後編
「あーコホン! お、オリヴィア……あちらは何を?」
「お兄様がノアに魔法を教えているんです」
遠くからでもよーく分かる。
フェリクス様の顔がとてもひきつっておられるのが。
「師匠、リビに獣が接近しました」
「そのようだね。一旦中断しよう」
「アイアイサー」
魔法の訓練を一旦止めた私達は、フェリクス様の元へと向かった。
「殿下、いらしてたのですね。さぁお帰りはあちらです」
ごく自然に笑顔でフェリクス様を正門へ誘う師匠に、思わず吹き出しそうになった。
どうやらフェリクス様と師匠は、あまり仲がよくないらしい。
「いや、その、私は今来たばかりで……」
リビの兄である師匠には、フェリクス様もたじたじのようで、強く言えないようだ。
「そうですよ、お兄様。殿下はお忙しい時間の合間に寄ってくださったんです。あまり意地悪言わないで下さいませ」
ズーンという効果音が師匠の方から聞こえ、逆にフェリクス様の方では祝福の鐘が鳴っているような気がした。
師匠、敵はとってみせます!
「殿下、ご無沙汰しております」
「あ、ああ。久しぶりだな。魔法に励んでいると聞いているが……」
「はい! フランシス様のご指導と、リビの笑顔のおかげで、毎日がとても充実しております」
「ふふふ。まぁ、ノアったら」
「本当ですよ。リビの笑顔が私達に勇気と力と元気を与えてくれるんです。そうですよね? 師匠」
「そうさ! 私はリビの笑顔を守るためなら、なんだって頑張れるよ!」
「私もです! 殿下も、そうですよね?」
「あ、ああ。勿論だ」
フェリクス様の顔が曇る。
私達の前で花が綻ぶような笑顔を見せてくれるリビだけど、フェリクス様の前では表情がかたくなる。怯えているのを悟られないように、必死に隠して繕っているような、そんな不自然な笑顔になる。それを、フェリクス様が気付いていないわけがない。
師匠の敵はとった。皮肉るのはここまでにして、本題に入ろう。
「それでしたら、殿下。ひとつ私にご提案があるのですか、聞いて頂けませんか?」
「申してみよ」
「殿下が疲れていらっしゃると、リビの笑顔が雲ってしまいます。そこで私に、浄化魔法で治療させて頂けませんか?」
「浄化魔法を使えるようになったのか?!」
「はい。上級浄化魔法までならマスターしました。まだ超級は無理ですが、心身のリフレッシュ効果ぐらいなら出来ますので」
「分かった、やってみてもらえるか?」
「はい、勿論です」
集中して、今出せる最大の魔力で浄化魔法をかけた。フェリクス様の中にある、魂にかけられた悪しき鎖を全て絶ちきる!
バラバラに砕けた欠片のひとつまで残らないよう、綺麗に浄化して消し去った。
たぶんこれで、呪いは解けたはず……
目を開けると、フェリクス様は涙を流しておられた。
「世界はこんなに、広くて明るかったのだな」
どうやら、呪いは解けたようだ。その台詞は、呪いが解けた時にゲームの中でフェリクス様が仰られる言葉だ。
そしてここからは、ゲームにない新しいシナリオを辿っていくのだろう。
「オリヴィア。その中でも君は、やはり一番輝いて見える」
「殿下……っ!」
呪いが解けても、フェリクス様の中にはリビと過ごしたかけがえのない時間が残っている。
バッドエンドの二人は、相思相愛だった。呪いの力に抗えなくて、狼王子は愛しい月を食べてしまった。
けれどもう、その呪いは解いた。後に残るは、幸せな二人の未来だけだよね!
「師匠、戻りましょう」
「ああ、そうだな」
イヤだーって駄々をこねると思っていたけど、以外にもすんなり付いてきた。
師匠、少しは空気読める方だったんですね!
弟子は今、猛烈に感動しております!
「ノア、これでリビは幸せになれるのか?」
「ええ。殿下を縛っていた悪しき鎖は全て浄化しました。もうこれで、タガが外れて暴走する事はないでしょう。全ての力を、今の殿下ならきっと使いこなせるはずです」
呪いが解けた後、ゲームの中でフェリクス様は完全に人狼の力を操られるようになられた。弱き者を守るために力を使い、皆に慕われる英雄王となられるはずだ。
「そうか、よかった……本当に、よかった……」
「師匠、今までありがとうございました」
頭を下げてお礼を言うと、師匠はとても戸惑っておられた。
「な、何を、言っておるのだ?」
「殿下の呪いも解けて、私の目標は達成できました。いつまでもお世話になるわけにもいきませんので……」
公爵家のリッチな生活とおさらばするのはすごく残念だけど、いつまでも善意に甘えてちゃだめだよね。魔法もかなりマスター出来たし、これからは自立して頑張っていこう。
「私はまだ、君に教え足りない。一生をかけて、君には教えたい事が山ほどある」
師匠の真剣な眼差しに、何故か胸がとくんと高鳴った。イケメンに見つめられたら、仕方ないよね、仕方ないと、何故か心の中で必死に言い訳する。
「つまり、私を一生弟子にしてくれるって事ですか?」
「ちがう」
間髪いれずに否定された。悲しい。
「ノア、私の妻になりなさい」
言葉の意味を理解したら、頭が一気にのぼせたように熱くなる。恥ずかしくて視線をさ迷わせていると、何故か師匠は私の顎に手を掛けた。くいっと、強制的に目線を合わせられる。
「答えはイエスしか認めない」
そう言って、唇を塞がれた。
むしろイエスすら、言わせてくれないじゃないですか!
こうして、「プリズンラバース」の世界にヒロインとして転生した私は、シスコン眼鏡様ことフランシス様の妻となり、王妃になったリビを共に愛でながら仲良く暮らした。
おしまい!
狼王子の攻略に失敗した転生ヒロインは、悪役令嬢の死亡フラグをへし折りたい 花宵 @kasyou
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