21 呼び出し

 夏休みが明け、二学期がやってきた。やっとの思いで宿題を終わらせ、あたしは軽い足取りで放課後の部室に行こうとしていた。


「ちょっと、そこの一年生」

「は、はい!?」


 声をかけられたのは、二年生の女子二人組だ。そのどちらにも面識は無い。あたしが戸惑っていると、無理やり校舎裏まで付き合わされ、話をされた。


「文芸部に入り浸ってるのってあんたよね?」

「その……部員なので、当然ですけど」


 二人の女子は、あたしをジトリと睨みつけている。どうしよう。こわいが逃げるのもこわい。ここは大人しく、彼女らの話を聞くしかない。


「誰が目当てなの?」

「まさか三人全員? 感じわるーい」

「えっ!? 誰が目当てとか、そんなの無いですよ!?」

「嘘ついてんじゃないわよ!」


 どうしよう。彼女たちは、とんでもない誤解をしているようだ。ここはきっちりと解いておかないと、先輩たちにも迷惑がかかるだろう。だからあたしは言った。


「嘘なんかじゃありません! あたしは本気で小説が書きたくて、文芸部に入っているんです! 現に、三十三話まで書き終えました!」

「はぁ? あんたの小説の話なんかどうでもいいっつーの」

「どうでもよくないです! あたしは真剣に、悪役令嬢モノを愛しているんです!」


 そこへ、鋭く低い声がかかった。


「お前ら、何してんの?」

「る、瑠可くん……」

「瑠可先輩!」


 相当苛立っているのだろう。瑠可先輩の顔から、いつもの柔和な笑みは消えており、二人の女子たちを威嚇するかのように舌打ちをした。


「うちの優衣に文句つけんなよ。それにお前ら関係ないだろーが」

「そ、そうだね。ごめんね? 瑠可くん」

「謝るんなら優衣に謝れよ」

「ご、ごめんなさい!」


 蜘蛛の子を散らすように、二人は駆けていった。取り残されたあたしは、心臓をバクバクさせながら、瑠可先輩と対面した。彼の顔は、いつも通りに戻っていた。


「その、ありがとう、ございます」

「いいって。っていうか、ごめんな? 俺、最初から聞いちまってて、ずっと出るタイミング伺ってたの」

「そうだったんですか!? もっと早く助けて下さいよ!」

「いやぁ、優衣がどこまでやれるのか、確かめたくてさ。よく言えたな、小説に対して本気だって。偉いぞ、優衣」


 そう言って瑠可先輩は、あたしの頭を撫でてくれた。そうされると、我慢していたものが溢れだしてしまった。


「おい、泣くなよ……。まるで俺が泣かしてるみたいじゃねぇか」

「ひぐっ……だって……」

「あーもう泣きたいだけ泣け。なっ?」


 トントンと優しいリズムで肩を叩かれ、あたしはようやく泣き止むことができた。

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