第32話 偶然

 この前から少し経った。配信でも言ったが、今週から忙しくなる。なぜなら、学校に行かなくてはならいないからだ。配信ばかりしていたが、僕は腐っても高校生。学業に努めなくてはならない。まあ、通信制の高校のため、年に数回行くだけでいいだけどね。

 あと、大会が忙しくて、勉強してませんでした……。レポートを提出しなければならない。単位を手に入れるために頑張ろう。……憂鬱だけど。


 _________


「終わった……」


 あれから三日経過した。ようやく夏休みまでのレポートを終わらせた。しかし、普通に提出期限が過ぎている。担任の職員さんに迷惑を掛けました……本当にすみません。今度からは計画的に進めようと心に刻んだ。


 さて、次は学校に行く準備をしなくてはならない。来週の水曜日から三日間通う。そのため、学校がある市に泊まる予定だ。この体になって初めての旅行のため不安がある。そのため、今回はおじさんが有休を取り、僕と同伴してくれる。まあ、ちょっとした旅行だと思い、少しだけ楽しみだ。


「あれ、夏服ってあったけ?」


 今更気づいた。肝心なものがないことに気が付いた。外で着る用の服を持ち合わせていないことに。


 __________


「おじさんー。来週暇?」


 僕はおじさんに買い物に連れて行って欲しいと


「うん。あ、暇じゃない。買い物行かないと」

「あ、僕も買い物行きたい。そういや、夏服持っていなくて」

「そうだったな。またあのお店に行かないとな」


 あのお店とは障害者専門のファッション店のことだ。僕みたいな車椅子で生活している人でも、おしゃれに着れる服を製造している。僕の場合、トップではある程度普通の服でも着れる。しかし、ボトムは足がないためズボンがはけない。そのため、巻きスカートと言われているものを外出時は履いている。巻きスカートと言っても普通のスカートとはデザインや利便性が違う。だから、僕はあの店みたいなところで買ってもらっている。


「ちょうどいいか」

「うん?何が?」

「その日、ちょうど買い物する相手がいたけど、ついでに智樹も連れていこう」

「相手って?まあ、十中八九あかりさんだと思うけど」

「当たりー。まあもう一人来るけど」

「ふーん。誰なの?」

「それは会ってからのお楽しみにね」

「なんか含みあるなあ」

「気のせい気のせい。今週土曜日で、そうだな……10時ぐらいに外出るか」

「うん。わかった」


 おじさんがこんな風にするなんて絶対何かある、そう確信があった。週末が怖いなあ。


 __________


 そして、土曜日。久しぶりに寝坊した。理由は昨日いや今日の朝まで配信をしていたからだ。Valソロランクをしていた。大会中はあまりランクをしていなかったが、順調に勝っていた。何なら、過去一番勝ち続けていた。それで、負けるまでやるかというコメントに乗っかってしまった。朝になるまで勝てました。うれしい悲鳴だよ……。

 こんなことしてないで、早く準備しよう。朝ご飯を素早く食べ、少し暑いが春用の外服に着替えた。


「絶対暑いよな。この服装」

「まあ今日はショッピングモールだから大丈夫だろ」

「人混み嫌だなあ」

「休日だからな。仕方ない」

「よし、これでできたよ」

「行くか」

「うん」


 車でどんどんと市街に入っていく。そして、とあるマンションの駐車場に停車した。


「……高いね」

「うん?ああ、そうだな。いわゆる高級マンションだぞ」

「あかりさんってすごいだなあ」

「あいつ意外とすごい。ちなみに俺が副社長」

「はいはい。おじさんもすごいよー」

「雑だな。今から来るって、もういるな」


 ちょうど、マンションのエントランスから二人の女性が見えた。


「おはよう」

「おう、おはよう」

「智樹君もおはよう。今日はよろしくね」

「あ、おはようございます。こちらこそお願いしますー」

「乗ってくれ。あかり、花蓮は?」

「ん。いる」

「相変わらず、影薄いな。乗ってくれ」

「うるさい」


 もう一人とは小坂こさか花蓮かれんさんという女性だった。第一印象は、聞き覚えのある声だなあ。第二印象はモデルみたいな人だなあっと。あかりさんもモデル並みの容姿だから遺伝なんだろう。でも、あれあかりさんって既婚者だっけ?あんなにおじさんと仲良いからてっきり、そういう関係だと思っていた。いろんな疑問が頭に残っていた。


 __________


 乗車中、僕たちは親睦を深めるため雑談をしていた。それで分かったことは、あかりさんが思ったより仕事人間であることと花蓮さんが花蓮であること。前者はなんとなくそう思ってたけど、後者は日本語がおかしいしなかなか驚いた。

 圧倒的な口数の少なさ。独特な単語での会話。あとゲームが趣味であること。うん、間違いなく花蓮だと確信している。


 てかどう接すればいいだろうか。花蓮は気づいていなさそうだし。このまま、隠し通せるといいな。

 ネットはルート。リアルの僕は智樹、ただの智樹。自分の中ではこのような線引きがある。また、嫌われたくないという気持ちもある。普通ではないこの姿で受け止めてもらえるか。確かめるのも怖いことである。

 そんなことを考えているうちに、今日の目的地に着いた。


「よしっと」

「運転お疲れ様」

「おう。さてと、お二人さんは先に降りてくれ」

「はーい」

「ん」

「僕もと。よっこいしょ」

「下すぞー」

「うん」


 車の後方ドアからスロープを使い、僕は車を降りた。


「ありがとう」

「うん。行くか」

「どうする?一緒に回るの?」

「解散でもいいが、あかりどうする?」

「うーん、そうね。面白そうだしみんなで回らない?」

「うん」

「ん」

「……はい」


 これ、おじさんとあかりさんやっている。面白そうってもろ答えを言っているよ。僕と花蓮の関係を知られている上でこのような場を作ったということだろう。一気に不安になってきた。花蓮にバレないように神頼みをする僕だった。


 __________


 まずは、軽めのものの買い物ということで、僕の服から買いに行く。


「こんにちはー」

「いらっしゃいませ。あ、この前の人でしたか」

「はい。今日は夏服分を買いに」

「そうでしたか。夏服はこちらの方にあります」

「あ、ありがとうございます」


 おじさんが慣れたように、店員さんと気軽に喋っている。もちろん、僕には無理。素早く服選ぼう。


「ふーん。こういうのがあるんだ」

「また仕事モード入ったよ」


 大人たちが別の意識に取られているうちに。そう思っていたら意外にも花蓮が興味を持っているみたいだ。その姿を横目で見ていたら、気づかれたみたい。


「んー。……どうした?」

「いいえ。花蓮さんが意外にもこういう服に興味あるみたいだなあっと思っただけです」

「ふーん。私も服はあまり詳しくないけど、この服とか似合いそうだなって」


 そう言い、僕に水色と白色でデザインされた薄手のパーカーだった。偶然にもバーチャルの僕もこのようなデザインのパーカーを着ている。ママというかしゅうまいさん、デザインそっくりで今日初めて見たが親しみが持てた。


「わざわざ、見繕ってくれてありがとうございます」

「ん?別に大丈夫。あとこれとこれも」

「え」


 そして、花蓮は最後まで僕の服を選んでくれた。試着室を借りて、実際に着てみたり、その感想をもらったりと色々してもらった。ありがたいんだが、着せ替え人形の如く、たくさん着替えさせられて結構疲れた。まあ、この服たちを買えてよかった。




 次は、花蓮たちの番だ。花蓮が一人暮らしするから、そのための家電とか小物とかを買うらしい。大きものは揃っているそうなので、今日買ってそのまま新居に運ぶと言っていた。花蓮が一人暮らしではなかったことが意外だなと思った。

 僕は邪魔にならないところで待っておこう。そう思ったが、花蓮が許さなかった。


「智樹君、これどう思う」

「えっとそうですね。あるとオシャレですかね」

「ん」

「……うーん。わかんない(小声)」


 なぜか僕に意見を求めてきた。向こうが気づいていないとしたら初対面の相手にアドバイスを求めていることとなる。花蓮がどうして僕に聞いてきたがわからなかった。ちなみに、さっきあるとオシャレとは言ったものの、僕はオシャレとかその辺りの事がよくわかっていない。完全に人選ミスなのだ……。

 結局最後まで花蓮と一緒に買い物をした。てか、自分の服を買っている時は気づかなかったが、大人たちがわざと2人きりにしている。絶対悪意あるぞ。


「あれ、あかりと正宗は?」

「あそこです」

「あ、イチャイチャ中ね」

「……そっちですか?僕たちが意図的に二人きりさせられているのでは?」

「んー。意外と向こうも二人で楽しそう」

「確かに。そう思ってきます。あ、袋一個持ちますよ?」

「ん。ありがとう」


 その後、みんなでお昼ご飯を食べ、新居まで届けて解散した。そしてこの意図的なデートを終えた。最初はどうなるか不安だったが、どうやら花蓮にはばれていない様子でよかった。おじさんとあかりさんに関しては、自分たちだけで素直にデートできないと勝手ながらそう思った。……今度何かやり返してやろうかなとひそかに思った。

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