第2話 えっ?飛行機が故障ですか??
さて、そしてたどり着いたドイツの某空港。すでに添乗員はフランス行きの飛行機に乗るべく別のターミナルへと行ってしまった。残されたのは帰国する三十人のツアー客のみだ。
だが、あとは飛行機に乗ればいいだけだ。乗ってイタリアに行き、そしてそこから日本の航空会社の発着するターミナルまで行き、飛行機に乗る。まあトランジット(※飛行機の乗り継ぎのこと)は多少不安があるものの、そこまでのルートについてはすでに聞き及んでいるし、案内板があちこちに英語で出ているのできっと大丈夫だろう。
当時の私は圧倒的個人旅行派であり、ツアーに申し込むことの方が少なかったので英語ならば割と読めるし喋れた(今はもう無理)。なのでそれほど不安に思うこともなく、大人しくローマ行きの飛行機に乗り込んだのだ。
指定の席についてやれやれと息をつく。
季節は十二月。きらびやかなドイツ旅行ともこれでお別れ、少々の寂寥感と日本に帰れる安心感がせめぎ合う中、飛行機が飛び立つのを待った。
しかし離陸時間になっても、飛行機は飛ばない。
なぜだろう。
だんだんざわめく乗客の上、スピーカーからアナウンスが流れる。
ざっくりとした内容は「扉のトラブルがあったため急遽修理をしている」というようなことだったと思う。
この時は「まあトラブルって言ってもすぐ直るでしょ」てなもんである。
しかし待てど暮らせど飛行機は飛ばない。すでに三十分は経過している。
どうしたのか。
少し不安に思った私であるが、できる事など何もない。
時計を見た。時間はもう一時間ほど経っている。
扉の修理ってこんなに時間かかるもんなの? 大丈夫? 代替機ないの?
様々な感情が胸に去来しつつ、しかし繰り返すが私にできる事など何もない。
と、こんな音が外から聞こえてきた。
ウィーーーーン!! ガガガガガガガ!!! チュインチュイン、キューーーン!!!
めちゃめちゃ工事してる!
なんかもう、思っていたのと全然違う大規模な修理音が飛行機の扉部分から響き渡り私の不安は一気に高まった。
こんなに大掛かりな工事が必要な飛行機が、飛べるの? 飛んでいいの? え、大丈夫!?
だが飛行機を降りるという決断に踏ん切れず、心が落ち着かないままに十分おきに時計を見つめるようになった。
ドイツからローマってフライト時間どのくらいだっけ? ローマから乗る予定の日本行き飛行機の出発時刻は何時だったか。ドイツとイタリアって時差あったっけ? ギリギリにイタリアに着いたとして、ターミナルを走れば間に合うかな……。
様々な感情が胸を去来し、どんどん高まる不安。
さすがに同乗している他のツアー客も不安になったようで、皆近い席の人たちと話し始めた。
「大丈夫かよ、これ」
「もしトランジットに失敗したら、どうなるの……?」
「さすがにツアーで申し込んだんだから、誰かイタリアの空港で待っててくれてるわよねぇ?」
そんな声がそこかしこで聞こえてくる。
しかし私も、最後の声に同意した。
そう、今回は個人旅行ではなくツアー。だったらトランジットに失敗したとしてもきっと何らかのフォローがあるに違いない。三十人もの人間が搭乗予定の飛行機に現れないとなれば、グランドスタッフの誰かがおかしいと思い調べるのではないか? そして我々のドイツ出発が大幅に遅れてしまったことに気がつくのではないか。イタリアに降り立ったらきっと誰か旅行代理店海外支部の人間が待っており、代わりの飛行機のチケットを手配してくれているはずだ。
そんな一縷の思いにすがりつつ、とにかくさっさと飛行機よ離陸してくれと切に願った。
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