神龍戦 後半戦
馬は加速しながら一心に進み続けている。正直、乗馬がここまで辛いとは思わなかった。
「で、どうするの!?」
周りは雷鳴が響き、叫ばなければ声も聞こえない。
「我々が所有する翼竜の場所まで向かいます。」
「翼竜? 神龍とは違うのか?」
「いわゆるドラゴンですよ。翼の生えて飛行するタイプです。それに乗って神龍まで接近します。」
そういえば神龍は翼が無くて、〝
雷鳴が響き渡る中、ようやく駐屯地が見えてきた。
「えっ、はっ! ドラゴン!」
「だからそう言ったでしょう。」
「カッケーーー!」
目の前にはRPGの中で見ていたドラゴンが鎖に繋がれている。これは流石に胸が踊ってしまう!
「早く行こうぜ!」
「そうですね。善は急げと言いますから。」
ユグネスは兵士に出発の準備を命じた。すぐに手際良く準備をし始めた事が、チェルの言葉の信憑性をより引き上げていた。
兵士の誰かがそっとつぶやく。
「おい、聞いたか?東の村は大火事だとよ。」
(嘘だろ? まだ1時間も経ってないぞ。)
一刻を争っているのは誰の眼にも明らかだった。
「シュンヤ様! 出発です! 乗ってください!」
「OK!」
飛び乗ってみると、ごわごわとした厚い皮膚が瞬也を
出迎える。ユグネスの一言で翼竜は空へと舞い上がった。
「……本当に空を飛んでる。って、もしかして俺、緊張感無さすぎ?」
「いえ、それぐらいが丁度良いです。だからこそ異世界から来た意味がある。」
―――スッ
悪寒を感じ、全身が震えた。心臓が激しく鼓動を打っている。空を見上げた。神龍の腹だ。
「!! もう来たのか。 掴まってください! 攻撃されます!」
紙一重で雷撃を避け、高度を更に上げる。対して神龍は瞬也を目掛けて突進した。
迫りくる顔は覇気のような物を
「少し距離をとります! いよいよです!! ご準備を!!」
翼竜が一気に加速して神龍から離れた。急な対応だった為に霧の中へと突っ込む事になってしまった。だいぶ視界が悪い。不安と恐怖を煽ってくる。
「シュンヤ様、これをお渡しします。」
ユグネスはそう言うと布に包まれていた球体を手渡してきた。
「これは?」
「蒼玉です。こちらをピンポイントで奴の
「ふぅ、やるしかねぇな。でも翼竜の背中だと厳しくないか?」
「大丈夫です。策は練ってありま―――」
霧を抜け、横を見た時にはすでに神龍が並走していた。まずい、逃げ切れない!
ユグネスはもう一度上昇したが、流石に今度は距離をとる事も叶わない。
「シュンヤ様、ここで決めます!!」
ユグネスに急に手を引かれたかと思えば、空中に放り出され二人で落下した。
「は!? この高さから落ちれば普通に死ぬぞ!」
「フッ」
またユグネスは余裕を感じさせる顔で笑った。そして指をクイッと動かすと2人とも宙に浮いた。先程の奇襲と同様に床が生成され、シュンヤはゆっくりと着地する。
「ビビった~。」
「この床はしばらくの間は崩れませんのでご安心を。私は神龍を引き付けます。では後は任せました!」
ジャストタイミングで翼竜が戻り、ユグネスは行ってしまった。
一人になってしまった。
一旦、呼吸を落ち着かせる。腕に抱えた蒼玉を地面に置き、蹴りやすい場所に固定した。
落ち着け。翼竜に乗ったユグネスは神龍に追いかけられている。
上空に浮かんでいると地上の建物が燃え盛っているのがよく分かる。あの神龍は、やはり憎い。
「シュンヤ様!」
理解している。もうすぐ来るんだろ?その時が。
怖い、怖い、本当に怖い。今になって足がすくんできた。
俺はプレッシャーに弱い。練習試合でもすぐにシュートをミスしてしまう。でも、それではダメだ。
これは言わばPK戦なのだから。
神龍の眼が迫ってくる。的の大きさと距離との比率を考慮すれば、サッカーのゴールの範囲と大差ないだろう。
思い出せ。ユグネスの姿勢を。その時の威厳を。ミスは許されない。許さない。
―――来た
龍の眼が前方に現れた。助走をつけてボールに向かう。気分は最高潮に達していた。
それに呼応するように蒼玉が白く輝く。
あぁ、眩しい。
左脚を踏ん張る。更に輝き、蒼玉が白くなっていく。
狙いをつける。
蒼玉は周囲の稲妻を圧倒する程に光っていた。
全身全霊で蒼玉を右足で蹴り上げる。
蒼と白の光が交じり、
流れ星のように龍の眼へ向かった。
一度限りのPKよ、決まってくれ。
『
一筋の光は龍の眼を突き刺した。神龍は片眼が潰れた時と比にならない程の声で、叫び、暴れ、発狂した。空に
「良かった~。あ~緊張した。ん?」
床の水晶が突如として消えた。何も抵抗できずに落下していく。
「またこれかよ!!」
「シュンヤ様ーーー!」
翼竜に乗ったユグネスが瞬也を受け止めた。……満面の笑みで。
「素晴らしい! 素晴らしすぎる! カッコ良かったです! 貴方は英雄そのものだ!! 右足でここまで綺麗に蹴れるなんて!」
(アハハ。当たり前の事なんだけどな。でも、まぁ、良い……か。)
ユグネスに笑い返した瞬也の眼は自信に満ち溢れていた。
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