第6話 バチカンの部門

 巨大組織バチカンにはさまざまな部門がある。


 例えばエクソシストの部門。

 悪魔祓いをやるためにはまず対象の人物が精神病なのか本物の悪魔憑きなのかを判定する必要がある。

 この判定法の一つが声である。悪魔憑きになった人間は一つの喉で複数の人間の声を同時に発声することができる。これは人間の声帯では基本的に不可能なことの一つである。腹話術師でさえできない芸当なのだ。



 例えば聖人判定部門。

 毎年大勢の人間が聖痕が出たといってバチカンに来る。聖痕とは両手両足にキリストが磔になったときのような釘を打った傷ができ、場合によっては血まで流れるというものである。

 その中には有名になって金を稼ごうという詐欺師や、自分は救世主の生まれ変わりだと本気で信じ込んでいる人間なども含まれている。

 この場合の判定基準の一つは聖痕の位置である。大概のものが手の平、足の甲に傷をつけてやってくるが、その時点で偽物と判定される。

 この部位だと骨が細すぎて磔の際に釘を打つと体重で引きちぎれてしまうのだ。そのため磔刑の場合は、手首と足首に釘を打つ。つまり聖痕ができるのはこの位置で無ければならない。

 聖人になりたければ解剖学の知識を身につけておく必要がある。



 例えば聖遺物判定部門。

 神や聖人が残した遺物が本物かどうかを判定する部門である。ここにもやはり偽物が山ほど持ち込まれる。聖遺物と判定されればそれだけで観光の目玉が一つできることになる。

 判定方法は聖遺物に他のものを触れさせる。それが本物の聖遺物の場合、特徴が移されるという。

 例えばトリノの聖骸布の場合、他の布をこれに触れさせれば、聖骸布の遺体の影が新しい布に転写されるという。

 それが本当かどうかは知らない。是非ともその過程を観察してみたいものだ。



 そしてこれは噂だけだがバチカンの最深部には決して表に出ないある部門が存在すると言われている。

 問題はキリスト教にある懺悔という習慣である。

 神の前で罪を告白すればすべてが許されるというこの教え。神父は告白の守秘義務を持つ。だがそれが殺人などに関する場合は警察への報告義務もまた有する。

 さて、ここにマフィアの奥さんがいたとする。旦那から色々聞いたことが気にかかり、懺悔をしてしまう。後でそのことを聞いたマフィアの旦那さんはまずい情報が漏れたことを知る。組織に消されたくなければとこの神父を暗殺する羽目になるのだ。

 だがそれで奥さんが懲りたかと言えばそうでもない。人間は基本的に変わらないものなのだ。

 また同じことを繰り返す。

 こうして一つの教区で三人ほど立て続けに神父が『事故』で死ぬと、バチカンのこの部門が動き出す。

 一介の神父のためにバチカンという組織が動くものかと言うと、その通りとしか言いようがない。法王はこの平の神父から選出されるためだ。だから平の神父でもバチカンにとっては大事な身内ということになり、決して切り捨てられることはない。

 そして最後には問題のマフィアと奥さんが『事故』に合い、すべては丸く収まる。


 これらはすべて表の世界には存在しない闇の話である。

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