第33話 友だち
大人たちに弄ばれたデートから数日経った。あれから、特に何もなく過ごした。花蓮とも、あれ以来リアルでは会っていないし、配信上でも特にそれについて喋ることがなかった。多分、バレていないのだろう。安心した。
昨日は夕方には配信を終え、夜にはホテルに泊まった。なぜなら、今日から3日間スクーリングが始まるからだ。スクーリングとは学校に通うことだ。普通の高校だと登校とか毎日しているだろう。だが、僕が通っている通信制高校は基本的に校舎に通うことがない。もちろん、こうして年に数回通わないと単位を貰えないというシステムがあるため、僕も今回やってきた。
通うだけなのにホテルに宿泊と疑問に思うかもしれないが、それは単純に通う所が遠い場所にあるからだ。都市に住んでいない弊害で、こうして宿泊をしないと登校が本当に困難だ。新幹線の始発や深夜バスに乗るとかあるけど、僕にはハードルが高かった。……一人だから怖いというわけではないよ?
さて、花蓮に選んでもらった服を着ておじさんに近くまで届けてもらう。ホテルから数分して目的地に着いた。そこはとあるビルのオフィスだ。こんなところにあるなんて、今の学校はすごいだなぁと思った。てか、普通にオフィス街のところにあるため、一見学校かわからない感じで、よりびっくりした。
エレベータに乗って、目的の階に移動する。ドアが開くと、オシャレな教室が目に入った。それと同時に、同年代らしき人たちや優しそうな大人たちがいたのに気付いた。僕は車椅子でその空間に入っていく。明らかに違和感しかないが……。
受付の人に学生証を見せ、自分の教室に入っていく。静かに後ろの席に着く。
「……うん(咳払い)」
わかっていたけど、結構色んな人に見られている。視線は奇異的、好奇心的など様々だが、普通に恥ずかしい。僕と同じく初めてスクーリングしている人が多いのか、周囲を見渡す人が多くいた。そして、車椅子に座っている僕は注目の的になっている。また、緊張の雰囲気も漂っている感じがした。僕以外人も、初対面の人が集まっているから仕方がないのだろう。
とりあえず、視線がなくなるまでスマホをいじる。緊張の雰囲気や視線に押しつぶされ、僕からは話しかけられませんでした……。
__________
十時、始業の時間だ。担当の職員の人による説明を終え、一時間目が始まろうとしていた。一時間目の授業はグループワークだ。グループで仲良くなってほしいという学校側の意図だよな。……終わった、僕には無理です。
「ここはこの4人にしようかな。始めて〜」
担当の職員の人に促され、僕のグループワークが始まった。
やっぱりか……。別に期待はしていなかった。明らかに僕は一歩引かれている。コミュニケーションをとっていても、距離感は遠いままだ。理由は明白で、この身体のせいだろう。みんなの目には、僕は障害者に見えるだろう。それでも、僕は僕が普通だ。僕は普通だと思っている。やはり、学校という空間は息苦しいな、そう感じざる負えなかった。
一日目が終わった。およそ八時間の授業だった。久しぶりに長時間勉強したため、結構疲れた。まあ、夕食はおじさんと海鮮丼を食べ、それがとても美味しくて、疲れがふっとんだけどね。
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2日目。今日も今日とて、素早く着替え、登校する。もちろん、この前花蓮と一緒に買った服を着て。
2日目も相変わらずの距離感だ。昨日よりはグループワークが減り、そこまで感じなかったが幸いだ。まあ、別に今日も期待はしていなかった。
さて、今日は放課後にレクリエーションがある。友達を作るにはぴったりな機会だろう。
「……いくか」
期待はしていない。だが、僕は自分を自分だと言ってくれる存在が欲しいのだ。自分から変えるしかないもんね。おじさんに今日は遅くなることを伝えた後、僕はレクリエーションの受付を済ました。
__________
「え、Valやっているんですか?」
「はい。全然強くないですけど。智樹さんもやっているんですか?」
「あ、はい。今一番ハマっているゲームです」
早速、レクリエーションに参加した。僕はゲームについて雑談するブースにいた。高校生ならゲームが趣味の人がいると思っていたが、なんと二人きりだった。見当違いで早くも心が俺そうだったが、幸運にも相手はValに知っている人だった。これなら話し合えるとホッとした。
「
「索敵ですかね。推しが使っているの真似てやってます」
「そうなんですね。僕はスナイパー使いが一番好きです」
「今強いですよね。やっぱり、スナイパーが好きなんですか?」
「はい。そうです。あっ、ダルですかトムですか?」
「僕は__」
それから僕たちはValについて語り尽くした。僕は普段ゲームのことを語ることがなく、今回の緋月さんとの会話は新鮮で面白かった。また今度、話し合いましょうと連絡を交換した。ぜひ、ゲーム内でも一緒にしたいなと思った。
緋月さんはなんだか不思議な人だった。なにより僕のことを特に何も思ってない感じがした。僕の勘違いかもしれないし、緋月さんが隠すのが上手いだけかもしれない。そんなことどうでもいいほど、僕はその姿に嬉しさを抱いた。
一歩踏み出せてよかった。その一言に尽きる。
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