帝都護法
Gペンカーニバル
夕焼商店街怪異事件
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大きな肩掛け鞄の皮紐をぐっと握り締めて、芦矢少年は夕刻の帝都を走っている。
芦矢は取り立てて言うほどの事はない普通の少年である。つい先日まで学友と町内のあらゆる路地を駆け回り、母の作った暖かな御飯を食べるなどして暮らしてきた。周囲の雰囲気に流されるまま始めた郵便配達業務の勤務歴は2ヶ月。あらゆる電算機の
しかし、だからと言って帝都を走るというのはどういう訳か。
「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
こういう訳である。
あずかり知らぬ化け物が、怪鳥の類の方が幾分かマシであると言える程の奇声を上げて吠えた。
その姿は潰れた西瓜を黒の紙袋に入れたような異形だった。路地中にビタビタとなんらかの破片を撒き散らして、ようやくその化け物は細い道に体を滑り込ませ、近づいてくるのである。もし芦矢の手に一瓶で村を滅ぼすレベルの劇薬が握られていたとしたら、躊躇いなく叩きつけていただろう。
「なんなんだよ、あれは……!」
彼の問いかけに応えるものはない。
それどころか、この様に大仰な化け物が街を闊歩しているというのに、騒ぐ人が、まったくいない。重ねて保証するが、本日は
―――――いや、たった一つだけ、彼の問い掛けに応えるものがある。
「オデ……クウ……!ニンゲンクッテ……、ニンゲンニナッテ……!サラニウエヲメザスゼエエエエエエエエ!!!」
「信じらんねぇ、こんな
帝都はこの国の首都である。
それ故、物理的な治安だけではなく、風水、呪術的にも堅牢であった。芦矢少年は今まで幽霊の類を目にしたことがなかったし、化物は生活を豊かにする教訓だと思って生きてきた。しかし現実とは非常である。このような化物が往来を走るのだから、雪女の一人や二人はいても不思議ではない。認識を改めた。
「誰か助けてーッ!」
路地裏の細い道を塞ぐように倒れているがらくたを一息で飛び越しながら叫ぶ。
この辺りを遊び場にしていたこともあり、化物と芦矢の間の距離は保たれている。しかし向こうは物理法則に縛られるかも分からず、かたや此方は只人であるというのだから、助けを乞うのは英断であると言う他ない。
「誰もいないよ。」
からころと下駄を転がすような音と、久方ぶりの――――ひとの言葉。
その声に顔を上げると、お揃いの和服を着た二人分の小さな人影があった。
帝都護法 Gペンカーニバル @Aikawa-seisakuzyo
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