第3話 置いてけぼりの三十人
そして予定出発時刻からゆうに三時間は経ってからようやく離陸のアナウンスがかかる。
何とかトラブルは直ったらしい。
やれやれこれでやっとイタリアに向かえる。
独特の加速、そして浮遊感に身を任せ、飛行機が軌道に乗って安定して飛び始めたその時だった。
ガガガガガガ!!!
凄まじい音とともに飛行機が左右に揺れ、機体が大きく軋んだのだ!!
えっ、、、ヤバくない!!???
過去の搭乗体験と比べても、この機体の揺れと音はダントツにやばかった。
左右に大きく小刻みに揺れ続けたかと思えば、上下にガコンガコンと機体が揺れる。
離陸三十分ほどで飛行機は凄まじく揺れ、左右にぶれた。
窓の外に山脈の頭頂部が見えたことからおそらくアルプス山脈の上かなんかを通過していたのだろう。
キャー!!!、ウォォオッォ!! という悲鳴が断続的に起こる機内の中、私は数十年ぶりに父の腕にしがみついた。死を覚悟していた。
きっと飛行機が墜落して、このまま私たちはアルプス山脈の雪の中に叩きつけられるのだ……! ハリソン・フォードやトム・ハンクスなら生き延びられるかもしれないが、ただの凡人大学生である私には土台無理である。死ぬしかない。
人生で最も死を覚悟した数時間はしかし過ぎ去り、やがて飛行機は着陸のアナウンスを告げた。
スーッと高度を落としていく飛行機。そして滑走路に降り立った衝撃が床をかすめ、飛行機は静かに停止をした。
「ブラボー!」
誰かはわからないが陽気な外国人が声を上げる。機内は拍手喝采だった。私も拍手をした。
ドイツからイタリアまでは二時間ほどあれば着くことができるのだが、離陸前のトラブル対応のせいで計五時間ほど機内に缶詰にされていた。
ともかく、生きている。
生きているということをこれほど実感した瞬間はなかったし、安堵したこともなかった。
荷物を降ろし、荷物受け取り場でベルトコンベアに乗ったトランクを降ろす。
しかしまだこれで終わりではない。
むしろここからが始まりである。
電光掲示板を見ると、当然ながら乗るはずだった日本行きの便は飛び立ってしまっている。到着ゲートにて左右を見回すと、期待していた私たちの到着を待つ旅行代理店とみられる人間も、いない。
この時、時刻は確か午後の十時を過ぎていた。
人気というものがほとんどない到着ターミナルの一角で呆然と立ち尽くした。
私だけではなく共に来たツアー客三十人全員が同じリアクションを取っていた。
置いていかれた。
置いてけぼりだ。
ーー十二月二十三日、クリスマスイブ前日に、まさかのツアー客三十人がイタリアの空港に置き去りにされた瞬間だった。
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