女子達の会合①

■イルゼ=ヒルデブラント視点


「はう……ルイ様は、いつも私のことばかり気にかけてくださって……これでは、あべこべではないですか」


 自分の部屋の扉に持たれながら、私はルイ様が握ってくださった手を抱きしめる。

 今もこの手に残っているルイ様の温もりが、消えてしまわないように。


 すると。


 ――コン、コン。


「? はい……」


 一体、誰が尋ねてきたのでしょうか……。

 ルイ様であれば、呼び鈴でお呼びになるはずですし、カレンはノックをしたりせずそのまま扉を開けようとするでしょうし……。


 私は【千里眼】を発動して扉の向こうの人物の気配を探ると……ナタリア様をはじめ、オフィーリア様、クラリス様、ジルベルタ様、それにカレンまで?


「うふふ、少しよろしいですか?」

「は、はあ……」


 扉を開けるなり、五人が部屋の中へと入ってきました。

 い、一体どうしたのでしょうか……。


「そ、その……」

「実は、イルゼさんにご相談がありまして」

「私に、ですか……?」


 私に相談事とは、何でしょう……。


「もちろん、ルートヴィヒさんのことについてです」

「っ!?」


 ルイ様の、こと……。

 その一言で、私はキュ、と拳を握った。


 告白なされたシルベルタ様はともかく、ナタリア様達は私がルイ様と恋人同士になったことをご存知ありません。

 おそらくは、そのことについて問いただすおつもりなのでしょう。


「あ、イルゼちゃん、そんなに身構えなくても大丈夫だよ。ボクが君に提案したことの延長みたいなものだから」

「あ……」


 私の様子に気づいたジルベルタ様が、ニコリ、と微笑んで緊張を解きほぐすように告げます。


 シルベルタ様の提案。

 それは、身分が低くルイ様の隣にいるのに相応しくない私にとって、最上の提案。


 ルイ様は、私のことを誰よりも愛してくださいますが、あの御方はバルドベルク帝国の皇太子です。

 私のようなものが隣にいては、いつか必ずご迷惑をおかけしてしまう。


 ですが、ジルベルタ様はそんな私に、こうおっしゃってくださったのです。


『ルー君の一番・・はイルゼちゃんで、ボクが二番・・になれば、全部解決するよ』


 そう……ジルベルタ様は第二夫人という立場を甘んじて受け入れ、私を立ててくださった上で、ルイ様への外圧から矢面に立ってくださるというのです。


 私にとって、これ以上の提案はございません。

 これなら、私は愛しい御方のおそばにいつまでもいることができますし、ルイ様も皇太子として……いえ、バルドベルク帝国の皇帝として、誰からも後ろ指を指されるようなことはありません。


 だから、私はジルベルタ様のこの提案を、二つ返事でお受けした……っ!?


「オ、オフィーリア様!?」


 突然オフィーリア様に強く抱きしめられ、私は思わず混乱してしまいます。

 ど、どうなさったというのでしょうか!?


「それよりもまず、言わせてくれ……イルゼ、おめでとう! やっと想いが通じたのだな!」

「あ……」


 オフィーリア様のお言葉に、胸が熱くなります。

 そう、ですね……オフィーリア様は、あのルイ様との一騎討ちの時から、ずっと私のことを応援してくださって、それで……っ。


「ありがとう、ございます……っ」

「フフ……泣く奴があるか。せっかく想いが通じ、結ばれたのだぞ?」


 私の顔をのぞき込みながら、太陽のような笑顔を見せるオフィーリア様。

 今ならルイ様がオフィーリア様をイケメンとおっしゃる意味が、よく理解できます。私でなければ、この破壊力にやられてしまっていたことでしょう。


「うふふ、話を戻しますね。それで……私としましても、イルゼさんを祝福させていただきたいのと、私も二番手・・・に参戦したいと思いまして」

「グス……ナ、ナタリア様も……?」


 そ、その……私を祝福してくださるのは嬉しいのですが、ルイ様のことは二番・・で本当によろしいのでしょうか……。


「そうですね……私も、あなたに負けないくらいルートヴィヒさんを愛しておりますが、それでも、イルゼさんと想いの・・・種類が・・・違う・・のも事実です」

「想いが……違う……?」


 ナタリア様の言葉に、私は戸惑ってしまいます。

 ルイ様を愛しているということに、そのような区別などできるのでしょうか……。


「うふふ……私の場合は、ルートヴィヒ様をしゅミネルヴァよりもさらに上の存在として、崇拝の想いが強いですので」

「あ……」


 なるほど……ナタリア様の中で、ルイ様は神に等しい存在として位置づけられているのですね。

 それもそれで想いが強すぎるような気もしますが、私も神とルイ様を比べれば、ルイ様を選ぶことは間違いありませんので、その……あれ? それって同じでは?


「そういうことですので、私はイルゼさんとルートヴィヒさんを応援しますよ? ただ、半分くらい私にルートヴィヒさんを独占させていただければ、ですが」

「はう……」


 ナタリア様がここまで譲歩してくださっているというのに、それをよしとできない私がいます。

 その半分すら差し出すことを躊躇ためらってしまう私は、欲が強すぎるのでしょうか。


「……ん。イルゼ、おめでとう」

「カレン……」


 私の袖を引きながら、カレンが祝福してくれました。

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