連合軍決起会という名の晩餐会へ

「んー……これで大丈夫かな?」

「はい! とても素敵です!」


 夕方になり、晩餐会のための衣装に着替える僕を、イルゼが手放しで褒める。


「あはは、君がそう言ってくれるなら安心したよ。だって、隣を歩く君に恥をかかせるわけにはいかないからね」

「そ、そんなことはありません! 私はあなた様の隣にいるだけで、天にも昇る心地です!」

「あ、あははー……」


 ものすごい勢いで、ずい、と身を乗り出すイルゼに、僕は苦笑する。

 だけど……イルゼ、何かあったのかな? 

 いつになく積極的で自信のようなものがうかがえるし、それにその……いつも綺麗だけど、今日は特に輝いて見えるなあ。


「だ、だけど、イルゼだってその……ドレス、すごく似合っているよ」

「ふふ……ありがとうございます」


 胸に手を当てながら、蕩けるような笑顔を見せるイルゼ。

 そんな彼女の美しさに、僕は思わず見惚れてしまう。


「……ん。マスター、ウチは?」

「もちろん! カレンだってすごく可愛いよ!」

「……えっへん」


 僕がサムズアップして褒めると、カレンは誇らしげに小さな胸を張る。

 いや本当、可愛らしいなあ。


「……ウチは二番・・だから、当然」

「? 二番・・?」

「ふふ、頑張ってください」


 はて? 二番・・って一体何の二番・・なんだろう?

 イルゼに慈しむように頭を撫でてもらって目を細めているカレンを見ながら、僕は首を傾げる。


 ま、まあ、大した意味はないか。ないよね?


「それよりもルイ様、そろそろお時間になります」

「そっか」


 僕は最後に鏡を見てチェックをすると。


「イルゼ……どうぞ」

「はい……」


 イルゼの前でひざまずき、差し出す僕の手に、イルゼは自身の細い手をそっと添えた。


「さあ、行こう」

「はい」

「……ん」


 僕達は部屋を出て、大聖堂の前へと向かう。

 もちろん、今日の晩餐会の会場となる、ラティア神聖王国の王宮へ向かうために。


「うむ、来たか」

「うふふ、お待ちしておりました」

「ルー君こっちこっち!」


 既に大聖堂の前に来ていたオフィーリア、ナタリアさん、ジル先輩、クラリスさんが笑顔で手招きをする。

 帝立学院にいる時のノリで駆け出しそうになるけど、さすがにぐっと堪えた。


 だって今の僕は、イルゼをエスコートしているわけだからね。


 それにしても。


「? どうした?」

「へ? あ、ああいや、オフィーリアがドレスを着ると、なんか新鮮だね」


『醜いオークの逆襲』では基本的に剣と甲冑姿……つまり、くっころ姫騎士スタイルだし、学院でも制服を着ているからね。

 あ、メインヒロインだけあって、もちろんドレス姿もすごく似合っているよ。


「ふふ、私もこの姿は少々動きづらくてかなわん。普段の制服や訓練着のほうが好きなのだがな」

「ハア……」


 苦笑するオフィーリアとは対照的に、盛大に溜息を吐くクラリスさん。

 多分クラリスさん的には、もう少しブリント連合王国の第四王女らしく振る舞ってほしいってところなのかな。まあそんなの、オフィーリアだから無理だけど。


「私達のドレスについては、おっしゃってくださらないのですか?」

「そうだよ! ボク、精一杯おしゃれしたんだからね!」

「あ、あははー……もちろんナタリアさんもジル先輩も、すごく綺麗ですよ」


 綺麗どころか、二人共お胸様がすさまじいので、ドレスからはみ出しそうになってますけどね。おかげで視線が……って!?


「ふふ……こちらにもありますよ?」


 ぐりん、と首を無理やり向けられ、視界に飛び込んできたのは負けず劣らず……いや、それ以上に圧倒的なお胸様。もちろん、持ち主は僕の恋人イルゼだ。

 だけど、ちょっと力が強すぎじゃない? おかげでむち打ちになりそうなんだけど。


「さあ、みなさん。馬車に乗ってください」

「おっと、そうだね」


 ということで、僕は一人一人エスコートして馬車へと乗せ……ようとしたんだけど。


「…………………………」

「…………………………」

「…………………………」

「?」


 牽制し合うナタリアさん、ジル先輩、カレンと、状況がよく分からず首を傾げるオフィーリア。

 もちろん、空気の読めるクラリスさんは、そんな三人に巻き込まれないようにと先に馬車に乗り込んでいる。


「うふふ、私は次の馬車に乗りますので、お客様のジルベルタ先輩はお先にどうぞ」

「いやいや、聖女のナタリアちゃんを差し置いて、そんなことはできないよ」

「……むー、二人共早くする」


 ……どうしてこの三人は、そんなに譲り合いの精神を発揮しているんだろうか。


「ふむ……仕方ない。ルートヴィヒ、イルゼ、私達は次の馬車に乗るとしよ……っ!?」

「オフィーリアさん、何をおっしゃっているのですか? 既にクラリスさんがお乗りになっているのに、主人のあなたがいつまでもここにいてはいけませんよね?」

「うんうん! 従者は大事にしたほうがいいと思うな!」

「……オフィーリア、早く乗る」


 何故か三人から白い目で見られるオフィーリア。お可哀想に。


 結局、三人がジャンケンをした結果。


「むううううう! こんなの卑怯だ! やり直しだよ!」

「……納得できない」

「うふふ、よろしくお願いしますね」

「は、はあ……」


 フィーリア、クラリスさん、ジル先輩、カレン組と、僕、イルゼ、ナタリアさん組に分かれて馬車に乗り込み、王宮へ向かうこととなった。

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