守護の英雄

@2367972

消失

「…だから…です。聞いていますか エレウス様?」


目の前で自分に勉学をいつも教えてくれている教師が話しかけてきた。


「ああ、すまない、聞き逃した。」


「仕方ないですな、次はちゃんと聞いてくださいよ、あなたの父親であるジード・グラント様は王家に代々伝わる聖剣グラントを…」


目の前の教師が自分に王家に伝わる聖剣の話をするのは、自分がこのグラント王国をいつか継ぐことになる王子だからだ。王としては珍しく、妻を一人しか持たなかったため子どもがいっぱいいるということもなかった。

ていうか自分ひとりだけなので継承権争いなど起こりようもない。


聖剣グラントは『守護』の力を持っており、国を外敵から守る結界を張ることが出来る。

また、その所有者は圧倒的な防御力を得ることができ、並の兵士などであったら目の前で父が寝ていたとしても傷一つつけることはできないだろう。


よって我が国は代々王家が聖剣を継承し、その力をふるっているために、防衛戦では無敵とされている。


今日の授業が終わった後に、お忍びで城の外から出た。


見渡すと多くの民が笑いながらしゃべっていたり、クエストの報酬が良かったのか、大喜びをする冒険者たちの姿も見える。


「ああ、今日も平和だな。」


この時は、この平和がいつまでも続いていくのだと..そう思っていた......




突然鳴り響いたのは耳をつんざくような爆発音

そして空を見渡すといつも張られている結界がなかった。


「結界が破れたぞー」「いったい何事なの」

民たちが慌てふためいている


「早く城に向かわなければっ」


俺は城へと全力で走り出した..父ならばきっとこの事態をすぐに収めることが出来る。

そう考えてたからだ。

しかし、ようやく城にたどり着いたときにその考えは甘かったと気づかされた。

父と母がいる王城

聖剣の力によって一番強固に守られているはずの城が青い炎によって灰となっていたのだ。

そこにいたのは血だらけの父と母であった。

「父さんっ..母さん..いったい何が」

自分の問いに答えている余力はなかったのだろう

急いで駆け寄ると母と父が最期の力を振り絞って声をだした。

「エレウス..あなたは生きなさい」

「母さんの言うとおりだ エレウス..お前だけでも生きるのだ。この国が無くなってしまっても決して復讐心に駆られてはいけない、この国を燃やしたやつを恨むななんて言わないが自分を大切にするんだ」

「「必ず生きて..幸せになりなさい」」


そう言われ、託されたのは純白の王家に伝わる『守護』の聖剣グラント

今までこのグラント王国を結界で守り続けた聖剣である。

しかし、その聖剣によって張られた結界は、今では破れ何者かの侵入を許してしまったが..


「父さん 母さん一緒に生きて逃げよう」


そう言った途端、球体の青い炎が一瞬で視界を覆いつくした。





「父さんっ...母さんっ...」

目が覚め、周囲を見渡すと

あたり一面が灰で覆いつくされていた。

父や母がいた場所には灰しか残っていなかった。

残ったものは、自分とその手に持っていた王家に伝わる剣のみだった。

防衛戦において無敵の王であるといわれていた父も、優しかった母も、このグラント王国で過ごしていた多くの民たちも..


たった一人の怪物に灰にされてしまったのだ..


普通ならこのまま復讐心に駆られ、あの怪物を追いかけようと思うのだろうが、

そこで父と母の最期の言葉が脳内をめぐった。


「「必ず生きて..幸せになりなさい」」


この国を燃やした奴は決して許せない

しかし、自分が国を崩壊させた犯人を捜して殺すのに人生を費やそうとは思わなかった。


「これから一体どうやって生きていけばいいんだ.」


なぜ結界が破れてしまったのかは分からない

分かっているのは自分が生きている理由がこの手にある聖剣の所有者であった父が最後に聖剣の力によって俺だけを結界で覆ってくれたおかげであり、父と母の最期の言葉により生きて幸せになろうと少しでも思えたことだ。


聖剣の所有者が死んだことにより、剣が自分を新たなる所有者と認め、自分の身体には全能感があふれ、自分の身体がいつもより強固になっていると感じた。

しかし、単純に喜ぶことなどできなかった。


目から溢れる涙は止まらず、後悔と悲しみが胸を締め付ける

自分がもっと強ければ国を..みんなを守れたのだろうか

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