第7話 アヤノ姉さん


『ズー・ヴィート侯爵、もうすぐでございます』


『うむ!』


 よき眺めじゃ、真新しく、キラキラ光る千の騎士団、その中央に高性能戦闘魔動車、この魔動車からこの景色を見下ろすワシ、見栄えいいのう。


 ルシタニアからフォルミへの道のりは遠く、険しい。前の冒険者共の怠慢、技師共の魔動制御の失敗で起きたスタンビートの際は、すがるものを振り払い、我が軍の損傷を極力抑えた風のような撤退! ルシタニア中央区に戻ったワシらを男爵様は褒めてくださった。


 撤退から次の進軍準備に半年、雷のような迅速さ、男爵様は出撃の謁見では満足そうなお顔であった。


 さあ、ここを半年で蹂躙し、立ち戻れば伯爵への昇進も間違いないのう。このフォルミは女どもが艶やかでよい。たんまりこの英雄の血を授けてやろう。おや、軍が止まった。ちと手前すぎないか。


『怖れながら、結界が張られ、これ以上の進軍は・・、あ、あの者どもが!』


 フォルミの街が見える。おや、なんか違うぞ、我が中央区にも匹敵しそうな魔動城門と魔動砲らしきものが見える。


 魔動砲はこちらを向いておる。


 夢か?ほえ?


 空に噂に聞いた魔動戦闘飛行機が二機


 うちにもないぞ。なんじゃ?


 門からでかい武器を持ちでかい乳にサラシを纏った女が出てきよった、城門の上には多くの街の者がこちらを睨んでおる。


 サラシ女が口を開いた。


『よく聞け!民を見捨てし屑どもよ!危機に際して身を挺し民を護りし者、それを騎士という!貴族という!それゆえに平時は尊きものとして民は敬い従う!』


『それを平時において利権をむさぼり搾取しておきながら!危機においては縋るものも蹴落とし真っ先に逃げ去る!これに名などない、人でもない、ましてや貴族、騎士は断じてない!』


『権限をむさぼり責任を果たさぬ者どもよ!しかと聞け、この花のイブキ組が水陣のアヤノ!この街の民に成り代わり、ゴミ掃除を致す!一対千じゃ!かかって参れ!』


 アヤノと名乗るものが大薙刀を地面につくとそこから、なんじゃあれは、龍が!み、水の龍?巨大な二柱の龍が!ど、ドラゴンじゃ、伝説の龍じゃ、魔法?あんな魔法など知らん!


『ひけ―――――!戦略的撤退じゃ!!! 龍じゃー、はよ退け!!!』


◇◇◇




ガーオ!ガーオ!ガオー♪


ボバンババボンボンボンボボン!ボバンバボンボンボンボボン!


行くぞイブキは負けない♪ どんなやつでもやって来い♪


行く手を阻む魔物ども!纏めて浄化だ♪



放浪の旅、再開、またそこらの木の枝を投げ、指し示す方に進む。やや、今度は北、ルシタニア国の方向を示した。


とうとう直面するのか、まあいいか!また走る、走る。いけば行くほど街道が整備され、大きな町が見えた。通っている人も増えてきた。でかい正門で並ぶ。私の番が来た。


『マントをとれ、顔を上げろ、身文証をだせ』


マントをとった瞬間、門番たちがざわざわした。


『おい、お前一人か、お前の主人はどこだ』


「あ、あの、どういうことでしょうか・・。私は一人で、これが冒険者ギルドのギルドカードで、これが・・・」


『お前!奇人ではないか、その角、野良奇人か!』


“かわいい面じゃねーか”

“おじさんのペットに”・・・・


デジャブーーー!!なんなんだ、この国は。


『奇人の入国には身文書がいるのう。よし、わしの奴隷になれ、そうすればこの国に入れるぞ。悪いことは言わない。たんまり可愛がってやる』


これもデジャブー!。


 けどなんでなんだろう、こいつらが奇人という者は、ユキ姉さんがいったように、身体がついていけないほど魔力に晒された、つまり自分より相当強い魔物を倒してきたものに現れる現象で、こいつらレベルに侮られるのはちょっと理屈にあわない気がする。


『おい!、こいつらも奇人だ!』


 そっちを見ると、マントを剥がされ、頭に可愛い動物の耳がついている若い娘とその弟?が抱き合って震えていた。


『お願いします。ここを抜けるだけなのです。この国に留まるつもりはございません。その先のカンナミ国に帰るために、通過するだけなのです』


『だまれ!カンナミ国は我らルシタニアの植民地、その国から抜けたということは逃亡奴隷だな!』


『ち、違います。トーレーの街で働いておりましたが、旅の冒険者さんが、私たちの村が魔物に襲われたって教えてくれて、村に戻るため一緒に帰っていたのですが、途中で魔物に襲われ、アレン様、冒険者様が私達を庇って、それで、いや、この通行手形を、』


『だまれ!では、なぜ馬車の荷の中に隠れておった!なぜ奇人であることを隠し立てした!』


『それは・・・』


『ゴブリンすら倒せん奇人共、ルシタニアが守ってやっていることに甘えおって、いづれにしても野良奇人は所有者なしにはここは通れん!通りたくば、わしらの奴隷になれ!』


“今日は収穫日だ”

“おれあの犬女な”

”おれはあの鬼っ子“

”あたいちょうど獣人男のペット欲しかったの“


何回目のデジャブーじゃい。


 そういうことか、奇人とはアタッカークラスの冒険者ではなく、前にユキ姉さんが教えてくれた、獣人族の人たちのことだったんだ。


 二人に向き合う。


「始めまして。私はイブキといいます。ルシタニアのずっと南になるアルベス国の冒険者です」


「もし、お国に帰りたいなら、私を護衛に雇いませんか?」


『え!』


『何をごちゃごちゃ訳のわからんこと言っておる!、おい!鎖持ってこい、こ奴らの分配は後じゃ、牢屋にほり込んでおけ!』


 私に触ろうとした奴に頭突きを食らわす。床に伸びた鼻血ブー1。


『抵抗しおった、弄って構わん、取り押さえろ!』


 鼻血ぶーは汚いんで、“氷葬“で纏めて凍らせる。まあ時間止めたようなもんで死んでない。解けたら戻るって姉さん言ってたな。これでいいか。


「改めまして、いかがですか?決して悪いようには致しません。聞けばご生家の村を魔物が襲っているとか、道中の護衛だけではなく、着けばその魔物を対処しなければならないのではないですか?私はアルベスのトリプルSの冒険者です。そんじょそこらの魔物に遅れはとりません」


『けど、私たちは、冒険者様にお願いできるような持ち合わせは・・・』


「ご心配なく、村の魔物から代金は回収致します。こちとら生粋の冒険者、魔物の存在こそが得難い対価でございます」


『で、でも、』


「さ、さ、一言、雇うと」


 震えて抱き合う兄弟を説き伏せ、護衛となった。聞けばお姉ちゃんがタマちゃん、弟がクリちゃんというそうだ。


 門のサイレンが鳴り響く、外でこっちを見ていた人のだれかが通報したのだろう。二人を抱え、空を行く。飛ばないと決めていたが、二人の村の安全が優先だ。

兄さんもルールは手段で、目的のためのもの、これも手段に囚われるなって言ってた。タマちゃんに聞いたカンナミ国はルシタニアの更に北側らしい。


地上を感知できる高度を保ち、飛んでいく。多分ルシタニアを抜けた。一度街道に降り、タマちゃん、クリちゃんに村の位置をもう一度聞き、スミレの亜空間に入ってもらいその場所まで飛んでいった。


確かに村がある。けど、魔物はいない。

いるのは獣人族の人たちだけだ。間に合ったのか?

村に降り立ち、タマちゃんとクリちゃんを亜空間から出す。

最初キョトンとしていたが、一軒の家に走り出した。


『お父さん!お母さん!』


その家に跳びこみ、そっと覗くと親子?で抱き合っていた。しばらく外で待つ。

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