中編

「お願いします、学園長。後一年だけ通わせて下さい! どうしても私、浄化魔法を完璧にマスターして、殿下の呪いを解きたいんです! オリヴィア様に助けて頂いたこの命、オリヴィア様のために使いたいんです!」


 卒業パーティが終わった後、私は学園長に直談判をしに行った。

 オリヴィア様の祖父にあたるこの方は、孫ラブなお爺様だ。そのため何とか殿下の呪いの力を弱める事が出来ないか、日々研究しておられるのを私は知っている。


「レノア・バトック。君は確か、貴重な聖属性を持っておったのう。じゃが、生活態度は不真面。実技試験はよくサボっておったようじゃのう。筆記の成績もよろしくない」

「す、すみませんでした! その点に関しては、重々反省しております! これからは気持ちを入れ換えて、真面目に取り組みますのでどうか!」


 その時、扉をノックする音が聞こえた。


「お爺様、少々よろしいでしょうか?」


 え、この声は、オリヴィア様?!

 

「オリヴィア、よく来たのう。卒業おめでとう」

「はい。ありがとうございます、お爺様……って、レノアさん! よかった、無事でしたのね!」


 オリヴィア様は、私を見るなりパーっと嬉しそうに破顔されて駆け寄って来られた。


「オリヴィア様のおかげです。先程は、本当にありがとうございました。自業自得でフェリクス様を怒らせた私なんかを助けて頂いて……」

「ううん、いいのよ。それよりも、ここで何をしているの?」

「ええっと、それは……」


 馬鹿正直にオリヴィア様の前で理由を言うのは恥ずかしい! 

 

「オリヴィア、殿下の様子はどうじゃ?」


 私が困っていると孫ラブお爺様が、助け船を出してくれた。


「前回より、力が強くなっておられます。何とか今日は私の力で抑える事が出来ましたが、それもいつまで持つか……」

「そうか……わしは、可愛い孫娘を守りたい。そこで提案があるのじゃが、レノア・バトック。其方がオリヴィアの力になってくれると言うのなら、優秀な家庭教師をつけよう。どうじゃ?」

「はい、ありがとうございます! 喜んでお受け致します!」


 意味が分からずきょとんとされているオリヴィア様の隣で、私は深く頭を下げてお礼を言った。





 数日後。


「君が、レノア・バトックか。私はオリヴィアの兄、フランシス・フローレンスだ。今日から君の家庭教師を務めさせてもらう」


 どえらい人が家庭教師に来た。

 王国一の魔術師フランシス・フローレンス。魔法塔に引きこもる、シスコン眼鏡様だ。


 この人、キャラが濃すぎて私はよーく覚えている。たまーに魔法の試験官としてゲームで登場してきたんだけど、まぁそこから伝わる妹ラブ感が半端ない。あまり登場しないのに、残念イケメンとして有名なのだ。


 口を開けば「リビリビリビリビ」

 ちなみにリビとはオリヴィア様の愛称である。


「リビの友人らしいが、私は容赦しないからな。これはリビの運命がかかっている。リビを幸せにするために、殿下の束縛をどうにかせねばならない。四六時中リビに纏わりつくあの獣を浄化する。それがリビを救うためにやる、君のミッションだ。分かったか?」


 今、五回もリビって言ったよ。ちょっと真似してみようかな。


「勿論です。リビ様は私の命の恩人であり、大切な友人です。私がリビ様のために頑張るのは至極当然のこと。私はリビ様を救うためなら、どんな試練でも乗り越えてみせますわ。リビ様に助けて頂いたこの命、リビ様のために使えるなんて、これ以上に喜ばしいことなんてありませんもの!」


 どうだ、まいったか?

 あれ、なんでそんなキラキラと瞳を輝かせてこっちを見てるの?


「素晴らしい、合格だ! 君とはとても話が合いそうだ! これからよろしく頼むよ」


 何故か、すごい懐かれた。しかも……


「まぁ、レノアさん! 私の事を愛称で呼んで下さるなんて嬉しいわ!」


 差し入れを持ってきてくれたオリヴィア様にも、ばっちりと聞かれてしまって、恥ずかしい!


 何でオリヴィア様が居るのかって?

 それは私が今、フローレンス公爵家でお世話になっているからだ。

 住み込みで超一流の先生から魔法指導を受けれるという、破格の待遇を孫ラブお爺様がセッティングしてくれたおかげでもある。


「敬称もいらないのよ、リビって呼んでちょうだい」

「分かりました、リビ」


 友よ! 私を裏切るのか! 羨ましいぞ! けしからん!

 という声がどっからか聞こえてきたけど、聞こえないフリしておいた。


「私も愛称で呼んでもいいかしら?」

「勿論です! 私の事はノアとお呼びください」

「ええ、ノア」


 嬉しそうにふわりとリビが笑う。

 その笑顔の破壊力が、半端ない!

 案の定、シスコン眼鏡様の方を見ると「尊い尊い尊い尊い尊みが深い!」と若干壊れかけている。


 画面越しだと分からなかったけど、今なら私、このシスコン眼鏡様の気持ちが痛いほど分かる!


「フランシス様、私達はリビの笑顔を守るために頑張りましょう!」

「ああ、勿論だ! 心の友よ!」


 こうして、シスコン眼鏡様こと師匠の的確な魔法指導のおかげで、私の魔法はみるみる上達した。


 だって、頑張ってるとリビが笑顔で差し入れ持ってきてくれる!

 その笑顔が見たいから、私達はひらすら頑張った!

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