第3話 裏生徒会
「来たわね」
「おー、来たじゃん」
「来ましたわね」
「ゆりは私の隣の席に座ってくれ」
「はい……」
教室の真ん中に机と椅子が向い合せに三席ずつ並べられていた。奥側の三席にそれぞれ人が座っていた。手前側の三席の真ん中にサキ先輩とその左の席にも誰か座っていて、私は空いていたサキ先輩の右隣に言われたまま座った。
私の正面には、たぶん同じ一年生で、背の高い色白のショートカットの子がいた。その隣はお嬢様っぽいオーラを放ってほほ笑む先輩、さらにその隣はポッキーみたいなお菓子をひたすら食べている背の低いジト目の先輩がいた。サキ先輩の隣はロングヘアでスポーツ万能そうな先輩がいた。
(系統は違うけど、みんな顔面偏差値が高すぎる……。べっぴんさん、べっぴんさん、一人置いてべっぴんさん……って、私が『一人置いて』要員か!? ぐぬぬぬぬ……)
一人負けに惨めな思いをしていると、お菓子を食べきったジト目の先輩が口を開いた。
「ゆりちゃん、ゆきのちゃん、ようこそ裏生徒会へ。さっそくだけど、今年はゆりちゃんをロンガー、ゆきのちゃんをショーターに迎えて資金を動かしていくわ。原資は、私とあすかが7億、あやちゃんとサキが5億、ゆきのちゃんとゆりちゃんはまずは1億、夏から3億にします。目標は年率13%」
「異論なし」
「いいすっよ、5億でも何億でも」
「私も異論ありませんわ」
「……わかりました……」
ジト目の先輩の唐突かつ意味不明な言葉に私の脳はフリーズした。話をしている内容が全く理解できなかったからだ。
(え……1億って? 3億とも聞こえたけどどういうこと? 年率13%って?)
「固まっちゃって、ゆりちゃんは大丈夫じゃなさそうね」
ジト目の先輩が苦笑いで言った。
「あ、あの……先輩がおっしゃっていることが全然わからないんですが……」
そうねぇ……とジト目の先輩は上を向いて考えるそぶりをして、こちらを向いて笑顔で言った。
「一言でいうと、ゆりちゃんは3億円で株を買って一年後に3億4千万円にしてね♡ってこと。正確には、30億をみんなで頑張って一年後に34億にしようね、だけど」
「うぇぇぇぇぇぇ、あばばばばばば」
「ゆりちゃん、白目剥いて奇声を上げながら泡吹いたら、ハーフツインでばっちり決めた可愛いお顔が台無しよ」
「あ、私可愛いですか? 今日めちゃめちゃ頑張ったんです!」
「可愛いよ♡ ゆりちゃん♡」
可愛い先輩から顔を褒められて勇気が出たので、自分を取り戻すことができた。
「えへへ……じゃなくて、私株のこととか何も知らないのに、ここに入っていいのかとかそんな大金を動かして大丈夫なのかとか色々と疑問が……」
ジト目の先輩は、今度はトッポみたいなお菓子の袋を開けて、食べ始めた。
「ほうね、まぶルールはおひへるし、ひぶんでもへんきょうひてもらへればだいひょうぶ」
先輩はいったんお菓子を飲み込んだ。
「私たちだって全然わからないから雰囲気でやってるところあるよ。次に、裏生徒会のメンバーにゆりちゃんを選んだのはちゃんと理由があるけどいつか説明するね。最後に、うちの高校は生徒会の活動資金はを生徒が自分で用意することが伝統になっていて、私たち裏生徒会がそれを用意するの。歴代の先輩たちが代々負けないように運用してきた結果が今の種銭になっているから、大金なのは歴史の積み重ねだね」
10万円以上のお金を自分で触ったことがないのに、
「できるできないじゃなくてやるのよ、ゆりちゃん。ここにいるみんなでね。生徒会のため、学校のため、今と未来の学生のため、そして自分たちのために。私たち裏生徒会にはその役割がある」
先輩はいったん言葉を切って、続けた。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は三年の天津みやこ、副会長よ。私の前にいるのが会長の三年の小野寺あすか。私の隣が二年の藤倉あやちゃん。ゆりちゃんを連れてきたのが二年の金剛寺サキ。ゆりちゃんの前にいるのが同じ一年生の真白ゆきのちゃん。みんな下の名前で呼んでね。ストレスがずっとかかる環境だからみんな少しおかしいところもあるかもしれないけど、気にしないでね」
今話をしているジト目の先輩がみやこ先輩、ロングヘアの先輩があすか先輩、お嬢様の先輩があや先輩、私を連れてきたヤンキーの先輩がサキ先輩、同じ一年生のゆきのちゃん……混乱している頭の中で、人の名前と顔だけは覚えようと私は必死に努力した。
「それと、机の中に本があるから家に帰ったら読んでね。最低限のルールを知らないと、説明してもわからないから」
「は、はい、わかりました……」
ゆりは机の中をごそごそと探ると中から本を見つけた。赤い装丁の本には、「入門『株』のしくみ」と書かれていた。
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