15 夏休みの相談

 季節が進み、段々暑くなるにつれて、あたしの執筆意欲も燃えてきた。エレノアの物語の構想が、どんどん進んできたのだ。

 エレノアに転生した主人公は、どうせ婚約破棄されるのなら、とアンが登場する前に、ジュールから嫌われようと画策する。そして、乗馬や武芸に励むのだが、そのせいで騎士団長のセオとのフラグが立ってしまい、ついでに幼馴染のアランとの仲も進展してしまう、といった寸法だ。

 そして、アンが登場してからは、彼女を虐めるのではなく守る立場に徹する。そうすると、何故かジュールからの株も上がってしまい、婚約破棄されるどころかますます好かれてしまう……そんなストーリーを思いついたのである。


「ねえねえ、どう思いますか!?」


 七月上旬。クーラーの効いた部室で、あたしは先輩たちに詰め寄っていた。このプロットで突き進んでもいいのかどうか、確かめたかったのだ。


「別に、いいんじゃね?」


 瑠可先輩は、スマホから目を離さずにそう言った。


「おれもいいと思う! コメディタッチでいく感じ?」

「そうです、祥太先輩!」

「明るい物語の方が、読者層も厚くて良さそうですね」

「そうでしょう! 快人先輩!」


 一人は至って興味なさげだが、二人からは快くゴーサインを貰えた。あたしは続きを書くべく、ノートパソコンに向かった。少しずつだが、タイピングも早くなってきて、あたしの思う通りの文章がキーボードから生まれていった。


「それよりさ、夏休みどうする? 去年みたく合宿するか?」


 合宿。確かに瑠可先輩はそう言った。


「合宿って何ですか?」


 答えてくれたのは、快人先輩だった。


「去年、うちの別荘に二人を泊めたんですよ。高原にありましてね。何も無いところですけど、確かに執筆にはうってつけかもしれませんね」

「良いですね! ぜひやりましょうよ!」


 あたしの心は踊った。夏季休暇に別荘で小説を書くだなんて、いかにも作家っぽくて素敵じゃないか。しかし、とあたしは思った。


「ただ、その間先輩たちは何してるんですか? っていうか、去年は何してたんですか?」


 祥太先輩が答えてくれた。


「去年はね、川遊びして、夜は花火したな! 野郎三人で!」

「あれも良かったですけど、今年はより楽しみが増えましたね。優衣さんが居るんですから」


 快人先輩は、泊めてくれる気満々だ。あたしはガッツポーズをした。


「じゃあ、良いんですね!?」

「もちろんですよ。日にちはどうしましょうか……」


 とんとん拍子に話は進み、八月上旬に「合宿」が開かれることになった。

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