第8話 カラオケ

 「はぁ~? カラオケ?」

 みやこが呆れたように言った。

 「あんたたち自爆して精神ぼろぼろじゃない、声出るの?」

 「ストレス解消なんだよ、私の」

 「知ってるけど今日は一人でいきなさいよ、私たち行かないわよ」


 みやこはしっしっと手をふってあすかを邪険に扱うが、あすかは強気に出た。

 「そんな口を聞いていいのか? 私は、期限が今週までのポテト大盛無料クーポン券を二枚も持っている女だぞ」


 (しょぼすぎる……)

 (……カップ麺食べたのに、ポテトなんか食べられるわけない……)

 冷ややかな目であすかを見る一年生組とは対照的に、複雑な感情でみやこを見る二年生組がいた。

 (あぁ……やられましたわ……)

 (完璧に釣ったな)


 「えっ、行くわ! 行く、絶対行く! もちろん、私のものよね!?」

 「あぁ、しっかり食え。おかわりもいいぞ……」

 「あぁ……目に浮かぶわ、うまい! うまい! うまい! とたらふく食べている私が……」

 夢見る少女のように目を輝かせて喜ぶみやこに、これからまだ食べるのか、と一年生組は唖然とし、あやは小さくため息をついて言った。

 「二つも脂肪しぼうフラグですわ、みやこ先輩。あすか先輩も、別に今日でなくてもよろしいのでは?」

 「ゆりとゆきのの歓迎会も兼ねてだよ」

 「そう言われると反対はしづらいのですが……」

 せっかく二人きりで帰れるところに思わぬ邪魔が入って、あまり乗り気でなさそうなあやを落とすために、あすかはあやの耳元で囁いた。

 「みやことポテトでポッキーゲームすればいいじゃん」

 「……!! それは……名案ですわね、歓迎会ということなら行きましょう!」

 

 (なーに買収されてヤる気スイッチ押してんだあやあいつ……)

 「あーしはOKでーす、サキ先輩」

 「サキはOK? ゆりとゆきのも? よし、じゃあしゅっぱーつ!!」

 (私たち……)

 (……OKって言ってないのに……)

 あすかに強引に連れられて、裏生徒会一同はカラオケに向かった。


 お店につくと、あすかがテキパキと指示を出し、準備が整った。

 「じゃあ、ゆりとゆきのの裏生徒会への入会を祝して、かんぱーい!!」

 「「「「「かんぱーい!!」」」」」 

 「じゃあ、まずは伝統のを入れときますかね」

 サキがさっそく曲を入れ、ポテトをもっもっと食べながらみやこが聞いた。

 「今日は誰が歌うの?」

 「ここは会長の私が!」

 「いやいや、じゃんけんで!」

 「ポテト食べるから私はパス」

 「私もいいですわ」

 「じゃあサキ、じゃんけんだ!」

 「いきますよ、あすか先輩!」


 「ゆきのちゃん、あれって何だろうね……」

 「……私も知らない……」

 「そうだよね……」

 奥の席で空気になった二人は少し会話を交わすも、すぐに途切れ、沈黙が続いた。ゆりは、何か話さなきゃと頭をフル回転させた。

 

 美人だよねとか、スタイルいいよねとか、銘柄をすぐ選べてすごいとか……そんな表層的なことを言ってもゆきのちゃんにはつまらないんじゃないかな、何かもっと会話のキャッチボールが続く話題はないか……何も浮かばないのかよ、がんばれよ私のコミュ力……


 「あばばばばば……」

 「……ゆりちゃんって面白いよね」

 「えっ、そ、そう?」

 「……無意識だと思うけど声出てたよ、あばばばばって……」

 「……うそ……消えたい、あば……」

 ゆきのは少し笑った。

 「……ほらまた。見た目と中身が違いすぎるでしょ……」

 「……まじで死にたい……」

 「……でも、そのままの飾らない性格でいてほしいかな……」

 「ゆきのちゃん……」


 少し打ち解けた雰囲気になったところで、曲が始まった。本人映像のLIVE版だ。

 「「あっ……!」」

 曲が何かを理解して、二人は同時に声を上げた。

 「「好きなの!?」」

 二人が互いの趣味に驚いたところで、サキが歌い始めた。しっとりとしたメロコアの英語の歌詞をきれいに歌い上げ、その姿と横顔ににゆりとゆきのはどきどきした。

 「サキ先輩、うまい……!」

 「……すごい……」

 導入部を歌い終える前に、サキがマイクを通して二人に話しかけてきた。

 「株価が思いっきり下がってボードが真っ赤になったとき、ショックを受ける前にこれを叫べ! これが裏生徒会うちらの伝統だ!」

 ギターの演奏とドラムのシンバルの音が消えて無音になるこの数秒間にいつもぞくぞくする。この後にLIVEでは歌詞にない言葉をボーカルが叫ぶからだ。それを真似て、いつの間にかマイクを握りしめた他の三人の先輩を加えた四人が絶叫した。

 「「「「くれないだぁぁぁー!!!!」」」」

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