女子達の会合②

■イルゼ=ヒルデブラント視点


「……ん。イルゼ、おめでとう」

「カレン……」


 私の袖を引きながら、カレンが祝福してくれました。


 ですが、そんな彼女を見て、私は複雑な思いになります。

 彼女もまた家族に棄てられ、ルイ様しかよりどころもありません。


 そんなカレンから、私はルイ様を奪ったのですから。


「そ、その……あなたも、よろしいのですか?」

「……ん。私にとってマスターは、家族以上・・・・の存在・・・。それは、イルゼも一緒」

「あ……カ、カレン……」


 まさか、カレンが私のことをそのように想っていてくれたなんて……。


「わ、私も、あなたのことは妹のように想っています……っ」

「……えへへ」


 感極まった私は、カレンを思いきり抱きしめます。

 カレンも嬉しそうにはにかみながら、私のことを抱きしめ返してくれました。


 私は……ルイ様だけでなく、こんなにも素晴らしい皆様に囲まれて、本当に幸せです……。


「さて、そういうことですので、ルートヴィヒさんの二番が誰なのか、この際なのではっきりとさせておきませんか?」


 まるで場の空気を変えるように、ナタリア様がぽん、と手を叩きました。

 あー……私はともかく、今度は二番の争いが始まるのですね……。


「うふふ……まあ、私は“聖女”ですし、イルゼさんに代わってルートヴィヒさんの隣に相応しいのは私しかいませんね」

「ちょ、ちょっと待ってよ! それを言うなら、ボクだってガベロットの王女だよ! 聖女にだって負けてないんだから!」


 ナタリア様の言葉にすかさず反応し、ジルベルタ様が抗議します。

 確かにお二人共、そのお立場を考えればいずれもルイ様に相応しい御方です。


 私などよりも、ずっと。


「……むー。イルゼ、そんな顔はよくない」

「カレン……?」

「……イルゼは、マスターの一番」


 ふふ……そうでしたね。

 自分のことを卑下してしまっては、誰よりも私を選んでくださったルイ様に失礼ですね。


「はい……私はルイ様の一番・・ですから」

「……ん。そして、二番・・はウチ」

「「っ!?」」


 シレッと二番・・を宣言したカレンに、ナタリア様とジルベルタ様が勢いよく振り向きました。

 こ、これは……このままでは骨肉の争いが……って。


「フフ、これはどうなるか見ものだな、クラリス」

「そうですねー……」


 この状況を他人事のように愉快そうに笑いながら眺めているオフィーリア様と、遠い目をしているクラリス様。

 そういえば、従者であるクラリス様はともかく、オフィーリア様はルイ様のことをどう思っていらっしゃるのでしょうか。


「その……オフィーリア様は、よろしいのですか?」

「ん? 何がだ?」


 おそばに寄って尋ねる私を見て、キョトン、とするオフィーリア様。

 ああー……そういえば、オフィーリア様は恋愛よりも剣でした。


「ハア……イルゼさんからも殿下に言ってあげてください。『このままでは、一生結婚できませんよ』と」


 溜息を吐きながら、呆れた表情でオフィーリア様を見つめるクラリス様。

 心中、お察しいたします……。


「な、なんだと! 私だって、その……殿方の一人や二人、すぐに……」


 私達のやり取りを見て、ようやく言葉の意味を悟ったオフィーリア様が強気なことをおっしゃいましたが、どんどん尻すぼみになっていきます。

 そんなお姿が可愛く思えてしまい、私の中に悪戯心が芽生えてしまいました。


「そうですか。私がお見受けする限り、ルイ様以外の殿方と会話しているお姿を見たことがありませんが」

「むむ!? そ、それはだな……」

「イルゼさん。学院では、殿方から殿下は避けられていまして……」

「そ、そうなんですか?」


 落ち込むオフィーリア様と、深く頷くクラリス様。

 そ、それは意外でした……このように美しい御方ですから、それなりに殿方から言い寄られていると思ったのですが。


「その上、ルートヴィヒさんくらいしかまともに話もできないほど奥手ですので、もういっそナタリアさんやシルベルタ先輩のようにルートヴィヒさんとくっつけばよいとさえ思っています」

「なななななななななな!?」

「痛い!? 痛いです!?」


 オフィーリア様が顔を真っ赤にし、クラリス様をポカポカと叩く。

 照れ隠しとはいえ、少々強く叩き過ぎではないかと思いますが、加減しろというほうが無理ですね。


「ボ、ボクが先に告白したんだから、ボクが二番!」

「うふふ、面白いことをおっしゃいますね。ルートヴィヒさんと知り合ったのは、私が先ですよ?」

「……ん。一番であるイルゼの妹のウチが二番」


 ……こちらはこちらで、まだ言い争いをしていますね。


 いつまでも決着がつきそうにないその様子を見て、私は思わず口元を緩めました。

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