僕とワルツを①

「おおー……!」


 はい、ということでやって来ました。今日の晩餐会の舞台である、ラティア神聖王国の王宮へ。

 というか、王宮の全面が白一色に統一されていて、ある意味潔いなと思いつつも、こんなところに住んだら落ち着かなそうだなあ、とどうでもいいことを考えている自分がいたりして。


「さあ、中へ」


 聖女に促され、僕達は王宮の中へと足を踏み入れる。

 僕はもちろん、イルゼをエスコートしながらだ。


「ほう? バルドベルク帝国の皇太子殿下は、大勢の女性をはべらせているのだな」


 いや、言い方!?

 思わずツッコミを入れそうになりつつも、六人もの綺麗な女の子と一緒なんだから、そう思われても仕方ないなあ、と半ばあきらめつつ振り返ると。


「こ、これはギュスターブ陛下、大変失礼しました」


 よりによって声の主がギュスターブ皇王と分かり、僕は肩を落としながら深々と頭を下げた。

 関わり合いになりたくないんだから、お願いなので放っておいてください。


「ワハハ! まあ、英雄色を好むとも言うからな! それくらいでないと私も張り合いがないわ!」

「は、はあ……」


 豪快に笑いながら僕の背中をバシバシ叩くギュスターブ皇王。

 悪い人ではないのかもしれないけど、オフィーリアと同じく脳筋なのは間違いなさそうだ。


「ところで……話は変わるが、ルートヴィヒ殿下は今回の会議に参加しなかった、ベルガ王国をはじめとする国々についてどう思う?」


 前言撤回。この人、メッチャ情勢を見ている。

 何より、あえてベルガ王国の名前が出た時点で、イスタニアとの繋がりを含め色々とつかんでいそうだなあ。


「……僕は、このままでは西方諸国が二つに分かれ、最悪の事態も想定しておく必要があると考えています」

「うむ……」


 僕の言葉に、ギュスターブ皇王が頷く。


 ゲームの世界ではバルドベルク帝国対西方諸国の他の国全部という構図だったけど、今回はバルドベルク、ブリント、フォルクングという列強国による連合軍と、イスタニア、ベルガなどによる国々との、西方諸国を二分する争いに発展しそうな状況だ。


 もちろん、僕としてはできる限り戦争は避けたいけど、最悪の事態も覚悟しておく必要があるだろうね。


 あの『醜いオークの逆襲』とは状況が全然違うけど、バッドエンド回避と関わったヒロイン達の幸せ、そして、僕の愛するイルゼとの未来のために、僕は全力を尽くさないと。


「ワハハハハ! よい顔をする! 覚悟を持った、男の顔だ!」

「あ、あはは……」


 やっぱりバシバシと背中を叩くギュスターブ皇王に、僕は苦笑いをするしかない。

 でも、なんだか僕を認めてくださったみたいで、少し嬉しいな。


「今夜は来たるべき時に備えた宴だ! ルートヴィヒ殿下も、彼女達とともに大いに楽しむのだな!」

「あはは、はい!」


 破顔するギュスターブ皇王に、僕は笑顔で頷いた。


 ◇


「イルゼ、カレン、美味しいね!」

「はい!」

「……ん、おかわり」


 晩餐会が始まり、僕達は豪華な料理に舌鼓を打つ。

 なお、僕が食べる料理は全てイルゼによるチェック済みだ。


 ガベロットであんなことがあったんだから当然といえば当然なんだけど、イルゼはより神経を尖らせるようになった。

 ……いつか、こんな煩わしいことから解放されて、純粋にイルゼと料理を楽しみたいな。


 まあ、僕がバルドベルク帝国の皇太子である以上、それは夢みたいな願望なんだけど。


 すると。


「あ……音楽だ」


 楽団による演奏がホール内に響き渡ると、それに合わせてちらほらと席を立つ人達が。

 どうやら、ホールの中央でダンスをするみたいだ……って!?


「ルー君! 一緒に踊ろう!」

「わっ!? ちょ、ジル先輩!?」


 強引に腕を引っ張られ、僕は慌てて立ち上がる。

 いや、僕は重いからびくともしないんだけど、驚いて思わず反応しちゃったよ。


 でも……踊るのは、イルゼとがいいんだけどなあ……。


「ふふ……ルイ様、どうぞいってらっしゃいませ」

「は、はあ……」


 イルゼに笑顔で見送られてしまった。

 ハア……ま、まあそれくらいはいいか……。


 ということで。


「あはは! ルー君、ダンス上手だね!」

「そ、そうですか?」

「うん!」


 ま、まあこれも、帝立学院の入学パーティーでイルゼと踊った成果が出たってことでいいのかな?

 それよりも、さすがは第一王女。僕なんかより、ジル先輩のほうが圧倒的に上手だと思います。


「ね……ルー君。昨日も言ったけど、ボクは諦めてないからね? 二番目の席・・・・・は、ボクがもらうから!」

「あ、あははー……」


 僕としては、もはや愛想笑いを浮かべるしかない。

 ほ、本当に、どうしたものか。


 などと考えていると。


「ホラ! 次は彼女の番!」

「へ? ……って、わっ!?」


 トン、と僕の胸を押してジル先輩が離れたかと思うと、飛び込んできたのはカレンだった。


「カ、カレン!?」

「……ん。次はウチと踊る」

「は、はあ……」


 状況が理解できないながらも、僕はカレンの手を取ってダンスを踊る。

 カレンも元々イスタニアのお姫様だから、そのステップは軽やかで、僕なんかよりもはるかに上手だ。


「……ウチは、マスターが世界一大好き」

「はえ!?」


 突然のカレンの告白に、僕は思わず変な声が出てしまった。

 な、何なの唐突に!?


「……イルゼも大好き。だからウチは、マスターとイルゼと、ずっと一緒」

「ん……そっか。じゃあ、僕達はずっと一緒にいよう」

「……ん、約束」


 咲き誇るような笑顔を見せるカレンに、僕は思わず見惚れてしまう。

 だけど、そうだね……僕とイルゼ、カレン、ずっと仲良く一緒にいよう……って!?


「……バトンタッチ」


 カレンの手がそっと離れ、きめやかな白い手が僕の手に添えられた。


「うふふ……次は私です」

「ナタリアさん……」


 聖女は、まるで女神のような微笑みを見せた。

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