ハーフタイム

 周りにいた騎士達はほっとしたような面持ちでいたが、すぐにユグネスの救助へと行動を切り替えた。


 瞬也はろくに身動きがとれず、それでも何とかして一歩を出した時だった。

「シュンヤ様、お怪我はありませんか?」

 咄嗟とっさに振り返ると、声の主がチェルである事がわかった。彼女も同じように馬車に乗ってきていたが、上流階級に向けた装飾の異なるものであった。彼女の裕福さが鼻につきはしたものの、他に聞くべき事が山ほどある。


「俺はこの後何をすればいいんですか?」

「すぐに駐屯地へと向かって頂きます。神龍も怒り狂っているはずなので、私達もいち早く討伐をしてしまいたいのです。」

 瞬也は特に何も言わず、ただチェルを見つめながら次の言葉を紡ごうとした。

「お気持ちはお察し致しますが、睨みつけられても困ります。」

「い、いや! そんなつもりじゃ! とにかく目的地に向かいましょう。」

 また目付きの悪さを再認識させられてしまった。


 再び馬車に乗り、神龍へと向かい出した。横にチェルが座っているが、似たような状況をほんの少し前に見た気がする。沈黙を避けるために瞬也が口を開いた。


「いくつか質問しても良いですか?」

「はい。何でしょう?」

「なんでもっと早くから神龍を討伐しなかったんですか? 少し前から騎士の皆さんが右利きの練習をする事は出来たはずです。そうすれば俺を呼ぶ必要もないし。ぶっちゃけ物事がトントン拍子に上手く行き過ぎています。」

「そう、ですね。」

 ヤバイ。流石に雑多した感情を押し出し過ぎてしまったかもしれない。

「実はあの詩には続きがあります。但し、国民には伏せてありますが。」


 そう呟いて彼女は唄い出した。

『……英雄、右足にて蒼玉を蹴る。

 まなこに当たり、王国たちまち蘇る。


 英雄の父、五万の兵に討伐を命ず。

 生きて帰りし者無し。

 英雄の母、異世界の者なり。英雄のみ右足を使いこなす事、叶わん。』


「つまり……?」

「五万の兵でも敵わぬ相手なのです。正攻法で勝つ事は不可能でした。どうしても入念に準備をする必要があります。むしろ作戦がスムーズに進まない方が予想外なのです。」

「成る程。じゃあ、俺が呼び出されたのは後半部分の“異世界のもの”だからか。いや、ならプロ選手とか呼んでくださいよ!」

「異世界転生とか言いますけどそんな簡単ものじゃないんです! 召喚する個人を指定するなどもってのほかなんですよ!!」


 国を賭けた戦いであるが故に、チェルでさえ熱くなってしまうかと思われたその時だった。

 突如として落雷が発生し、馬車が大きく揺れた。馬が悲鳴をあげて停止し、二人は勢いよく前に突き飛ばされた。

 チェルが扉を思い切り蹴って開ける。急いで外へ出てみると、不穏な色をした空が出迎えた。

「神龍が暴れ始めたようですね。当然ですが。」

「チェル様ーーー!」

 負傷したユグネスが馬に乗りながら呼んでいる。あの高さから落ちてもなお元気に叫んでいるのが信じられない。

「シュンヤ様! 早く乗って下さい!」

 手を差し出しながらユグネスが近寄ってくる。


 戸惑いは未だに残っている。納得していない所も多々ある。殺しなんて動物でも御免だ。しかし、正義の英雄ヒーローを気取ったとしてもやらねばならない事が確かにあった。


 瞬也はユグネスの手をとり、思い切り地面を蹴って馬に乗った。

「はぁ……、俺、神龍あいつの眼が嫌いなんだ。俺に少し似ているからさ。」

 ユグネスはかすかに微笑ほほえんでいたが、その顔は殺気も同時に持ち合わせていた。

「だから何が何でも殺ってやんないとな!」

 ユグネスが鞭を叩いて馬を加速させる。

「行くぞ!! 神龍の元へ!!!」


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