第16話 お伊勢参り
お江戸の空からお札が降って来る。神宮大麻と呼ばれる伊勢神宮のお札である。
お蔭参りの始まりである。一度始まればそれは日本全国を熱狂の渦に巻きんで広がる。伊勢神宮へと民族大移動が始まる。江戸時代は勝手に旅行することは罪であったが、赤信号は皆で渡れば怖くないのである。
この現象は六十年周期で繰り返された。
周期的に起きる熱狂行動は普段静かな日本人の代償行動なのだろう。
近代に移ると、この熱狂は戦争に移る。
日清(1894) 日露(1904) 第一次(1914) という風に十年毎に続いた。さすがに第二次(1939)までには二十年空いたのは傷跡があまりにも大きかったためだろう。
日本人に取っては戦争は祭りに代わるものだった。
核武装による支配の時代に入るとおいそれと戦争はできなくなり、この祭りは形を変える。
高度経済成長時代である。日本人は狂ったように働いた。大勢の人間が家庭崩壊を起こし、過労死した。祭りの熱狂の末の死者である。
それもバブルの崩壊により集結した。
それ以来三十年。日本は静かである。だが日本人の本質は変わらない。民族というものの性格はそう簡単には変わらないものなのだ。
そろそろ新しい祭りが始まる頃合いなのだ。
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