第32話 3.がとーしょこら色の思い出(4)
途端にふっと肩の力が抜け、それまでの激しい焦りが少し落ち着いたような気がした。
手にしたカップをそっと机に置く。
「落ち着いたようですね〜」
僕の様子を足元から見上げていた小鬼も、ほっとしたように声を掛けてくる。僕は小鬼を見下ろし頭を下げた。
「ごめん。少し落ち着いた」
足元にいた小鬼は、その場で軽くジャンプをして机に飛び乗ると、僕と視線を合わせた。
「古森さん〜。こういう時も、ごめんより、ありがとうですよ〜。はい、ご一緒に〜。ありがとう〜ございます〜」
僕は小さな声で、しかし小鬼を真似てお礼の言葉を口にする。
「ありがとうーございますー」
「う〜ん。声が小さいような気がしますが、まぁ、良しとしましょうか〜」
僕と小鬼は互いに視線を合わせると、ふふっと笑い合う。
それから小鬼は一度ピシッと姿勢を正すと、少し事務的な口調で言葉を続けた。
「さて、古森さん〜。」
僕も少し姿勢を正して小鬼の顔をしっかりと見る。
「こちらとあちらの時間の流れが違うということは、以前にお話しましたよね〜?」
「うん。そうでした」
「そして、時の流れは、こちらで何日経ったからあちらでは何時間経ったと計算できるものでもありません〜」
「……そう……なの?」
「はい〜。人それぞれにここでの体感時間は違いますし、ここに馴染んでくれば体感時間が変わりますからね〜」
「ああ、そうか……」
僕は、最初の頃に説明されていたことをなんとなく思い出した。
「そうは言っても、それは、古森さんたちのようなこちらへ来たばかりの人たちの時間のことです〜。僕たち冥界区で仕事をしている者たちは、冥界区の体感時間を共有しているのです〜」
「……うん?」
僕は、小鬼の言わんとしていることが分からなくて首を傾げる。
「あ〜、わからないですか〜? う〜ん、取り敢えず時間がないことは確かなので、本日分の転送準備をしながらお話しましょうか〜?」
そう言いながら、小鬼は僕が先ほど置いたカップを少し僕の方へ押し、奨めた。
「もう、だいぶ落ち着いたけど……?」
「そちらは、少量でも効果テキメンですが、多く摂取したからと言って特に問題はありませんので、もう少し召し上がってください〜」
小鬼に促されカップに口を付ける。やはり、とても良い香りが鼻腔を
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