第1話 ホムンクルス
錬金術の奥義にはホムンクルスという人造人間の製法がある。
それは次のようなものだ。
男の精液と女の経血を混ぜ、人肌の温度に保つと小さな胎児が生成されることがある。これを常に新鮮な馬の血液の中に浮かべ正しく温度を保つと小さな人間にまで成長する。これが錬金術の小人ホムンクルスである。
ホムンクルスはこの世の中のあらゆる知識を持っているという。
他愛もない御伽噺だが、少しばかり考えてみよう。
女性の経血の中には使用されなかった卵子が含まれている。これに精子を加えると条件が良ければ受精卵が作られる。
胎盤の形成には子宮が必要だと思うかもしれないが、実は胎盤は受精卵側から発生する。子宮壁は胎盤が成長する土壌を提供するに過ぎない。つまり周囲に新鮮な血液があれば胎盤は成長するし、胎盤を通じて胎児は栄養と酸素の交換が可能である。
結局のところホムンクルスとは、中世の技術で行われた人工授精だと言える。
成功率が極端に低いのも不思議ではない。温度管理や血液交換タイミングを少しでも間違えれば超未熟児である胎児はショック死する。
秘密の知識を得るために子供を育てようとするとは、昔の人は奇妙なことを考え出したものだ。
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