第8話 野人
日本には各地に地獄に繋がると呼ばれる穴がいくつも存在する。
その名もずばり『地獄穴』である。
有名なものは富士山の樹海地方に多く存在する。富士山の噴火に伴う溶岩が襲ったときに、倒された木々の後がそのまま洞窟として残ったものである。それにしてもその洞窟の大きさは尋常ではなく、これが過去には我々が見たこともないような大きな木が生えていた証拠ともされている。
富士の地獄穴は迷い込むと二度と地上には出られないと言う。
そしてこういった地獄穴の周りでは野人が必ず目撃される。
野人とは全身毛むくじゃらの猿人である。これも有名な所では広島の比婆山のヒバゴンがある。もちろん比婆山にも地獄穴があると言われている。
日本神話では黄泉の国のことを根の国と呼ぶ。地獄は地面の下にあると考えたからである。
木の根がある地下の国。そこが死者の住まう所。地面を境目として、上下さかさまに根の国は存在する。
だから古い埋葬の跡では、死者は下向きに埋められていることが多い。根の国の世界ではそれが『上向き』なのだ。
そしてその黄泉の国と現世との境を守る番人が、汚れの象徴である『雷』と呼ばれる存在である。この雷、記述では全身毛むくじゃらの人型生物なのである。
地獄穴には雷が棲む。この辺りは記述と奇妙に符合している。
すでに述べたように、地獄穴の周りでは野人の目撃例がある。
四十年前、東北の地獄穴の周りで野人の目撃報告があった。それから二年後埼玉辺りの地獄穴の周りでやはり報告例が出た。さらに二年後には目撃例は南下し、その二年後に広島の比婆山でふたたびヒバゴンの目撃報告が挙がり、これが最後となった。
日本を南に向かいながら、野人の目撃例が連続する。
私にはそれが偶然とは思えない。野人が何かを探しているかのように思う。
誰かが地獄穴の奥の黄泉平坂の黄泉大岩をどけて、黄泉の国から何かを持ち出したのではないか?
番人たる雷の野人はそれを探して地上に出てきたのではないか。
それはいったい何だろう?
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