14 白いウサギ
ドリンクバーで、予定外に時間を潰してしまったあたしたちは、そのまま帰っても良かったのだが、快人先輩の鶴の一声で、最後にゲームセンターに寄ることになった。
「僕、こういうの得意なんですよ」
「意外ですね!?」
自信満々にぬいぐるみの台に向かった快人先輩は、コインを入れた。狙っているのは、真っ白なウサギだ。しかし、言葉とは裏腹に、彼は何度も失敗した。
「今日は調子が出ないようですね……」
「本当だね、快人。いつも一発で取れるのに」
「そうなんですか? 祥太先輩」
「うん。こいつ、家にアホほどぬいぐるみあるんだよ」
快人先輩の可愛い一面を見られたところで、今度は瑠可先輩が名乗りを上げた。
「俺がやる。貸してみ?」
いつの間にか両替をしていたようで、瑠可先輩はいくつもコインをつぎ込むが、上手くいかない。今度は祥太先輩もやってみたが、ダメだった。
「あーもう悔しい! おれが優衣ちゃんにプレゼントしたいのに!」
「また張り合うのやめてください!」
ウサギは丸い瞳をこちらに向け、まるであたしたちをあざ笑うかのようにそこに居た。これだけ先輩たちがやっても上手く行かなかったんだもの、どうせあたしがしたところで……とは思ったのだが、試しにやってみた。
「あ、取れた」
「えー!?」
先輩たちが三人揃って悲鳴を上げたとき、コロン、とウサギのぬいぐるみが取り出し口にやってきた。あたしはそれを掴むと、自慢げに突き出した。
「欲しいものくらい、自分で取ってみせます!」
まあ、別にそこまで欲しいとは思っていなかったんだけど、先輩たちをからかってやりたくなったのだ。あたしの言葉に、三人ともがっくりと肩を落とした。服のときといい、結局は誰も勝てなかったのが、あたしには面白く感じられてしまった。
ウサギのぬいぐるみは、小型犬ほどの大きさがあった。それを抱きしめると、少しだけ甘い香りがした。そういえば、エレノアも動物好きなんだっけ。そういう設定にしていたことをふと思い出した。
「この子の名前、どうしましょう?」
あたしがそんなことを言ってみると、先輩たちは口々にこう言った。
「ショータにしてもいいよ!」
「はぁ? 気持ち悪いこと言うなよ。ルカ、は無しな」
「僕はカイトでも良いですけど?」
「何で先輩たちの名前をつける流れになってるんですか!」
結局あたしは、その子にマルという名前をつけた。瞳が丸いからマル、だ。
こうして、先輩たちとのお出かけは終わった。あたしは服の入った紙袋と、マルを入れたビニール袋を提げて帰宅した。
「そうだ、エレノアの食の好みについて書いておかないと!」
夕飯まで時間があった。あたしは部屋着に着替えることもせず、そのままノートに向かい、ファミレスで浮かんだ案を次々に書き込んでいった。
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