第81話 5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと(9)
「僕は勤務年数がまだ足りないので、事務官補佐を名乗れないのです〜。なので、見習いという立場になります〜」
冥界区役所は「役所」というだけあって、立場の違いがきっちりとしているのだろうか。小鬼の働きぶりは補佐も補佐見習いも関係ないような気がするが、僕が口を出したところでどうなることでもないので軽く聞き流す。
「ふ〜ん。そうなんだ」
「見習いは、通常多くの事務官さまと一緒にお仕事をさせて頂いて、補佐に昇格した際に事務官さまから直接指名された者だけが、事務官付補佐という役職に就任します〜」
小鬼の説明に小さな疑問が生まれる。
「あれ? じゃあ、小鬼は小野さんの部下じゃないの?」
「形式上は、まだ小野さま付ではありません。しかし、小野さまに重用して頂いているので、僕は必ず小野さま付の補佐になるのです〜」
僕の疑問に対して一際大きな声で宣言した小鬼は、尊敬と固い意志の籠もった眼差しを事務官小野へ向ける。
「分かったから、さっさと話を進めろ。時間がないぞ」
事務官小野は、小鬼に向かって腕時計を見せつつ盤面をコツコツと指で叩く。その仕草にハッとすると、小鬼は少し口調を早めた。
「事務官付補佐になるには僕のように見習い職から始める事が一般的ですが、稀に違うルートから事務官付になる役職があります〜。それが、事務官付
事務官付補佐と事務官付特別補佐。ほぼ同じ役職名なのに分けて呼ぶ意味はあるのか。僕は首を傾げる。
小鬼の説明によると、小鬼の目指す事務官付補佐は冥界区役所での一定の勤務年数が必要だが、特別補佐は勤務年数は全く必要ないらしい。しかし、必ず五芒星を有している事が条件のようだった。
小鬼の声を聞きながら、僕は右膝へと視線を向ける。五芒星と呼ばれる赤黒くなった傷がそこにはある。
「そもそも、五芒星を獲得すること自体が稀なのですが、五芒星を獲得出来たとしても、事務官さまに取り立てられ身元の引き受けをして頂かなければ、事務官付特別補佐にはなれません〜」
五芒星を得ることは稀。事務官が身元引受人となり、地獄にいる者を取り立てることはもっと稀。つまり、事務官付特別補佐という役職に就く者は滅多にいないのだとか。
「事務官さんに取り立ててもらえなかったら?」
「残念ながら、五芒星の持ち腐れですね〜。五芒星を有するので、地獄にて少しは配慮されますが、基本的には他の方々と同様に地獄の試練を受け続けることになります〜」
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