに尋ねた。


「なんで8時だってわかるんだよ。時計もないのに。

時間がわかれば方角もわかるんだけど。

今日も曇りだけど、うっすらと影が見えるんだよな。

でも、方角がわかっても地図がないから意味ないか」


「わかるよー!!わたしの腹時計は、正確なことで有名なの!」


「一体どこで有名なのよ。

でも、私、地図の本を読んだの。正確に地理を覚えてるわ。

ゆきる、本当に方角がわかるの?」


「地図が頭の中に!頭でっかちも使いようだな。

みんなで長い棒を探そう!

あぁ、俺のバックパックさえあれば方位磁石がついてるのに。

逃げる時に、無くしてしまったのが、悲しすぎる」


「ゆきる、あなたって、一言多いわ。

長い棒なんて、何に使うのよ?」


私たちは、しばらくあたりで木の棒を探した。

なかなか見つからない。そもそも木が近くにないのだ。


「ねぇ、木の棒あったよー!!こんな長さで大丈夫?」


ゆきるは、何かの確信があるのだろうか、みちなが見つけた木の棒をできるだけ垂直に立てた。


私は、ゆきるから何か生きる力を強く感じる。

無人島でも生き残れるタイプかもしれない。


「今が午前8時というみちなの腹時計を信じるとして、影の向きはほぼ北西をさしているはず。

だから、東西南北は、こんな感じだな」


「なかなかやるわね。

じゃあ、西の山を超えましょう。

小さな島だから、それほど時間はかからないはずよ。

西に行けば、光の国があるわ。

暗がりの国と敵対しているし、2日後の戦争に向けて、なにか動きがあるはず。

行ったところで、どうなるかは分からないけど。

行くなら光の国しかないわ」


「たしかに!光の国のご飯も食べてみないとね!

でも、お腹が空いて、もう歩けないよ」


「よし、まずは行ってみよう」


私はうつむきながら、とぼとぼと歩く。


ゆきるの目は、どうして希望を失っていないのだろう。

みちなは、お腹が空いたと、もう100回は言っただろうか。


「にゃーーん」


すると、目の前にネコが現れた。

あの時のネコだ!


「ネコ!私たちについてきてくれたのね!」


私は、すぐにネコを抱きしめる。

館で出会ったネコだ。


そして、ネコの側には、なぜか、ゆきるのバックパックがあった。

これは、どう考えてもおかしいことだった。

このネコがここまで運んだにしては、バックパックは大きすぎるし、重たすぎた。

誰がどうやって、わざわざここまでバックパックを持ってきたのだろうか。


ゆきるは、大切なバックパックが見つかって、喜びのあまり抱きしめていた。

そして、すぐに中身の無事を確かめると、空を見上げながら、なにかを吠えていた。

よほどうれしかったのだろう。


私は、パックパックについている方位磁石を確かめる。

おどろいたことに、みちなの腹時計は、正確みたいだ。

さっき、ゆきるが出した方位とほぼ一致している。

つまり、コントン島でも、方位磁石は使えるということだ。

これで、光の国にたどり着ける可能性は、かなり高まったといえる。


「ふっふっふ。3人分のサンドイッチもバックパックに入れていたんだ。みんなで食べよう!水もコップもあるよ」


「あーー!!わたしのサンドイッチ!」


みちなの目には、バックパックは、もうサンドイッチにしか見えていないみたいだった。


「いっただきまーす!」


さっそくみちなは、レタスとトマトとチーズが入ったサンドイッチを食べていた。


ゆきるは、右手にサンドイッチ、左手にバナナをもって、朝食を楽しんでいた。

ゆきるが準備した水筒には、水もたっぷり入っていた。


ネコは、ゆきるにすり寄っていった。

ゆきるが食べ物を持っていることをわかっているようだ。

ネコは、ゆきるからバナナの端っこをもらって、喜んでいた。


食べ終わると、ゆきるは、筋トレを始めた。

男の子というのは、奇妙だ。

なぜここで、それを始めるのだろう。


そして、ゆきるは、なぜか腕立て伏せをしながら、話し始めた。


「これからのために、2人の事をもっと知りたいと思ってるよ。

少しずつわかってきたこともあるけど。

みちなが、なにか真剣な顔で考えている時は、食べ物のことを考えているときかな、とかね」


「あー!なによ!それ!恥ずかしいわね。失礼だわ!否定はしないけど。

それに、なんでゆきるは、リーダー気取りなのよ!」


「でも、みちなの明るい性格で、すでに何度も助けられているよ。

それに、みちなは、目が良いというか、目敏いよね。

視力もいいかもしれないけど、何かを見つけることに関しては、勝てる気がしない」


「ほーほー、分かってるじゃない。わたし昔から何かを見つけるの得意なのよね。小さい時から木登りが得意だった。ボルダリングとかも。わたし、直感最強だから!」


「木登りは知らないけどね。

もっと3人の長所を活かして行きたいな。

しょうこは、情報を集めるのが得意だよね。

でも、ちょっとマイナス思考かもな。

そんなに景気の悪そうな顔をすんなよ、しょうこ」


私は、パンをかじりながらムッとする。

でも、ゆきるが3人の長所を活かそうとしているが分かる。

私は、自分の苦手なことを率先してやってくれるゆきるのことをありがたいと思う。


「私は、ゆきるとみちなみたいに能天気じゃないだけよ。

だって、不運続きだわ。今のところ、何の手立てもないのよ?

最悪よ。分かってる?」


「いつでも悪いことと、良いことは同時にたくさん起こってるんだよ。それを良い方をみるか、悪い方をみるかで景色は全然違うよ。

みちなは、気持ちの切り替え早いよね。

今できることを、最大限やろう。

そうすれば、運だって引き寄せれるさ」


「たしかに!わたしは、絶対に負けそうな状況で、逆転勝利って、燃えるわ。あの桶狭間の戦いも、そうよね。奇跡のような天候の変化があって、織田信長は今川義元に勝ったのよ」


「え?みちな、あなた歴史とか興味あったの?

私もその話知ってるわ。勝った理由については、諸説あるけどね」


「えーーっ!いやぁ、みちなは、てっきり勉強できない子ちゃんかと、思ってたよ。

おれは、そのオケハザマ?の話、知らないけど」


「あーー!わたし、それよく言われる!けど、そういうこと言っちゃいけなんだよ!

ぶっぶーーっ!

わたし、歴史だけは好きなの。ま、今川焼について調べているときに、たまたま記事を見つけただけだけどね。

あぁ、今川焼食べたくなってきた!あんこ!こしあんなら更にいい!

そうだ、わたしは、死ぬまでにあんこをもう一度食べたい!」


ゆきるは、少し間を置いて口を開いた。


「さぁ、行こう!おれたちには前進しかない」


「こっちよ」


私は、西を指差す。

そうだ、一番不安なのは、立ち止まること。

1人では立ち向かえない不安でも、2人がいれば前に進むことができる。

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