なんだか聖女にしてやられた感じだね

「あ、あははー……話が大きい上に、一気に進んじゃって戸惑っちゃうね……」


 会議が終了し、僕は頭を掻きながら苦笑する。


 参加した全ての国が参加を表明して反イスタニア連合軍が結成され、その後、対イスタニアの方針について協議した。


 まず、参加国全ての署名をもってイスタニアに対し、『魔導兵器』の即時廃棄、ガベロット海洋王国への軍事介入に対する正式な謝罪と賠償、参加国が選抜する調査団の受け入れ及び調査の実施について受理するよう通達する。


 イスタニアがこれらの条件を受け入れるのであればよし、そうでないなら、参加国は今後イスタニアとの取引を全て停止するとともに国交を断絶、中央海メディテラを含む航海権を認めないものとする。


 海路を絶たれたイスタニアは陸路に活路を見出すしかないが、あいにくイスタニアに直接面している国は、連合軍参加国であるボルゴニア王国とフランドル王国の二国のみ。


 もちろん、ベルガ王国をはじめとした今回の会議に参加していない国々との取引は引き続き可能だけど、あいにく“ゲート”では多くの魔力を消費する性質上、大量の物資の輸送はできないし、他国からイスタニアに持ち込むにしても、ボルゴニアやフランドルの検閲がある。


 つまり……イスタニアは、これで完全に孤立することになる。


「というか、今日の会議っていきなり決まったように見えるけど、絶対に前々から準備していたよね……?」

「うふふ、どうでしょうか」


 僕はジト目で睨むも、聖女はクスクスと微笑むばかり。

 ああもう、なんだかしてやられた気分なんだけど。


「ふむ……まあいいじゃないか。今回の件、たとえ三日前にラティア神聖王国を通じてミネルヴァ聖教会から各国に対して会議開催の通達があったとしても、今となってはどうでもいい話だろう?」


 オフィーリアは、僕と聖女を見ながら口の端を持ち上げる。

 へえー……今日の会議、三日前から決まっていたんだ。


 で? バツが悪くなった聖女は、白々しくプイ、と顔を背けているし。この腹黒め。


「……ただ」

「? ただ?」

「ルートヴィヒさんがガベロットであのような事態になっているのは予想外でしたし、ガベロットの参加も考えていませんでした。そして、今回の会議に帝国は参加しないとも思っていたんです」


 聖女は視線を戻し、真剣な表情で話す。

 どうやら、諸々含めて聖女……いや、ミネルヴァ聖教会にとって予想外の事態ではあったみたいだ。


「とはいえ、ガベロットでのイスタニアの軍事行動の事実や帝国の参加表明は、出席した国の参加を決定づける要因となりました。ですから、ルートヴィヒさんとジルベルタ先輩には、感謝の言葉もありません」


 聖女が、深々とお辞儀をする。

 僕としては、破滅フラグを回避する意味でもバルドベルク帝国が西方諸国で孤立するのを避けたかったという打算的な意味もある。


 だけど……僕は、イスタニアが許せなかったことも事実。

 カレンをこんな酷い目に遭わせた挙句にガラクタのように棄て、ジル先輩の実家をメチャクチャにしたんだから。


 それに。


「ナタリアさん、顔を上げてください……僕は、僕の大切な人達を苦しめる連中には、絶対に容赦しないだけですよ」

「ルートヴィヒさん……」


 見つめる聖女に、僕はニコリ、と微笑んでみせる。

 その大切な人達の中に、もちろん聖女も含まれていることを言外に告げながら。


「フフ! それでこそ私の認めたルートヴィヒだ!」

「あいた!」


 そんな空気を台無しにするかのように、オフィーリアがバシン、と僕の背中を思いきり叩いた。

 全く……相変わらず手加減無しなんだから……。


「うふふ。それでは、みなさんにお部屋をご用意しましたので、今夜の参加国による反イスタニア連合軍決起のための晩餐会までの間、そちらでお寛ぎください」

「あ、ありがとうございます」


 ということで、僕達は聖女に部屋を案内してもらった。

 だけど、各自個室が割り当てられている時点で、今夜はここに泊まっていけってことだよね……。


「ルイ様、こちらに専用の呼び鈴を置いておきますので、何かございましたらいつでもお呼びくださいませ」

「あはは、その時はね、それより……」


 うやうやしく一礼するイルゼの手を取り、僕はそっと顔を近づける。


「君こそ、ガベロットでは僕のために頑張ってくれたんだから、ゆっくり休んでね」

「はう……もう、ルイ様は……」


 頬を赤く染めながら、イルゼは口を尖らせた。

 うん、やっぱり僕の彼女、最高に可愛いや。

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