第33話 3.がとーしょこら色の思い出(5)
僕がカップの中身を味わっているのを見ながら、小鬼は話を続ける。
「古森さんには感じられないかもしれませんが、冥界区にもちゃんと一日のサイクルがあります〜」
「うん」
「先ほど、こちらとあちらとでは時間の経過は計算できないと言いましたが〜、冥界区には膨大な蓄積データがありますので、本当は、ものすご〜く大まかな概算ならば出来ます〜。それにより、今回の研修日程は五日間と定められているのです〜」
「つまり、僕の誕生日までには間に合うということ?」
小鬼はコクリと頷く。しかしその顔はどこかスッキリとしていない。
「地獄の役人や、小野さまはそのおつもりです〜。しかし先ほども言ったように、人それぞれに体感時間は違いますし、ここに馴染めば体感時間が変わります〜。おそらくは早く時が流れることになるので、古森さんに時間がないことに変わりありません〜」
小鬼の言葉を聞いても、僕は先ほどのように取り乱すことはない。口にしている飲み物の効果だろうか。
「期間内に確実に終わらせるためには、どうすればいいの?」
「万が一の事態も想定されますので、確実という答え方は出来ません〜。しかし、今のように取り乱されますと、それだけ予定外の時間の消費になりますから、心穏やかに研修に臨むことが大事かと思いますよ〜」
「そっか。わかった。これからは気をつける」
僕が納得して頷いていると、視界がグニャリと歪んだ。
「あ、転送が始まりましたね〜。ではまた後ほど〜」
小鬼の間延びした声が僕の耳からだんだんと遠ざかる。
そして、僕は一瞬にしてグニャグニャになった。
目を開けると、辺りは白一色から一変、緑やらピンクやら茶色やら、たくさんの色の洪水に襲われた。視界の至るところに色が付いている。しかし視界がまだグニャグニャとしていて、その色彩がとても気持ちが悪い。
「ゔ……」
手のひらで目を覆いながら、少し顔を上げる。そのまま頭の重さで後ろへ倒れそうになるが、背もたれが僕の背中を支えてくれた。どうやら僕は椅子に座っているようだ。だが今は目を開けて周囲を確認する余裕はない。目を閉じたままひたすら天を仰ぐ。
「ゔぅ……気持ち悪い……」
「あら~。古森さん~。今日は転送酔いしちゃいましたか~」
小鬼は僕のそばにいるらしい。暢気な声が聞こえてくる方の目だけを薄っすらと開けて小鬼の存在を確認する。
僕の右隣にチョコンと腰掛けながら鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気を醸し出している。
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