第4話 呪いの牛
西部開拓時代の話である。
ある所に二人の兄弟がいた。西部劇に出て来るような口よりも拳が先に出て来るようなワイルドな男たちである。
ある日、その二人の前にはぐれ牛が現れた。丸々と太った見事な牛を見て兄弟の心に良くない思いが芽生えた。
兄の方が叫んだ。「神が定めたもうた権利により、あの牛は俺のものだ!」
先に見つけたのは自分だから牛は自分のものだという意味である。
それを聞いて弟の方が叫んだ。「神が定めたもうたもっと古い権利により、あの牛は俺のものだ!」
その権利を証明するために、弟は銃を抜いて兄を撃ち殺した。
こういった行いはそれが行われた三秒後には後悔で迎えられるものと相場が決まっている。
ご多分に漏れず、このときも弟は後悔した。
「俺は何と馬鹿なことをしてしまったんだ。たかが牛一匹のために兄さんを殺してしまった」
それからその弟は牛を捕まえてその腹に焼き鏝で文字を書き込んだ。
『人殺し』
「さあ行け。行って俺の罪をあらゆる人々に広めるがよい。俺の愚かさをあらゆる人々に伝えるがよい」
そう言って牛を放した後に、弟は自殺した。
やがて西部中にこの牛の目撃例が噂され始めた。
あるときは西、あるときは東。そして人々は知った。それが生きている牛ではないことを。生きている牛ならそれほどの距離を動き回れるわけがない。
そしてもう一つの噂が加わった。この牛に遭ったものは何等かの原因ですぐに死ぬのだ。
その結果、この牛についた名前は『死神牛』だった。呪いをかけられたものの末路である。
西部全体が牛に出逢う恐怖に包まれたとき、一人の豪胆な男がこの牛に遭遇した。
男は死神牛に怯むことなく近づくと、こう問いかけた。
「お前はただの牛だ。お前に何の咎がある」
それから牛の腹についた呪いの言葉を焼き鏝で焼きつぶすと再び放った。
この日以来、死神牛はふっつりと出なくなった。
この男の行った行為を魔術では『祝い直し』と呼ぶ。呪いの方向性を変えて無効化する処置なのだ。だがその実行には真の勇気が要る。
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