第42話 3.がとーしょこら色の思い出(14)

「彼、甘いものが好きで……特にガトーショコラが……」


 そう言いながら咲は、手元の紙皿へと視線を落とす。その顔はどこか少し悔しさが滲んでいる気がする。


 咲の話を聞きながら、僕はあることが気になった。


 確かにアイツは甘いものが好きだったけど、好物はシュークリームではなかっただろうか。


 そんなどうでもいいことを考えながら、咲の話に耳を傾ける。


「完璧とは言わないけれど、今日は上手く出来ました。だから、彼に渡そうと思って……学校の帰りに彼の家の前で彼のことを待っていたんです」

「それなら、渡せるじゃないか?」

「それが……帰ってきた彼は、既にケーキの箱を持っていて……」

「どういうこと?」


 咲は、グスッと鼻を鳴らす。


「どうやら、帰ってくるまでに他の女の子から貰ったみたいで……」

「ああ……なるほど」


 相槌を打ちつつも、僕はなんとなく不思議な思いだった。僕の知っているアイツは、咲一筋だったはずだ。他の女の子からスイーツをもらうなど、そんなことをするヤツだっただろうか。


 僕が考えている間にも、咲は苦しそうに声を出す。


「……め、迷惑だって……」


 その言葉だけは、本当に解せない。


「あのさ、本当にその彼は迷惑だって言ったの?」

「……はい」


 咲は、またグスッと鼻を鳴らす。


「う〜ん。僕が思うに、家に来てくれた女の子に、話も聞かずに、いきなり迷惑だって言うことはあまりないと思うんだけど、何か心当たりは?」


 咲は、ハッとしたように僕を見る。


「あの、実は……、私を最初に見つけたのは、彼と一緒に帰ってきた友達だったようなんです」

「うん」

「彼は、その友達に私とのことを囃し立てられたようで……」

「ああ、なるほど。一応、確認するけど」


 本当なら咲の口からは聞きたくない。けれど、僕は意を決して咲に確認する。


「きみは、その彼と付き合っているの?」

「いえ、幼馴染です。……私は、その……好きですけど……」


 分かっていた事を自ら確認して、僕の胸は小さく疼く。


 今は付き合っていないようだが、咲と弟の保は、現世では付き合っていた。


 もちろん二人は僕の気持ちなど知らない。


 僕は、仲の良さそうな二人を物陰からいつも見ていた。


「僕が思うに、その彼は本心で言ったんじゃないと思うよ。友達がいた手前、恥ずかしさから出ちゃった言葉だと思うな」


 ズクリとする胸の疼きを抑えながら、咲に声を掛ける。


 この空間にいる保も咲のことが好きなはずだ。


 僕にはそんな核心めいた思いがあった。

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