第82話 5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと(10)

 そこまでの説明を聞いて、僕の頭の中には薄らとした可能性が浮かび上がる。小鬼のこれまでの言動を思い返しながら、僕は頭の中に浮かんだ可能性を口にした。


「つまり、小野さんが身元引受人となって、五芒星を得た僕を特別補佐に取り立て……た?」

「そうです〜」

「僕が、……冥界区役所職員?」

「そうです〜」


 頭に浮かぶ可能性を口にする度、小鬼は嬉しそうにそれらを肯定した。肯定される度、頭の中がクリアになった僕は、しまいには絶叫していた。


「えーーーーーっ!」


 そんな僕の声に、事務官小野は鬱陶しそうに眉を顰め、小鬼はポカンと口を開けて見上げていた。


「どうされました〜? 古森さん」

「ぼ、僕、冥界区役所の職員になっちゃったの?」


 自分の顔を指差しながら、僕もポカンと小鬼を見返す。


「そうですよ〜。先ほどから何度も……」


 そこでハッとしたように、言葉を切った小鬼は悲しそうな顔になり、おずおずと言葉を続けた。


「もしかして……古森さんは、冥界区役所の職員はお嫌でしたか〜?」


「い、嫌、というか、びっくりしすぎて……」

「お嫌ではないんですね〜?」


 小鬼は少しだけ目を潤ませつつ迫ってきた。


「う、うん。まぁ……」


 突然の展開についていけず曖昧に頷いた僕の返事を、小鬼は良いように解釈したようだ。


「お嫌でないなら、良かったです〜」


 ウルウルと瞳を濡らしていたものを瞬時に引っ込め、小鬼は笑顔全開で僕の両手を握る。


「……まぁ、最恐レベルの地獄に送られるよりは、いいのか……な?」


 小鬼に両手を握られながら、僕は独言る。小鬼は、本当に嬉しそうに僕の手をブンブンと上下させながら言葉を弾ませる。


「これからは、小野さまにお仕えする同僚ですね〜。仲良くしてくださいね〜。あ〜、でも、本当は、古森さんの方が役職が上になるんですけどね〜」


 小鬼の起こす振動に弄ばれながらも、小鬼の言葉を拾う。


「そ、そっか。小鬼と同僚か。なんか、それ良いかも」


 つい先ほどまで、自分にどんな処分が下されるのかと、ビクついていたことなどすっかり忘れて、僕は小鬼とわいわいと話をする。


 死んでから友達が出来るなんて、思ってもみなかった。これからは、小鬼となんでも話そう。


 事務官小野のことはまだ少し怖いけれど、彼ともたくさん話をしよう。小鬼が慕っている人だ。絶対に悪い人ではない。それに、なんてったって僕の身元引受人となってくれた人なのだから。


 小鬼との会話に花を咲かせつつ、そんな事を考える。

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