第7話 胸の大きさ
しまった、先輩たちのコンプレックスのど真ん中を踏み抜いてしまった。サキ先輩もあすか先輩も目が死んでて、話しかけても反応がない。まだ成長期だからとだけぶつぶつ呟いていて目が虚ろで怖いし、私のせいなら、私が何とかするしかない。
「サキ先輩! ちょっと失礼します……、えいっ!」
「……! ん”ぁ”ぁっ!」
思い切ってサキ先輩の胸を揉んだら、先輩が変な声を出して体をびくんと震わせた。目に生気が戻ったが、徐々に顔が紅潮してこちらを睨んでくる。ちょっと涙目になってるし、これ本気で怒られるやつだ……。
「おま、おまえぇぇぇ、何すんだよ!!」
「ひぃ~っ、す、すみません、でもゾンビみたいに逝ってしまっていたので……」
「だからって変なところ揉むなよ! 馬鹿か、この……!!」
「こら、サキ! 叩くのはダメ!」
サキ先輩が拳を振りおろそうとしたところをみやこ先輩が助けてくれた。
「ちょっと胸を揉まれたぐらいでそんなに怒るんじゃない!」
「だって、変なところ触るから……!」
「そうねぇ、可愛い声でえっちな反応しちゃって」
「ぐっ……」
にやにやしながら冷たく言い放つみやこ先輩に怒り爆発寸前のサキ先輩。でも、みやこ先輩はすぐに真顔になって言った。
「ほら、あすかはどうするのよ、まだゾンビィのままよ」
「マダセイチョウキ、セイチョウセイチョウウウウウウウ」
「狂ってやがる、ダメージが重すぎたんだ……」
「成長止まってるのかもって悩んでたからね、ゆりちゃんやっておしまい!」
「あすか先輩も失礼します!」
あすか先輩の胸を揉む……が、あんまり手応えがない。あれあれ? と余計に数回揉むと、控えめな感触と程よい弾力が手に返ってくる。これはこれで良いなぁと心の中でじゅるりと涎を垂らしていると、両腕をがしっと掴まれた。あすか先輩は正気を取り戻したが、すごく強い力で腕を掴まれてものすごく痛い。あと顔がすごく怖い。
「そんなに揉まないと私の胸があるのかないのか、わからないかな~?」
「い、いえ~そんなことないですよ~、お二人とも正気に戻ってよかったです~」
「じゃあ♡ 正気に戻してくれたお礼にゆりのも揉んであげるね~♡ おいサキ! 羽交い絞めにしとけ!」
「Sir, Yes, sir!!」
「……あわわわわ、い、いやぁぁぁぁぁぁ!!」
サキ先輩に羽交い絞めにされて動けない私の胸をあすか先輩が揉みしだいた……が、すぐにその手が止まった。意外とあっけなく終わったことに拍子抜けだ。
「あ、あれ?なんで……」
「あ……あぁ……」
悲痛な声を上げてあすか先輩が膝から崩れ落ちる。私の胸を指さしながら。
「あすか先輩!? 胸に何か!?」
サキ先輩は驚きの声を上げて羽交い絞めしていた手をほどき、私の胸を揉んで、あっと声を上げた。
(私より一回り大きいじゃねぇかよ……!それよりも、『そんなに揉まないと私の胸があるのかわからないのか』とゆりを責めたあすか先輩自身が、自分の胸の小ささを分からせられたこの状況が辛すぎる……!)
サキ先輩が頭を抱えて座り込んでしまった。私はどうしたらいいか分からなくてその場でおろおろするしかなかった。
一方の売り豚側。胸を揉むだけの一連の大騒ぎをする三人を見て、みやこは呆れたように呟いた。
「本っ当、
「ああしてお互い揉みあいっこしたら、大きくなるかもしれませんわ」
「貧しくって可哀そうにって?」
いたずらっぽい顔をあやの方に向けて、みやこは尋ね、あやは笑顔で返した。
「いえ、私もみやこ先輩に揉んでほしい、ですわ」
「そうきたか……」
「……えっ!?……」
何かの聞き違えかとゆきのは驚いてみやことあやの方を向いた。二人は顔色を変えず、互いの視線を外さないまま見つめ合っている。
(……冗談……だよね?)
「目を見る限りは平気そうね」
「そんなことをおっしゃらずに。私はいつでもOKですわ」
(……半分冗談だけど、半分本気っぽい……!)
「ダメよ、私まで持っていかれるじゃない。今日はもう帰るわよ」
「では私も一緒に」
みやことあやは立ち上がり、みやこの腕にあやがしっかり抱きついて、腕組みをした仲睦まじいカップルみたいに見える。
「じゃあね、ゆきのちゃん。買い豚どもをよろしくね」
「ゆきのちゃん、また明日ですわ」
「……え、あ、はい……」
(……付き合ってるようにしか見えないけど……!)
目をぐるぐるさせて一人混乱するゆきの。
「待て……カラオケに行くぞ」
あすかがよろよろと立ち上がって、二人の行き先を止めた。
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