第21話 2.りんご色の風船に手を伸ばしたら(7)
小さな弟は手の甲で涙を拭い、鼻を啜りながら小さく頷いた。
そんな弟を残し、僕は小鬼を連れて風船が引っかかっている木の家へと向かう。
距離にして百メートルほど。コンビニの駐車場に隣接しているので移動距離は短い。難なく目的の家の前までは辿り着いた。しかし、問題は木だ。
敷地内の木に風船が引っかかっているため、どうしたって家主に声をかけなければならない。
家の前を行ったり来たり。ウロウロしていると、室内から大型犬の吠え声が聞こえてきた。僕の気配が気になるのだろうか。なおもウロウロしていると、小鬼に不思議そうな顔を向けられた。
「どうしたんですか〜?」
「い、いや。その、何て言えばいいのかなと……」
「そんなことですか〜。ありのままを言えばいいと思いますよ〜」
そう言われても僕には会話の糸口が見えない。
しばらく僕の様子を見守っていた小鬼だったが、ついに痺れを切らしたようだった。
「もう〜。いつまでそうしているつもりですか〜。もういいですね〜」
そう言うと、ピョンとジャンプをして玄関のインターホンを押す。
「あ゛っ……」
ーーピーンポーンーー
少しの間を置いてインターホンから女性の声がした。
“……はい?”
「あ、あのぉ…………」
言葉が続かずインターホンの前で固まる僕に、室内の女性は不信感を纏った声を向ける。
“何か御用ですか?”
「ふ、ふ、ふ、風船を……と、と、取らせて下さいっ!!」
“ふうせん?”
僕は用件を一気に捲し立てた。しかし、どうやら相手には伝わらなかったようだ。
「あ、あの……木に……」
言葉が尻すぼみになる。これ以上はなんと言えば良いのか分からない。インターホンを前にして無言で固まってしまう。だが、ようやく相手に伝わったようだ。
“あぁ。ちょっと待って下さいね”
インターホンが切られ、しばらくすると玄関から年配の女性が顔を覗かせた。
すると、この機を逃すものかという勢いで、玄関の隙間から大きな犬が飛び出してきた。僕目掛けて駆けてくる。ゴールデンレトリバーだ。
そうか。あいつの言っていた「大きいの」とはコイツのことか。
弟は犬が苦手だったことを思い出す。ずいぶんと小さい頃、たぶん彼が二、三歳の時だ。近所の犬に追い回されたことがあった。それがトラウマになったのか、以来どんなに小型の犬であっても近づかなかった。もちろん吠えたてる犬は論外だ。
この家の犬は外に人の気配を感じるだけで吠える犬だ。なるほど、彼には無理だろう。
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