勉強会って、意外と勉強できないよね

「むむむむむ……どうして期末試験には筆記試験などというものが存在するのだ……っ」

「ごちゃごちゃ言わない」


 放課後、僕とイルゼ、オフィーリア、ナタリアさん、クラリスさんの五人で、来週行われる期末試験に向け、帝立学院内にあるサロンで勉強会を行っている。


 帰ってから勉強してもよかったんだけど、寄宿舎って男女別々だし、共同利用できるスペースとなると、食堂か玄関ロビーしかないからね。

 そんなところで勉強したら、他の生徒達もいるし集中できない。というか、絶対に嫌な視線を向けられるのは間違いないから。


 その点、帝立学院ならこのサロンみたいな部屋はたくさんあるからね。実際、他の王侯貴族も、同じようにサロンを利用していると思うよ。

 何といっても、期末試験はチーム・・・ワーク・・・重要・・・だから・・・


「それにしても……筆記試験はともかく、実技試験がチーム戦だとは思いもよりませんでした」

「そうだね」


 ここ帝立学院では、前期の七月と後期の十二月の二回、期末試験を実施する。

 で、期末試験は毎回筆記と実技が行われ、筆記はともかく実技に関しては生徒同士での対戦形式となっていた。


 しかも、二対二のタッグマッチだ。


 王侯貴族に対戦バトルなんて必要なの? と、僕もその事実を聞かされた時は耳を疑ったけど、そういう決まりらしいので大人しく従うしかない。


 それよりも。


「問題なのは、パートナーが当日まで分からないこと、だよなあ……」


 そう……実技試験では、試合を三回行うんだけど、タッグを組むパートナーは教師達によってランダムに選ばれる。

 これ、ボッチにとってはハブられることもないため、パートナーとコミュニケーションをとらないといけないというハードルはあるものの、非常にありがたいシステムではある。


 だけど、単にコミュ障のボッチなだけならともかく、仲が悪い者同士だった場合、常にギスギスした状態で試合を行わなければならない。


 しかも。


「……僕、試合中に後ろから刺されるかも」


 ただでさえ帝立学院で一番嫌われている“醜いオーク”の僕だ。

 試合にかこつけて二対二のタッグマッチが、あっという間に一対三のハンディキャップマッチになる可能性だってある。


 試合だったら、ソフィアの従者トーマスがやらかした時のように、おとがめを受けたりすることもないし。何なら僕を痛めつけ放題だし。


「ご安心ください。このイルゼめが、そうなる前にパートナーと対戦相手を先に始末いたします」

「イルゼ、ちょっと認識を改めようか」


 僕のためとはいえ、イルゼの提案する解決方法はいつも殺伐としていて困るよ。


「まあまあ、実技試験のパートナーに関しては、なるようにしかならんのだ。今から心配していても仕方あるまい」

「そうですね。ですが、オフィーリアさんの場合は、その前に筆記試験の心配をしたほうがいいんじゃないですか?」

「うぐう!?」


 聖女にツッコまれ、おおよそメインヒロインとは思えないような声を出すオフィーリア。

 確かに脳筋ヒロインには、筆記試験はつらいものがあるよなあ。頑張りたまえ。


「ルートヴィヒさん、ここなんですが……」

「ん? どれどれ……ああ、ここは……」


 唯一真面目に勉強していたクラリスさんに質問され、僕は丁寧に教えてあげる。

 フフフ……こう見えて僕は、このメンバーの中で聖女と並んで一番頭がいい。


 というか、帝立学院の授業のレベルは前世では中学一年生レベル。一方で、僕は大学生だったんだから、これくらいは余裕なのだ。


「うふふ……剣を交えればオフィーリアさんと互角に渡り合え、勉学においても誰よりも優秀、まさに帝国期待の星ですね」


 実際は期待されるどころか、忌み嫌われているけどね。

 僕がちょっといい成績を取ったところで、どうせ『カンニングした』だの『皇太子権限で教師を懐柔した』だの、散々なことを言われるのが目に見えているよ……って。


「ナ、ナタリアさん!?」

「クラリスさんばかりでなく、私にも教えてくださいますか? それこそ、手取り足取り……」


 隣に来た聖女がぐい、と胸を押し付け、僕の顔をのぞき込む。

 あざとい。色々とあざとい。


「だ、駄目だ! ルートヴィヒは私を教えるので手一杯なんだ! そもそもナタリアは勉強ができるのだから、教わらなくてもいいだろう!」


 意外にも、オフィーリアが僕を独占しようとしている。

 だけど、彼女の悲壮な表情を見るに、そこまで追い詰められているんだなあ、と同情の念を禁じ得ない。


「あらあ……まさか、ここにきてオフィーリアさんが参戦してくるなんて、思いもよりませんでした」

「あ、当たり前だ! 今回ばかりは、私も必死なのだ! もし及第点が取れずに本国の父上や兄上、姉上達に知られれば、私の夏休みが台無しになってしまう!」


 思ったよりもくだらない理由だった。

 むしろこの際なので、赤点を取って心を入れ替え、勉強三昧の夏を過ごせばいいんじゃないかな。


 そんなことより。


「…………………………」


 瞳からハイライトが消えたイルゼの機嫌をどうやって取ろうかと考えるあまり、僕は勉強に全然集中できなかったよ……。

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