第5話 何かをしたい


『ここはルシタニア王国の最南端の辺境の地で、フォルミと言います。ここから北に行くと街があります。フォルミはこの最南端のダンジョンを管理する街です』


『街はこのダンジョンから高品質の魔石を持って帰る冒険者ギルドを中心に発展した街でした。このダンジョンと共に発展してきた街でした』


『しかし、ルシタニア王国の新しい王は、魔石という国の基幹資源の採取管理を冒険者ギルドが行うのではなく、国が行うものとしました。今までギルドが安定化のためにダンジョンに設置した施設や冒険者のために設置した施設を国から派遣された貴族や騎士たちが奪い、自分たちで管理しようとしました』


『彼らは自分でダンジョンに入ることもせず、冒険者や魔動技師たちを下に見て、顎で使いました。また角や耳や尻尾のあるものは“奇人“と下げずみ、上位ランカーに多い奇人と言われた冒険者はこの国を去って行きました』


『ここは上位ダンジョンです。力のある上位ランカーが抜け、横柄な騎士たちのふるまいに憤った下位ランカーや魔動技師たちも一人抜け、二人抜けと徐々に少なくなり、とうとうダンジョンから魔物が溢れるスタンビートを起こしてしましました』


『真っ先に逃げ出した貴族や騎士がいなくり、残った数少ない冒険者や技師たちは、ダンジョンを管理する魔動装置を再起動させようと奮闘し、ここまでたどり着いたのです』


『しかし、あまりにも多い魔物達に敵わず、魔動装置の専門家もいなく、ここに退避するしかない状況に陥りました』


「ロメオさんたちは逃げなかったのですか?」


『ここに残った者、死んでいった者達は、たいていフォルミで生まれ、フォルミの冒険者学校で学び、“ウォール”という天空までにそびえるあの山からの清浄な水に生かされた者です。このウォールの水で育まれたこの森と、多くの冒険者の犠牲の上に安定化されたこのダンジョンとも共存する民です。共に生きた、フォルミの民が残る限り、私達はここから去ることはあり得ません!』


『昔からいたルシタニアの騎士は私達と一緒に闘ってくれました。残っていただいた冒険者の皆さんも闘いました。しかし、国家権力を傘にして、あれほど横柄だった後から来た貴族や騎士たち、真っ先に逃げました。あんな輩では・・、私たちはあんな輩ではございません!』


「ごめんなさい・・・・・。大変失礼なことを言ってしましました。少し周囲の見回りをしながら頭を冷やしてきます」


 そんなことはないと逆に謝られたが、寝ているみんなの分の食材をお姉さんに渡し、施設とダンジョンの周囲、ダンジョン第二階層まで見回る。魔物は見つけ次第瞬殺していく。


 これが終わると、お姉さんが教えてくれた街に向けて駆ける。近づくにつれ、怒りが沸々と沸く。


 ダメだ、深淵だ。囚われるな。冷たく怒れ。私は赤い砂塵の一員だ。もう学んだ。囚われない。


 街は魔物に占拠されていた。女と子供は身ぐるみ剥がれ鎖で繋がれ、男は皆殺されたようだ。


 探知で判っていたが、実際の目で見ると堪らなくなる。昨日のうちにこっちも来てたら、との思いで胸が痛くなる。


“過去は覆せない。過去から学び、目の前と未来を見据え、最善の行動せよ” 


 兄さんの声を想い出した。よし大丈夫。冷たく怒る。私には兄さんがいる。深淵ごときにもう囚われない。街の門から入っていく。私を見つけたゴブリンやオークたちが喜びはしゃいでいた。無視し、近づくものは瞬殺し、捕らえられた人たちの方に向かう。


「遅くなりました。助けに来ました。ここにいる皆さんで生き残っている方、全てですか?」


 信じられないという顔で私を見つめる。私の後ろでは、砂塵と火弾と尻尾が魔物達を蹂躙している。


『・・・・ここだけじゃないよ!お姉ちゃんが、お姉ちゃんたちがあっちに連れていかれた!お姉ちゃんを助けて!』


 涙でくしゃくしゃの男の子が教えてくれた。


「わかった。行ってくるね。少しお姉ちゃんのお家にいてね」


 水カッターや土カッターで鎖を切り飛ばした後、弐号機マントの中のスミレの世界に皆を収納した。


 あの子が指さした大きな館に入る。入る前にいくつかの魔物部隊を殲滅した。


 もうこの館以外に魔物はいない。大広間に魔物も人も集結している。そこに入った。


 王座に見たこともない魔物が座り、酒?、血?を飲んでる。


その周りに、同い年くらいだろうか、素っ裸の女の子たちが鎖で繋がれている。こっちに来る魔物を全部潰し、そいつに対峙する。


『やっと娑婆に出て今までの鬱憤を晴らしていたが、どうも手ごたえがなくてな。ようやく活きのいい女を見つけた』


『見つけた!見つけた!』


『あれは僕の!あれは僕の!』


 三つ首、6本腕の人型魔物がしゃべってる。この国の上位の魔物は人の言葉を喋るんだ、坊さんに続き、二匹目だ、なんて思いながら近づく。


「そいつはどーも。あんたにゃなんもないよ、魔物だもんな。魔物ゆえにこっちからの視点での鬼畜の行いをする、そういうもんだろ、さあ、お互いの立場での御託も不要、かかってきな」


『ほう、我を前にしてそんな言葉が吐けるか』


『ツンデレ!ツンデレ!』


『ツンツンしたの犯して、デレデレにしよ!僕の!僕の!』


よく喋る魔物だな。


『我が名はダンタリオン!地獄の72柱・・・・』


 座っていいるまま薙刀で上下真っ二にし、三つの首、六つの腕、二つの足を飛ばす。 


 再生しないように火炎ブレスで焼く。温度を上げ炭も消滅させた。


 あの坊さんの友達だったんだろうか。地獄の何とかって言ってたな。もう少ししゃべらしてもよかったが、坊さんみたいに巨大化しても厄介だったんで先に仕掛けてしまった。


 けど、こいつも私の間合いで前口上吐こうとしやがった、地獄ではやってんのかな。女の子たちの鎖を断ち、スミレの世界に入れる。


 帰る道すがら、亡くなった方々を一か所に集める。動線を片付ける。私もスミレの世界に入り、みんなに回復魔法と、水魔法、風魔法にょる全身の洗浄、穢された女の子にはその治療、弐号機マントによるみんなの衣服の提供と食事の用意をして外に出た。


 ダンジョン施設に帰った。皆起きていた。残していった食事も摂ってくれたようだ。


 スミレから街のみんなを出す。みんなびっくりしていたが、お互い抱き合って無事を祝福していた。ここから出て、暫く施設、施設と街を繋ぐ道、ダンジョンの浅い階層を見回り、魔物がいないかパトロールし戻った。


 皆落ち着いたようだ。施設で助けた冒険者の一人が話しかけてきた。


『イブキさん、いやイブキ様、私はソウジと申します。本当にありがとうございました。街を、皆を救っていただき、あなた様には感謝しかございません。これで、この残された皆で、このフォルミの街が再建できます』


「とんでもございません。私は冒険者です、それが答えです。そして、フォルミの再建ですが、それを手伝わしてください。再建されるまで私もフォルミの一員に加えてください」

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