次なる商売の一手を考えてみよう
「あ! ルートヴィヒ様!」
情報ギルドの食堂を出て貧民街にある工場へと足を運ぶと、僕達を見つけたカーヤがぱたぱたと駆け寄ってきた。
彼女はまだ十三歳だけど、大人になったら絶対に今以上に美人になると断言できる。今もメッチャ可愛いけど。
「やあ、カーヤ。元気にしてたかい?」
「はい! ルートヴィヒ様のおかげで、こんなにも元気です!」
カーヤがスカートの
うんうん、元気があって何よりだ。
「ところで、ブルーノはいる?」
「ちょうど今、今後の経営について会議をしている最中です」
「そっか」
ということで、僕とイルゼはカーヤに案内され、ブルーノのいる会議室へと案内してもらった。
「で、そこはだな……って、カーヤ!」
「お兄ちゃん、ルートヴィヒ様をお連れしたよ!」
会議中の真剣な表情から一変、妹を見て顔を
というかブルーノの奴、最近は特に僕を睨んでくるんだけど……。
「……言っとくが、カーヤには手を出すなよ」
「なんでだよ」
とまあ、ここまでが僕とブルーノの挨拶みたいになっている。このシスコンめ。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「いや、僕も明日から夏休みで一か月不在になっちゃうからそのことを伝えに来たのと、事業のほうは順調か確認したくてね」
「おお! 順調も順調! むしろ人手も足りなくて困ってたところだよ!」
僕達は、ブルーノから経営状況について報告してもらう。
ふむふむ……確かに彼の言うとおり、かなり調子いいみたいだ。
「今じゃ作っても作ってもすぐにはけちまうんで、品薄状態が続いちまってさ……かといって、貧民街の連中は既にフル稼働で、どうにも手が回んねえんだよ……」
「ウーン……」
「オマケに、実は帝都だけじゃなく他の街、さらには
腕組みをしながら
あの『醜いオークの逆襲』では、革命戦士で“反バルドベルク同盟”のリーダーとして戦いに明け暮れていた彼が、今ではこんなに瞳を輝かせながら商売にのめり込んでいるんだからね。
「……なんだよ」
「いいや、何でもないよ」
ジト目で睨むブルーノに、僕はおどけながら肩を
「だけど、人手不足なら他の街の貧民街に求人をかけたら? 貧民街は帝都だけじゃないし、そうすれば……」
「既に近隣の貧民街から結構人が流れて来てんだよ。だけど、そうすると今度は、どうにも住まいがなあ……」
「あー、そういうこと」
この貧民街は、工場を建てたこともあって区画が手狭になっている。
そこに他所の街から既に流入してきているんだったら、確かに受け入れは難しいかー。
かといって、貧民街を出たところに他の街の貧民街から来た人達の住まいを用意したら、それはそれで無用な
ウーン…………………………あ。
「だったら、工場をもう一つ建てたら?」
「工場を?」
そう……この工場で手狭なんだったら、別の街に工場を建てればいい。
そうすれば、他の街の貧民街も一掃できるし、雇用だって拡大できるし、生産性も向上する。
「ブルーノだって僕がしたことを理解しているんだから、同じことを実践するのなんて簡単だよね?」
「あ、ああ、そりゃあな」
「だったら、支店を建てるのは悪いことじゃないよ。それに、長期的に見れば“シン・バルドベルク同盟”として組織が大きくなれば大きくなるほど、不測の事態が起きても耐えやすくなるし」
こういうのは、どんどん事業拡大して会社を肥大化させたほうが、経営的にリスクヘッジしやすくなるからね。
マニファクチュアによる一括生産体制の確立によるコストカットと商品の低価格化、それに事業拡大による組織の肥大化でびくともしない経営基盤を作る。
これが、僕の思い描いていた“シン・バルドベルク同盟”の理想形だ。
「だから、これからブルーノが考えていかなければいけないのは、ブルーノの手足となる人材の育成だよ。ここみたいに工場が増えれば増えるほど、そこの経営を任せられる責任者が必要になるからね」
「あ、ああ! そのとおりだ!」
商売の先の道筋が見えたことで、ブルーノが満面の笑みを浮かべた。
くそう。コイツもイケメンだから、笑うと絶対に女子ウケするんだよなあ。やっぱり僕の敵だ。
そんなことはないと分かっていながらも、不安になった僕はイルゼを見やる。
「? ルイ様、どうかなさいましたか?」
「ううん、何でもない」
「?」
よかった……やっぱりイルゼは、ブルーノには一切興味がないみたいだ。
イケメン相手じゃ、“醜いオーク”で喪男の僕には太刀打ちできないからね。
本当に、イケメンなんて滅べばいいのに。
まあ、それについては置いといて。
「……やっぱり、
「ルートヴィヒ?」
ブルーノが、不思議そうに見つめる。
それは、
「ああいや、僕としてはこれくらいじゃ全然満足できないってことだよ。“シン・バルドベルク同盟”は、
「! あ、ああ! そうだな!」
僕達は“シン・バルドベルク同盟”のこれからの未来に向け、気勢を上げた。
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