第4話 ゆきるは落ちる飛行機の中で笑う
乗客乗員合わせて132人の羽田空港発松本空港行JAB431Boring737は、予定通り飛び立った。
そして、飛行機は、午前8:45 松本空港まであと10キロの地上550メートルで、予定通り着陸体制になった。
おれは、パックパックの中に入れていたお菓子を探していた。
一つ前の席で、大声で話している女の子がいる。
「すごーい!きれい!お母さん、みて!たくさんの流れ星と一緒に飛んでる!こんなのはじめて!」
「ねぇ、みちな、大きな声を出すのはやめて。小さな子供じゃないのよ。あら、でも、なにこれ、本当にきれいね」
「はぁー!ため息が出るくらいきれい。なんであんなにキラキラ光るんだろう。
お父さんにも見せたかったね」
声につられて、おれも窓の外に目をやる。
すると、そこには、数えきれないほどの中小さまざまな隕石が、ギラッギラッと花火のように激しく発光している。
「えっ?!」
たしかにこんな光景、おれは見たことがない。
感動する間も無く、飛行機に次々とぶつかってくる。
無数の隕石は、ねらったかのように、飛行機目がけて降り注いだ。
飛行機は突然、ガンガンガンッとヒョウでも降ってきたように激しい音と、ぐわんぐわんと大きなゆれが起きた。
左前方のプレミアムシートの窓側では、隕石がズシンと天井に穴を開けた。
それから、ガラスが勢いよくバリバリバリと粉々に割れて、機内の空気が一気に外にもれていった。
機内の空気とともに、機外に人や荷物が吸い出された。
すぐに、飛行機の右の翼に、小さな隕石が命中した。大きなエンジンは、大音量で炎上し、右のつばさは大破した。
一気に気圧が下がって、絶望的な機内は、大さわぎになった。
おれとりゅうじにお母さんが覆いかぶさっていた。
その上を、お父さんの大きな背中が守っていた。
おれの家族は、お父さんの大きな身体の下で、お互い抱きしめ合っていた。
お父さんは、すこし顔をしかめてから、笑顔に戻った。
ゴミが座席の下を転がっていく。
紙コップ、お菓子、りんごの芯、雑誌、イヤホン。
おれは、死にたくない。怖い。
バックパックを強く抱きしめる。
おれは、あまりの恐怖に目をつむって、耳に手を当てて、悲鳴をあげる。
「あ''あ''あ''あ''ーーーー!!!」
グルリと上下が逆転したかと思うと機内は、すこしの間だけ無重力になった。
今度は、声を出せなくなった。
でも、りゅうじは、こんな時に泣きもしないで、キャッキャ、ケラケラ笑っていた。
目を開けて、ふとお父さんを見ると、なぜか全力で変顔をしている。
白目で、口から泡まで吹いて、とんでもない顔だ。
おれは、思わず「プププッ、アハハッ」と笑ってしまった。
お母さんは、まったく笑わず、涙ぐんでいた。
みんなの顔が近くて、安心だ。
これがおれの人生最後の光景なんだろうか。
自分が死ぬことをお腹に太く何かが刺さるようにグサリグサリと重く感じる。
キラキラ光る無数の隕石群に囲まれながら、自由落下を始めた。
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