第20話 スフィンクス

 旅人が通りかかると、顔は人間、身体は獅子の怪物が現れ、謎かけを始める。三つの問いかけに正しく答えられなければ怪物に食われることになる。


 第一の問い。

「あなたの母親の子供でありながら、あなたとは兄弟姉妹ではない者は誰か?」


 第二の問い。

「あなたの物でありながら、あなたよりも他人の方が多く使う物は何か?」


 第三の問い。

「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これは何だ?」


 マザコン英雄オイディプスはこれに見事に答え、スフィンクスを自殺へと追い込む。



 さて、君が苛ついているようだから答えを教えよう。


 第一の答えは、「自分自身」である。

 あなたはあなたの母親が産んだ人物だが、あなた自身とは兄弟でも姉妹でもない。


 第二の答えは、「名前」である。

 あなたの名前はあなたよりも他人の方があなたを呼ぶのに使うことが多い。


 第三の答えは、「オリオン座」である。

 そう、あなたはここで失敗し、スフィンクスに食われて終わった。


 元々この謎々が作られたエジプトでは、夜空には常にオリオン座が輝いていた。春には横倒しで地平線から上がり、夏にはオリオン座の両足をつけた状態で上がる。そして秋には三点をつけた状態で上がる。

 当時のエジプトでは有名な謎々であり、子供でも正しく答えられる問いであった。

 オリオン座が見えない地方にもスフィンクスの物語が広まるに連れて、謎々はどの地域でも通用するごく普遍的なものへと変化した。すなわち「人間」である。


 だから覚えておこう。もしあなたがスフィンクスに襲われて謎かけをされたなら、いつの時代のスフィンクスなのかを尋ねることを。

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