13 飲み物談義
さて、昼食も終わり、あたしはまた瑠可先輩にドリンクを持ってきてもらった。アイスコーヒーだ。
「へぇ、優衣ちゃんブラックで飲むの?」
祥太先輩がそう聞いてきた。
「はい。祥太先輩はコーヒー飲まないんですか?」
「おれはどっちかというと紅茶派。快人は……あの通りだ」
快人先輩は、キャラメルマキアートを飲んでいた。甘いものが好きなのは、これまたお菓子の趣味でよく知っていた。瑠可先輩が言った。
「快人はお子様だよな。優衣、俺もブラック派」
「同じですね」
「この中じゃ一番、食の好みが合うんじゃね? どうよ、優衣」
「えっと……どうですかねぇ」
そうして、先輩たちが飲み物について語り始めたとき、あたしはエレノアのことを考えてしまっていた。そういえば彼女はコーヒーを飲むんだろうか。紅茶をたしなむ描写は入れるつもりだが、コーヒーのことは考えていなかった。彼女のことだから、砂糖を入れないと飲めないんじゃないか、とまで想像が膨らんだとき、祥太先輩に肘で小突かれた。
「優衣ちゃん、話聞いてるー?」
「ごめんなさい! 聞いてませんでした!」
「ったく、お前一応後輩なんだから、先輩の話はちゃんと聞けよ?」
「まあまあ瑠可。こういう素直なところも可愛いじゃないですか」
三人の目が、じっとあたしに注がれていた。それに耐えきれなくて、あたしは聞かれてもいないのに喋り出した。
「その、エレノアはコーヒーを飲むのかなあって考えてて」
先輩たちはそれを聞いて、一斉に吹き出した。
「おいおい優衣、こんなときにまで悪役令嬢のこと考えてるのかよ?」
「そ、そうですよ瑠可先輩。悪いですか!?」
「いやいや、悪いことないよ。やっぱり可愛いよね、優衣ちゃんって」
快人先輩に続き、祥太先輩にも可愛いと言われてしまった。
「その、そんなに可愛い可愛いって言われると照れるんですけど……」
「照れている、ということを口に出せる時点で素直ですね、優衣さんは」
「はぁ、そうなんですか」
入部してから一か月半。この先輩たちは、小説の内容以外については、何かにつけあたしを持ち上げてくる。それにあたしは、全く慣れないでいる。
しかし、どうしてこの人たちはそんなにあたしのことを褒めるんだろう? 褒めるなら、作品についてもっと褒めて欲しいんだが。やっぱり、元々悪役令嬢モノが好きでない方々にとって、あたしの小説は退屈なのだろうか。
「それじゃあ、どう思います!? エレノアはコーヒーを飲むのかどうか」
「そんなこと聞かれても」
瑠可先輩が呆れ顔でそう言ったが、あとの二人は真剣に考えてくれた。
「悪役令嬢でしょ? コーヒーくらい、ガツンと飲めるんじゃない?」
と祥太先輩。
「エレノアは繊細なところがあるんでしたっけ? でしたら、飲めないかもしれませんね」
「あっ、快人先輩よく分かってくださってる! そうなんです、エレノアは悪役令嬢ではありますけど、根は心優しいんですよ!」
あたしのエンジンがかかってしまった。それから、エレノアの食の好みについて、ああでもない、こうでもない、と話し込んでいる内に、一時間が過ぎていた。
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