第2話 サンダーバード
アリゾナの未確認動物サンダーバードは有名である。
サンダーバードは現地先住民(インディアン)の伝説に出てくる鳥で、これが出現すると嵐になるのでこのような名前がついている。
「アリゾナ(arizona)」「サンダーバード(thunderbird)」で検索すると古い写真が無数に出てくる。
それらの写真に写っているのは翼竜プテラノドンである。もちろんいずれも出所は不明であり、すべて(根拠はないが)捏造写真と見なされている。
まあ、ぱっと見た目にできの悪い作り物だなというのも混ざってはいるが。
この中に一枚、翼端六メートルの大きなプテラノドンが写っているものがある。周囲にはライフルを持った騎兵隊が一緒に写っている。捏造の声が高い一品である。
"The Tombstone Epitaph newspaper ran an article on April 26, 1890"
だが私はこれは本物ではないかと思っている。
その論拠は写真に写っているプテラノドンの翼に毛が生えていることである。
プテラノドンの翼は長い間つるんとした皮の翼だと思われていたが、近年、化石の顕微鏡写真の解析により毛穴が確認された。つまりは翼には毛が生えていたのである。
この写真は研究結果が出るより七十年前に公開されているもので、捏造品だとすれば学説に背いてわざわざ翼に毛を生やすのはオカシイのである。
この大きさのプテラノドンでも体重は六十キロ前後。アリゾナではプテラノドンに襲われて攫われそうになった子供の報告例が多数あるのだが、そのいずれも失敗に終わっている。それも道理でプテラノドンの飛翔力では少年の体重を持ち上げることは不可能なのである。(映画ジュラシックワールドの描写はもちろん嘘)
また羽毛を持つ鳥に比べて翼竜の皮の羽は揚力が低い。そのためプテラノドンが飛翔するためにはアホウドリのように崖から飛び降りて上昇気流に乗って滑空することが必須となる。
このことは伝説のいくつかに符合する。
つまりプテラノドンはアリゾナ砂漠のような人間がほとんどいない荒野の中の崖に営巣している。そして天気が崩れる前の強い上昇気流が生じている時しか遠くまで飛べない。
さらには攫われそうになった少年たちの多くが新聞配達員であり早朝襲われていることも考え合わせると、プテラノドンは夜行性だ。
隕石落下から絶滅までの千年続いた地球規模の闇夜の間に、恐竜たちは夜目が効くように進化した。その子孫である鳥たちでさえ一般的なイメージとは異なり夜目が効くものは多い。
こういった条件が重なると目撃例は極端に減少する。夜空をどれだけ飛び回ろうが、UFOのように発光しない限りは誰も気づきはしないのだ。
これでは野生生活で視力が極端に良かった当時の原住民であるインディアンたちの伝説の中にしか目撃例が残らないのも道理だ。
いまだ現代の人々の目を逃れて、彼らは細々と闇の中を生きのびているのである。
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