第8話 みちなは罪悪感を告白する
わたしたちは、それぞれ改めて、簡単に自己紹介をした。
名前や年齢、小学校何年生なのか、
どこに住んでいたのか、誰と飛行機に乗っていたのかなど。
それは、まだ仲良くなるのには程遠い、1番最初の自己紹介だった。
それからわたしは、やっとの思いで言葉を絞り出す。
「ちょっと聞いてもらいたいことがあるの」
わたしは、2人を信じようと思う。
そして、自分が抱えている罪悪感を2人に話すことにした。
そうだ、話したほうがいい。
ずっとこの気持ちを抱えたまま、2人と仲良くなれない気がする。
話すには、勇気がいる。
でも、きっとこの2人なら、ちゃんと聞いてくれるはず。
「わたしは、バチが当たったんだ。
だから、こんな目に合うんだ。
お父さんが天文台で働いていて、他の人よりも先に、何が起こるかを知っていたの。
お父さんは、ニュースの3日前に、大きな津波があるかもしれないから、安全な長野にこいって、まだ他の人には絶対いうなって。
わたしたち、ズルをしたのよ。だから、ごめんなさい」
ゆきるは、不機嫌そうに言った。
「じゃあ、おれの家族は、お前のバチ当たりに巻きこまれたのかよ。
それに自分の家族だけ助けようとするなんで、最低な人間のすることだな。
他の人のことなんて、どうでもいいかよ」
しょうこは、すぐにわたしをフォローしてくれた。
「バチが当たるなんて、論理的じゃないし、ありえないわ。
それに、私は、他に誰も家族は乗ってないし、巻き込まれたなんて思わない。
社会が混乱しないように情報が遅れたり、制限されて公開されることは、よくあるわ。
それは、受け入れ難いことだけど、それ自体が悪いことではないと思う。
それに家族になら、不確かな状況でも伝えたかったんじゃないかしら。
みちなは、ラッキーだっただけよ。ズルじゃないわ」
ゆきるは、気に入らなかったのか、聞き捨てならないとばかりに突っかかった。
「おいおい、ちょっと待てよ。お前は、赤の他人ばかりだから死んでもどうでもいいのかよ。
ラッキーだった?じゃあ、俺の家族はラッキーじゃなかったのかよ。
よくそんなこといえるよな。
いっそ、池に沈んだままにしておけばよかったよ。
義理人情のかけらもない。
誰も助けるつもりもない、自分が助かりたいだけなんだ。
俺は、家族を助けたい。父も母も、小さな弟も。
お前、額のキズ跡もなんか変だし、絶対友達いないだろ」
わたしは、しょうこに怒るゆきるにどうしていいか、分からない。
こういう言い合いの時、わたしは怖くてオロオロしてしまう。
しょうこは、カチンときたのか、感情的に言い返した。
「はぁー?
私は、事実を言っただけよ!
あなただって家族以外の人は、どうでもいいんじゃないの?
それに、人の顔の悪口言うなんて、最低。
私のことをお前なんて呼ばないでよ。
偉そうに、何様なのよ!
何にも状況がわかっていない、役立たずのくせに!」
ゆきるもしょうこも、言われたら言い返すタイプみたいだ。
わたしは、2人の強い言い合いが怖くてたまらない。
「家族以外どうでもいいわけないだろ!
でも何ができるっていうんだよ!
役立たずは、お前の方だろ!
小さな弟でもお前より感謝の心を知ってるぜ。
4年生のくせに偉そうに!
なんか知ってるなら言えよ。
人をばかにして見下すひまがあったら!」
ゆきるは感情のまま、ダンっと、テーブルに乱暴に拳をぶつけた。
しかし、しょうこも負けてはいなかった。
「小4って言ったって、私とあなた、1ヶ月しか誕生日変わらないじゃない!
それに悪いけど、私は、あなたの何倍も物事を知ってるわ!」
ゆきるとしょうこがさらに何か言おうした時、わたしは、もう耐えられなくなって叫ぶ。
「もうやめて!もうやめてよ!!」
そして、わたしは、涙が止まらない。
「わたしのために、ケンカしないでよぉ。お父さん、お母さんに会いたいよぉ」
わたしは、泣きながら反省していた。
自分のせいで最悪の自己紹介にしてしまった。
多分、わたしたちは、みんな仲良くなろうと思っているはずなのに。
まず、その必要があるし、不安の中で頼りになる安心がほしかったのは、みんな同じはず。
でも、今は、抱えている不安が大きすぎるし、大人がいない中で、頼れるものが何もない。
だれかを受け入れるには、余裕がなさすぎる状況だったかもしれない。
その時、わたしは、物陰に何かいることに気づいて、叫ぶ。
「きゃあ!!あそこ!何かいる!」
わたしは、ソファのあたりを指差す。
反射的に、ゆきるは、テーブルの上にあったガラスのコップを投げつけた。
何かは素早く走って、ぴょんぴょんジャンプした。
きちんとコントロールされて投げられたコップは当たらず、床でバラバラになってしまった。
そして、ゆきるは、二つ目のコップを投げようとしていた。
「ちょっと待って!」
しょうこは、正体が分かったのか、ゆきるを止めた。
しょうこをみてネコは、ニャアと鳴いた。
この館の主の飼いネコだろうか、人に慣れているみたいだ。
わたしは、人様の家で勝手に入って飲食したばかりか、コップを投げて割るなんてと、改めて思う。
しかし、ネコだったからよかったものの、何か危険なもだったらと思うと怖い。
そう思うと、ゆきるの判断やコントロールは、悪くなかった。
野球か何かをやっていたのだろうか。男の子ならこれくらいできるのだろうか。
わたしは、ゆきるの早い判断力と行動力は頼りになると、つい感心してしまう。
そして、しょうこは、ネコに夢中だった。
しょうこには、さわらせてくれるネコだと、一瞬でわかったようだ。
しょうこは、慣れた手つきで、白と黒のぶちネコを抱きしめると同時に、肉球をなでていた。
「あぁ、やっぱりネコはいい!落ち着くわ!いい匂いね!毛並みもいいわ!あら、あなたは、男の子なのね」
しょうこは、ネコのおかげで、一気に怒りを鎮めたようだ。
そして、しょうこは、あっけらかんと笑顔でゆきるに言った。
「危険から助けようとしてくれて、ありがとう。
さっきは言いすぎてしまって、ごめんなさい。
いつもみんなのために動いてくれてるの、知ってるわ。
助けてくれてること、感謝してる。
私、割れたガラスを片付けるホウキとかチリトリみたいなものがないか探してくるわ」
ゆきるは、「え?」と反応できずにいるようだった。
しょうこは、クルリと背中を向けて、歩いて行ってしまった。
一方、わたしは、眠たくなりながら思う。
ケンカから始まってしまったけれど、この2人は、頼りになる。
だから、これからきっと大丈夫だと、勝手に安心している。
ちゃんとわたしの罪悪感も話せた。
2人は、しっかりわたしの話を聞いて、受け止めてくれる。
なにより、ご飯が美味しかった。大好きないちじくがあったのがなによりうれしい。
いつのまにか、服もちゃんと乾いたし。
あとは、やわらかくて温かいベッドとお風呂あれば、いい感じのホテルと変わらない。
だけど、昼寝したソファでも、充分寝れるなと、わたしは思う。
わたしは、安心して、もう眠気を感じる。
「えーーっ??」
ゆきるは、「な、なぜだ?」とか言いながら、立ちつくしていた。
それから、気持ちを切り替えて、ダンロの火に木材を足すことにしたようだ。
ホウキとチリトリを探しに行ったしょうこは、
急いで広間に戻ってきた。
しょうこは、慌てながら言った。
「ゆきる、みちな、2人とも聞いて!
やっぱり、すごくおかしいわ。
この館の台所は、何日も火を使っていないみたいだったの。
お昼の食事は品数も多かったし、何より温かかった。
わざわざ、どこかで作っていたものをここに持ってきたのよ。
誰かが、ダンロに火を用意して、毛布を置いて、服をかわかす台まで準備した。
まるで私たちをここで足止めするためみたいに。
人は見えないけど、なんだか見られているような気もする。
そんなのおかしいわ。
あぁ、私たち、やっぱりどうかしていたわ」
わたしは、眠い目をこすりながら、窓の外をふと見てつぶやく。
「あれ?館の入り口の門、閉まってたっけ?」
「ねぇ、大変、見て!私たちが入ってきた門が閉まっているわ。
もしかしたら、閉じ込められたかも!
たまたま閉まっただけかもしれないけど」
ゆきるは、落ち着いて言った。
「そういうことなら、準備はできてる、夜のうちに抜け出そう。おれたちには、時間がない。どんどん前に進んでいくしかない」
わたしたちは、暗い庭に出て、そろりそろりと門まで行った。
やはり、門は、かたく閉められて、びくともしなかった。
しょうこは、地面にへたり込んで、うつむきながら言った。
「全部ワナだったのよ。この館は、なにもかも仕掛けれていたのね。まんまとワナにハマって、もう私たちは、どうすることもできないわ」
「にゃーーー」
ネコがどこかで鳴いていた。
ネコを探しても、暗すぎて見つからなかった。
わたしが「あそこ!」とネコを見つけると、ネコは、すぐに消えてしまった。
ネコが消えた場所に行くと、カベの下の地面にネコが通れるくらいの穴があった。
おそらくネコは、そこから出入りしていたのだ。
ゆきるは、パックパックから折りたたみ式のシャベルを取り出した。
わたしは、ゆきるに聞く。
「ど、どこからそんなもの持ってきたの?」
ゆきるは、得意気に胸を張った。
「ふっふっふ、アウトドア用に入れていたんだ。キャンプの時とか、何かと便利なのさ」
ゆきるは、できるだけ静かに土を掘ると、やっと子供1人が出られる大きさになった。
わたしとゆきるは、なんとかカベの外に出れた。
しょうこはは、穴からなかなか出れない。
「逃げたぞ!!!こっちだ!!」
灯りをもった大人が、わたしたちを見つけて、何人か走ってきた。
ゆきるは、バックパックを地面に置いて、しょうこが穴から出るのを助けた。
わたしたちは、訳もわからず、慌てて夜の闇の中を走った。
「きゃあ、誰かが追いかけてくるよ!
やっぱり、わたしが勝手にご飯食べたの、怒られるかな。謝ったらゆるしてくれるかも?」
「何言ってんだよ。捕まってる時間なんかないよ。
逃げよう!暗いからなんとかなるかもしれない!」
「見て、私たち囲まれてる。あっちにもこっちにも灯りを持った人がいるわ。もともと囲まれていたんだわ。
こっちしかない!」
わたしたちは、追い込まれて、カベ伝いに走っていった。
気がつくと、わたしたちは、兵士にぐるりと囲まれてしまった。
わたしたちは、鎖をつけられ、訳もわからず、どこかへ連れられて行く。
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