第2話 ねえ、どうすればいい?


 私は、弐号機の黒マントと共に、編み笠を被り放浪の旅に出る。


目指すはここより北にあるルシタニア王国だ。いや、目指さない。放浪だ。修行だ。


 ここから直接北に向かうと、途中安定化していない場所を通る。私は飛行や転移での移動という手段もあるがそれは違う、放浪だ、自分の足で歩く、もしくは走る。


 私達が安定化した暴走ダンジョンの支配地域は既にAステージ化されている。今ルーベル卿が王となるアルベス・ルーベルという名前の国で、私達の出身地のアルベス国の属国となるらしい。


 よし北に向おう。まだ人はいない。暴走ダンジョンの影響下にあった地域でB、Cステージだ。誰もいない荒野を歩く。出てくるのは魔物だけ。


 よほど人恋しいのか一直線にやってくる。薙刀 “雪様” の餌食にし、成仏させていく。


 荒野を歩きながら考えた。目的ってなんじゃ?わからん。兄さんや姉さんとの絶対的信頼、一緒にいるだけで守られているという安心感、何も考えずに傍にいるだけで二人に癒される感じ、二人が見ててくれる中で活躍できる喜び、カグラとの友情、尽きない会話や切磋琢磨し合う時間を感じさせない楽しさ、これをいつまでも続けたいじゃダメなの?


“兄さんのイケズ“


私は叫ぶ、


“にーいーさーんーのー!! いーけーずー!”


 しゃーない。迷った時はとにかく体を動かす。思いっきり駆ける。道行く魔物をぶった切り、黒いマントをはためかせ、目指すは彼方の山の上、イブキ、いざ見参!って、彼方に見える山?めっちゃ高いんだけど・・。


 てっぺんが雲の上って・・・。


 よし山登りだ。麓は多少の魔物がいたが、登るにつれて魔物は見えなくなる。雲を超えたけど、頂はみえない。えっちら、ほっちら登る。山頂に近づくにつれ唄が聞こえてきた。



“親に先立つこの子らは、親を嘆かせ幾千日か


童にあれども罪深し


娑婆の双親 嘆き声  間近く聞きつつ石を積む


ひとつ積んでは母のため ふたつ積んでは父のため


歌うその声哀れかし“



私は編み笠をとって近づいてみた。


『ひっひっひ、おやおやお嬢ちゃん、こんなところへ何しにきたんですかい』


 魔物?いやいや、そこには坊主?琵琶法師?が山頂の岩に座って、琵琶を鳴らし歌っていた。


『ここまで来れるのはアタッカーなんでしょうが、もの好きも程があるねえ。ここは何もないよ』


「あ、あなたは何をなさっているんですか」


 見るからに怪しい法師に聞いてみる。


『多くの悪の情念が、あんたらアタッカーや冒険者によって天に召されているんでね、一つ見送りの唄をささげております』


「そ、そうなんですか。良く判りませんが、法師さん、その、その唄は手段、目的?」


『これはこれは、難しい話をいきなり持ち掛けられる。手段なんですかね。お嬢さん、浄化された悪意は天高く登るといわれております。けれども、その中には未練が残っている情念が混じっているんですよ。地獄への執着が残っている情念が漂っているんですよ』


『これらを呼び戻し、また悪意として還元して地獄に送り込むための手向けに地獄の唄を捧げております。元の地獄に落としております。悪意の再利用でございます、その手段がこの唄でございます』


「そうなんだ、法師さん、じゃあ、それが手段なら、唄以外の手段でもいいんですか?」


『ひっひっひ、まったく面白いお嬢さんだ。そうですよ。手段は一つじゃないですよ。私の目的は地獄の具現化です。より多くの悪を転換する地獄は狭い。この地上は空いている。悪意を魔力に変換する我々地獄の領域を広げ。多くの魔物を放ち、天に挑むのですよ』


「その目的は良く判らないけど、さっきも聞いたけど、唄以外の効率的な手段があればそっちをやるの?」


『よーく解っているお嬢ちゃんだ』


『お嬢ちゃん、例えば、安定ダンジョンの魔動装置を破壊するとか』


『お嬢ちゃん、例えば、暴走ダンジョンの第二領域の魔物を外にだすとか』


『お嬢ちゃん、例えば、第二領域の魔物に無双するアタッカーを殺すとかですかね』


 坊さんの目の色が変わった。知性が飛び、第二領域の地上にいる魔物の目になった。私を殺める気まんまん。


「なるほどね、目的のためには手段をえらばずってやつっすか?坊さんいいね!分かりやすい例えってやつを今から見せてくれんすか?兄さんが同じこと言ってたわ、目的が大事ってね。手段はかえていいってね!敵ながらあっぱれ!このイブキさまが褒めてとらしますよ!」


「けどそのお坊さんの目的は、私の大事な方の目的にとってあと一段階足らないんすよ。悪意が詰まった魔物らを倒して成仏させるってとこがね」


「成仏?浄化?こそが私の大事なお方の目的っす、愛しき姉さんの目的っす!魔物の具現化はあくまで手段?っすよ。邪魔させないっすよ。御坊、ビンビン魔力を纏っているんすね!かかってきませい!」


 坊主は人型のまま巨大化した。琵琶は大蛇に変化する。おー凄い。しゃべれる魔物、巨大化する魔物、気合はいってんねー。大好きっす。


 その直接的な敵意、やる気マンマン。


 私はボックスから瞬時に愛しの弐号機を出し一体化する。


 大きさでは負けへんでー!実力もな!!


 弐号機の前マントを薙刀 “雪様” に纏い巨大な大鎌とする。後ろマントを手裏剣“風車”に変え上に尻尾で飛ばす。



『我が名はアンドロマリウス、地獄の72柱が・・・』



 一閃、坊主魔物の踏み出していた右足と蛇ちゃんの尻尾を大鎌で切る。二閃、戻ってきた風車が奴の後ろから仲良く坊主魔物と蛇ちゃんの首を飛ばす。討伐!


 けど、地獄の人たちも、栄光の導きもなんで戦闘中に、戦闘の間合いの中で喋るのだろう。騎士のたしなみ?お姉さま方の前口上はカッコいいけど、坊主はちょっと・・・。


 魔石でた。ヒイロカネとは違う。ボックス保管しようと拾ったら、麗しのマイ愛刀“ユキ様”がパクんって食べちゃった。雪様!お腹すいてたんですね!たんまり召し上がれ!


 雪様が変化する、マントいらずで魔剣化する。ぐにゃぐにゃした、しなやかさがある大鎌に変わった?おお!鎌が変化して薙刀にもなる。おお!鞭にもなった。おお、伸びる。伸びる。蛇ちゃん?ありがとう!成仏してね。最終工程完了っす姉さん!


 今日の学び、“目的のためには手段をえらばず”、成長したなー私。私もなんか前口上考えよーかな。

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