20 夏休みの宿題

 合宿が終わり、あたしは学業と作家業の両立に追われていた。なんて言うと偉そうだけど、要するに宿題が大変だったのだ。

 あたしの小説には、最低でも三つの閲覧数がついていた。もちろん先輩たちだ。物語は、アンが暴漢に襲われ、エレノアが華麗に救い出すところまで来ていた。

 それにしても、本当に勉強がはかどらない。迷った挙句、あたしは祥太先輩に助けを求めることにした。彼の成績が学年トップだという快人先輩の言葉を思い出したのだ。


「優衣ちゃんの方から誘ってくれるなんて、嬉しいよ!」


 図書館前で落ち合った祥太先輩は、満面の笑顔を見せた。


「どうぞ、よろしくお願いします!」


 あたしたちは閲覧スペースに向かい、そこで主に数学の宿題を見てもらった。


「どれどれ? これは……うん、最初の公式の当てはめ方が間違ってるね。だから全部ずれる。一つ前の単元に戻ろうか?」

「はい!」


 祥太先輩の教え方は、決して分かりやすいとは言えなかったが、それでも懸命に何とかしてくれようとしてくれるのが分かった。それがとても有難かった。祥太先輩だって、自分の宿題があるはずなのに。


「ふう……休憩しよっか。カフェかどこかに行く?」

「あっ、はい!」


 二時間ほど経ったころ、祥太先輩がそう言うので、図書館の隣にあるカフェへ二人で向かった。あたしはアイスコーヒーを、祥太先輩はカフェラテを注文した。


「なんか、ごめんな? おれ、勉強分からない人の気持ちがよく分かんなくてさぁ……」

「いえいえ、とんでもないです!」

「おれさ、元々もっと上のレベルの高校目指してたの。それが全落ちして、ここに来たってわけ」


 なるほど、それなら祥太先輩の学力の高さも納得だ。


「あたしは結構無理してここ受けたんですよね。だからちょっと、しんどくて」

「そっか。そもそも、どうしてうちの高校を志望したの?」

「文芸部があると聞いていたからです」

「あ……そっかぁ」


 祥太先輩は眉根を下げ、カフェラテを一口飲んだ。


「優衣ちゃんにとって、小説って本当に大事なものなんだね。おれ、それもよく分かんなくてさぁ」

「いえいえ、いいんです。義理でも何でも、読んで頂いているんですから」

「それで、これからエレノアはどうなるわけ?」

「よくぞ聞いてくれました!」


 それからあたしは、今後の展開について祥太先輩に話した。騎士団長のセオや幼馴染のアランが絡んできて、余計にエレノアの周囲がややこしくなるといった筋書きだ。


「その、アランっていうのはずっとエレノアのことが好きだったの?」

「そうなんです。小さい頃から一途に想っているんですよ。それがまた泣けるんですよねぇ」


 勉強の話は祥太先輩とはレベルが合わなさすぎるが、小説のことならいくらでも言える。

 あたしは、アイスコーヒーが尽きた後も、アランのことについて彼に喋りまくった。そうして、スッキリとした気分になってから、また少しだけ宿題を手伝ってもらい、その日は図書館で別れた。

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