第34話 3.がとーしょこら色の思い出(6)

 そんな余裕な態度を恨めしく思いながら、再び目を閉じて気持ち悪さに耐える。


「あのー。大丈夫ですかぁ? 良かったら、このお水飲んでください」


 目を閉じている僕にそんな声が掛けられる。そして、目を覆っている手のひらにヒンヤリとした物が遠慮気味に押し当てられた。


「あぁ、ありがとう」


 テッテレ〜〜


 クリアを知らせるメロディが鳴り響くが、今はそれどころではない。


 目を閉じたまま手に当てられたそれを握る。形からするとペットボトルのようだ。それをそのまま目に押し当て、しばらくそのヒンヤリとした感触を感じていると、グニャグニャとした気持ち悪さが収まってきた。


 ペットボトルを目から外し、ボンヤリと目を開ける。次第に焦点が合ってきた。そして視界に飛び込んできたのは、心配そうにこちらを覗き込む少女の姿だった。


「あっ……あっ……」


 小鬼が飲み物を渡してくれたのだとばかり思っていた僕は、驚きのあまり声にならない声を出す。後ずさろうにも椅子に腰掛けているため上半身だけを大きく仰け反らせることになった。


「大丈夫ですかぁ? お水、さっき買ったばかりですから、飲んでください」


 少女はそう言いながら僕の左隣に腰掛ける。


「ど、どうして……?」


 僕は体を仰け反らせながら疑問を口にした。


「あ、お水ですかぁ? ちょうど飲もうと思って買ったところだったんですぅ」


 少女は、まるで花が咲いたかのような華やかな笑顔で答えた。


 僕は体を反らせたまま、少女を食い入るように見つめた。視界がはっきりとした今ならば少女の顔がよく見える。僕が見間違えるはずがない。


 なぜなら、目の前にいる少女は僕の想い人だからだ。


 想い人といっても恋人ではない。僕が秘かに想いを寄せている二つ年下の幼馴染。今回は、中学時代の間宮まみやさきに出くわした。


「あ、あの……どうし……て……」


 僕は再び同じ質問を口にする。語尾はほとんど聞こえないほどに声が掠れている。


 咲は僕の質問の意図がわからないのか、首を小さく傾げた。


「ど、どうして、声を……か、掛けて、くれたの?」


 今度は声が掠れないように喉に少し力を込めて声を出す。


「どうしてってぇ。お兄さんが辛そうにしてたから、具合が悪いのかなと思ってぇ」


 そう言いながら、僕を真っ直ぐに見つめるその瞳は心配そうに揺れていた。


 あまりにも真っ直ぐに見つめられ、彼女の視線に耐えられなくなった僕は手にしているペットボトルへと視線を移し、モゴモゴと口の中で言葉を詰まらせる。

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